第十二章12-8異変
おっさんが異世界に転生して美少女になっちゃうお話です。
異世界で力強く生き抜くためにいろいろと頑張っていくお話です。
プリンセス、可愛かったよなぁ(ショーゴ談)
12-8異変
昨日は何だかんだ言いながらみんなよく眠れたようだ。
久々のふかふかのベッドはやはりいいものだ。
「うーん、よく寝ましたわ。コク、そろそろ起きてくださいですわ」
「えへへへへ~主しゃまぁ~」
まだ寝ぼけているコクを揺り起こす。
「うーん、朝ぁ?」
「ふぁあああぁ、おはようございます、お姉さま」
「ふあぁあああぁでいやがります」
シェルもイオマもクロエさんも起きた様だ。
今日はこれから買い出しとかいろいろとしなければならない。
それと持っているアイテムを換金して路銀確保やシェルの村に行くからにはお土産とかも買っておかなければならない。
やる事は結構あるのだ。
「さあ、みんな顔を洗って着替えて朝ごはんですわよ、多分ショーゴさんたちはもう下へ行っていると思いますわ」
あたしたちは支度を済ませ下の階へと向かった。
* * *
「主よ、どうも昨日から気になっているのだがな、この街はやたらと宗教勧誘が激しいな」
ショーゴさんは手元のチラシを見ながらそう言っていた。
あたしたちは全員揃ったところで朝食を取りながら今日の予定を話していた。
そんな話がひと段落した頃にショーゴさんがそう言いだしたのだ。
「宗教の勧誘ですの?」
「どこの宗教よ? 何の女神様?」
あたしとシェルは何となくショーゴさんに聞いてみる。
するとショーゴさんはそのチラシを裏返してあたしたちに見せる。
そのチラシにはメル教とか書いてあった。
メル教なんて聞いた事無いな?
そしてあたしはそのチラシの内容を読む。
『メル教は教祖メル様を中心に心の癒しを与えてくれる宗教です。人々は現代社会に疲れ打ち日枯れそして生きる事の意味を理解できていません。しかし我らメル教は女性ならではのやさしさと温かさを貴方に伝え生きる本当の意味を教えてくれるのです。さあ、あなたもメル教に参加して人生をバラ色に変えてみませんか?』
あたしはジト目で思わず頬に汗を一筋流す。
何なのよ、この宗教!?
しかもこの挿絵!
胸の大きなどう見てもアイドルの様な女の子が教祖様ってどんな宗教よ!?
「ちょっとエルハイミ、まさかこの宗教に興味持っているんじゃないでしょうね? ここの挿絵の教祖様って娘、絵だとずいぶんと胸が大きくて可愛らしく描かれてるけど」
シェルはあたしを睨んでいる。
しかしそれを聞いたイオマもコクもそのチラシを奪い読み始める。
「お、お姉さま好みの可愛らしい女の子!?」
「こ、これは今の私では対抗できない大きさ!?」
そして二人もあたしを睨む。
なによ?
どう言う事よ!?
「「「もうこれ以上他の娘に興味を持たないで(ください)!」」」
三人同時にあたしにそう言ってくる。
それを見ていたクロエさんはため息をついて一言。
「主様は見境無いでいやがりますからねぇ~」
「わ、私はティアナ一筋のはずですわよっ!!」
あたしの抗議も空しく更に三人に詰め寄られるのだった。
* * * * *
街に出て必要なものを買い足していく。
出かける前にシェルのポーチから要らない物も取り出してそれは処分するか売り払うかもした。
そんな事をやっているとお昼ごろになった。
なのでせっかくだからここの名物料理でも食べようかという話になってレストランを探していた。
街の中央通りに面した所にはいろいろなお店が立ち並んでいる。
あたしたちはそこを歩きながら見ていると広場があった。
そしてその広場には男性の人だかりが有った。
「なんでしょね、あんなに人が集まって?」
イオマがそれを見ながらあたしに話しかけてくる。
言われたあたしもそちらに目をやると同じような上着を着ていてハチマキの様な物をし、手にはステッキより短い、何と言ったらいいのか生前のペンライトの様な物を持つ集団がいた。
「なにあれ? ずいぶんと凄い熱気だけど?」
シェルも興味を持ったのかそちらを見る。
すると同じような格好をした人があたしたちの近くにまで来てショーゴさんとクロさんにだけチラシを配った。
ショーゴさんは受け取ったチラシを見てため息をついてからあたしに見せてくれた。
『メル教信者募集中!』
見出しに大きくそう書かれていた。
は?
じゃあ、あれって宗教の何かの集まり!?
見た感じこの広場だけでも数百人はいる。
しかも全部男性。
一体何をやっているのか近くまで行ってみる。
「みんあぁ~! 今日もよく集まってくれたねぇ~!! メル感激だよぉ~♡」
うおおおおおおっーーーー!!
可愛らしい声がしてお立ち台のような所に胸の大きな可愛らしい女の子がフリフリの神官服をアレンジしたちょっと露出が激しい服装で可愛らしいポーズを取っている。
何じゃありゃ!?
しかしそれを取り巻く周りの男性陣は一糸乱れぬ連携で掛け声をかけたり、同じ動作をしている。
そしてお立ち台のその女の子はかわいらしい声で続ける。
「さあ、今日もメル教の教えを広めちゃうぞ☆彡 みんな、準備は良い?」
いいでぇーすぅ!!
見事に声がそろって一斉にお返事をする男ども。
あたしは頭が痛くなってきた。
「あ、主様、たまに人間のすることが理解できなくなってくるのですが、これは一体何なのですか?」
コクもおののきながらその集団の異様さにあたしの後ろに隠れる。
