第十二章12-31シェルの花嫁
おっさんが異世界に転生して美少女になっちゃうお話です。
異世界で力強く生き抜くためにいろいろと頑張っていくお話です。
やってしまいましたわ‥‥‥(エルハイミ談)
12-31シェルの花嫁
「そうでしたか。我々も今後は認識を変えなけれないけませんね」
ファイナス市長はそう言って大きなため息をつく。
あの後ソルガさんも目撃した女ダークエルフのベスまで【身代わりの首飾り】を持っていたというのは今後の対ジュメルの考え方を改めなければいけない事案だった。
「まさかカルラ神父も同じなんじゃないでしょうね?」
シェルがあたしの肘をつつきながら小声で聞いて来た。
しかしあの時はカルラ神父の遺体は回収をして安置所に数日放置しても復活はしていなかったはず。
勿論伴侶のダークエルフルグシアも同じであったはずだ。
あたしはシェルに無言で首を横にふる。
しかし、そうなると全ての十二使徒が同じアイテムを保有しているとは限らないと言う事か?
確かにカルラ神父は巨人と共に襲ってきた時に防御にヨハネス神父の様に防御の魔法を使っていなかった。
その代わり「女神の杖」何て凶悪なものを持っていたわけだが。
「しかし、そうなるとやはり貴女たちに期待するしかありませんねエルハイミさん、シェル」
ファイナス市長はあたしたちを見る。
その表情は申し訳なさそうな、そして期待をした感じを受ける。
「勿論私もできうる限りの事はしますわ。嫌でもボーンズ神父はまた現れそうですし」
あたしはあの黒ぶち眼鏡の神父のイラっと来る顔を思い出していた。
そんなあたしの内心をよそにファイナス市長は別のとんでもない問題を提示し始める。
「エルハイミさんにそう言ってもらえると少し気が楽になりますが、もう一つの問題が有りますね。 シェル、あなたのご両親はあなたをこの村に留める為にユグラスとあなたを婚約させたいと言っています。あなたの気持ちはわかりましたしジュメル討伐にエルハイミさんに協力しているというのも理解します。しかしあなたのご両親も納得させなければ今後に差し支えるでしょう。そこで、あなたとエルハイミさんをエルフの村で結婚させようと思うのです」
「なっ!? 古参のエルフよそれはどう言う事です!? 主様とシェルを結婚させるですと!?」
「そ、そうですよ! お姉さまにはティアナさんと言う人がいるのですよ! じゃなきゃ私だってお姉さまと一緒になりたいのに!!」
とたんにコクとイオマが異論を唱える。
もちろんあたしだってその発言には驚かされている。
「ファイナス市長、私がティアナ一筋というのはご存じですわよね?」
「ええ、勿論です。ですからこれは形だけ。そうすればシェルの親御さんも納得せざるを得ません。私も今回の件には手を貸すと言いました。ユグラスには私からも話をします」
いやいやいや、それでももっといい方法が有るでしょうに!
たとえ形だけとは言え、シェルと結婚だなんて!
あたしは肝心のシェルを見る。
「あたしとエルハイミが結婚~ う、うふふふふ」
顔を真っ赤にして頬に両手をあてニコニコしながらくねくねしていやんいやんしている。
おいこらシェル、何浮かれてんのよ!!
にこにこしていたシェルはあたしが睨んでいるのに気付くとファイナス市長に告げた。
「ファイナス長老、是非お願いします!! 形だけでも構いませんから!」
こぶしを握り鼻息荒々しくシェルはファイナス市長に目を輝かせながらお願いをする。
そうじゃないでしょっ!!
「シェル、分かっているのですの? 私は貴女を受け入れられないのですわよ?」
「分かってるって、今は我慢してあげる。でも時が経てばきっとエルハイミはあたしに振り向いてくれるはずだから!」
根拠のない自信で最高の笑顔をあたしに見せる。
どきっ。
一瞬あたしの心臓が高鳴ってしまった。
あたしは内心の動揺を顔に出さない様にファイナス市長に抗議する。
「ファイナス市長、それ以外の方法で何とかなりませんの?」
「エルハイミさんはシェルの『時の指輪』をしていますね? 既にそれを身に着けていると言う事はシェルはエルハイミさんのモノと言う意味です。逆に妻として娶らなければシェルの一族総出でエルハイミさんを拉致し責任を取らせると言う風になりますよ? であればここで形式的にも妻としてシェルを娶って結婚をすると言う事となればフュームであるエルハイミさんとシェルが村の外にいても誰も文句を言いませんよ?」
ファイナス市長はしれっと恐ろしい事を言う。
しかしあたしは納得がいかず思わず自分を棚に上げた事を聞いてしまう。
「しかしシェルは女の子ですわ。同じ女性と結婚とはシェルの親御さんも納得いかないのではないですの?」
「それでしたら大丈夫です。エルフの中にはエルハイミさんたちのような者もまれに存在します。そうなった場合子孫を増やす責任はシェルの親に行きますが、エルフ族としてみれば数が増える分には何ら問題はありません。もともと私たちはなかなか数が増えない種族。何かの原因で大樹になれず死に絶えてしまう同胞の方が多いくらいですからね」
既に八方ふさがりの状況のあたし。
まさか「時の指輪」を受け取るというのがそれほど恐ろしい事だったとは。
ん?
ちょっとマテ?
じゃ、じゃあ師匠もマーヤさんを娶っているって事!?
「ファ、ファイナス市長、それでは師匠はどうなるのですわ!? 師匠ってマーヤさんの『時の指輪』をしているのですわよね!?」
「ユカは特別ですね。形式的にはマーヤは未亡人になっていてユカの『時の指輪』が外されない限り他の誰ともつがいに成る事は無いとの意思表示です。それにあの指輪は元々英雄アノード=シュバルツに渡した物。それをマーヤがユカに渡したのです。ユカに従者となるという意味で」
「従者、ですの?」
「そうです、我々エルフの女性が『時の指輪』を誰かに渡す場合は二つの意味が有ります。一つは伴侶となる事、もう一つはその者の従者になると言う事なのです」
そう言われあたしはシェルを見る。
とたんにシェルは目をそらす。
あいつ、この事知っていたな‥‥‥
「ですからエルハイミさんの場合はエルフの村では妻として、外の世界では従者としてシェルと共にいると言う事にすれば誰も疑問を持たないのですよ。これならティアナ殿下にも申し訳がつくでしょう?」
ファイナス市長はニコリとする。
それって詭弁って言わない?
あたしはファイナス市長をジト目で見るがファイナス市長の頬に一筋の汗が流れている。
‥‥‥もしかしてファイナス市長、エルフの村で面倒だから一番簡単な方法に出たんじゃないでしょうね!?
「ねえ、エルハイミ、そんなにあたしと一緒は嫌?」
シェルが上目遣いであたしに聞いてくる。
その瞳は不安とそして今にも泣きだしそうに揺れている。
ううっ、これはずるい。
こうなってはあたしには断る事が出来ないのは長い付き合いで知っているだろうに‥‥‥
「わ、分かりましたわ。コクも私に従っていると言う事になっていますし、イオマも私の妹として共にいると約束しましたわ。私も早くボヘーミャに戻りたいですからシェルは従者と言う事で良いですわね!? 決してティアナの前で妻になったなんて言わないでくださいですわ!!」
「うんっ! 勿論よ!! 流石エルハイミ、ありがとう、大好き!!」
そう言ってシェルはあたしに抱き着いてきて頬にキスをする。
とたんにイオマとコクが騒ぎ出したのは言うまでもない。
「ファイナス長老、良いんですか? こんなので?」
「ソルガよ、エルハイミさんは英雄の器が有ります。シェルと魂の隷属までしたのです。きっと彼女たちは私たちエルフに、いえ、この世界に幸をもたらせてくれるでしょう。これは決してこれ以上ややこしくなるのが面倒だからではないのですよ、決して」
何かソルガさんとファイナス市長が話していたようだけどあたしはこの三人に詰め寄られて何を話していたのか聞き取れなかったのだった。
* * * * *
「と、言う訳で私にシェルさんをくださいですわ!」
まさか転生して、しかも女の子になってこのセリフを言う羽目になるとは思わなかった。
あたしは今シェルの親御さんの目の前で頭を下げこのシェルを嫁にくれとお願いをしている所だった。
「貴様の様などこの馬とも知れん奴に可愛い娘をやるわけには‥‥‥」
ばきっ!
ガシャンっ!!
「あらあら、あなた、気が動転して何か心にもない事を口走ってしまったようですけどいきなり立ち上がるから足を絡ませてしまって倒れるなんて。ごめんなさいね、エルハイミさん。こんな娘ですけどよろしくお願いしますね? シェル、孫の顔は見れないけどちゃんとエルハイミさんに迷惑かけない様に妻としてしっかりするのですよ? あなた! こうなっては次の子を作らなければいけないわ!! 頑張ってもらいますわよ!!」
い、いや、お義母様、見事なフックがお義父様のお顔にヒットしたのですが‥‥‥
「お母さんはお父さんの事大好きだったからなぁ。確か求婚したのもお母さんの方からだったって聞いたけど?」
「よくよく二人目が欲しと相談にも来ていましたね。シェルの父親は淡白で困ると愚痴をこぼしていましたからね」
シェルもファイナス市長もそんな情報は要りません!
良いのか、それで?
いや、あたしも結局はお芝居の片棒を担いだけど、これって従者って言った方が良かったのじゃない?
あたしはシェルとファイナス市長を見る。
シェルはうれしくて有頂天、ファイナス市長はほっとした表情をしている。
ファイナス市長、もしかして単に一族が増えればよかったのでは?
疑心暗鬼に陥ってしまいそう‥‥‥
「じゃあ、式はすぐにでもしないといけないわね? シェル、お母さんの使ったドレスを着てみましょう!」
「へっ?」
あたしの意思は置いてきぼりで事は勝手に進んで行くのであった。
◇ ◇ ◇
「めでたき事じゃ。同じエルフ同士ではないがおぬしら二人に精霊の加護を!」
メル長老のその祝辞を最後に周りが一斉に祝福の拍手をする。
あたしはシェルと同じようなウェディングドレスを着させられ、シェルと共に世界樹の前のメル長老の下にいる。
あの後あたしは完全に置いてきぼりにされあっという間にこの三日間で婚約者のユグラスさんとの婚約解消の話も式の段取りもすべて終わって婚姻の義に立たされていた。
「では誓いの接吻じゃ!」
「えっ?」
既に『時の指輪』はあたしの指にはめられているので後は最後の誓いの証、接吻だけとなる。
これが終わればこの婚姻の義は終わる。
あたしは隣に静かに立たづんでいるシェルを見る。
あまりにもドタバタしていて誓いに接吻なんてすっかり忘れていた。
シェルはうつむいて恥ずかしそうにしているがメル長老に言われおずおずとあたしの方に顔を向ける。
その顔は幸せいっぱいで瞳はうるんでいた。
少し頬をピンク色に染め、薄化粧のせいもあってシェルじゃないような気さえする。
どきっ!
何故かあたしの鼓動が高鳴る。
「シェ‥‥‥ルぅ?」
「エルハイミ‥‥‥」
そう言ってシェルはあたしの手を取り少し引き寄せる。
ああっ!
ティアナごめんなさいっ!
今これは演技なの!!
本気じゃないの!
こ、これだけ、一瞬だけごめんなさい!
でも、心も体も全部ティアナのモノだから、今回だけ許してっ!!
あたしは心の中で念仏でも唱えるかの様にティアナに謝罪をした。
そして未だシェルの方がわずかに身長が高いのであたしはシェルに引き寄せられるように唇を重ねられた。
「んっ」
シェルのやわらかい唇があたしの唇にふれる。
すがすがしい森の香りを身にまとったシェルの口づけはさわやかでいて甘く、そして一瞬でもあたしにティアナを忘れさせるほどのモノだった。
とたんに周りから祝福を祈る歓声と拍手が巻き起こる。
「うむ、良き接吻じゃった。これよりこの二人を祝福して祝いの酒じゃ! 黒龍よ、今度こそ負けんぞ!」
「ええっ! 良いでしょう!! 私も飲まなければやっていられません!! メルよ、今晩はとことんまで付き合ってもらいます!!」
「コクちゃん、あたしも今日は一緒に飲みますからね!」
あたしは改めて周りを見る。
そしてシェルを見るとシェルはものすごくうれしそうに笑っている。
その笑顔にまたドキリとさせられる。
「エルハイミ、あたしいいお嫁さんになってあげるからね!!」
「くっ‥‥‥」
あたしは言いたい言葉を飲み込んだ。
周りの事も有ったけど今回は完全にあたしの負け。
だってその幸せそうな輝く笑顔はあたしを魅了したからだ。
はぁ~、やっちゃったぁ‥‥‥
とんでもない事をやってしまった事をいまさらながらにあたしは実感する。
そしてあたしは他の人には聞こえない様に念話でシェルに語り掛ける。
『シェル、もう一度断っておきますけど、これはお芝居ですのよ? ちゃんとわかっているのですの? 私にはティアナがいますのよ?』
するとシェルはあたしを見て今度はにんまりとした笑顔で念話を返して来る。
『もちろん分かっているわよ、ティアナの前では今まで通りでいるわよ? 大丈夫だから安心して、あ・な・た♡』
「シェ、シェルぅぅうううぅっ!」
思わす叫んでしまったあたしだった。
評価、ブックマーク、ご意見、ご感想いただけますと励みになります。
誤字、脱字ありましたらご指摘いただけますようお願いいたします。




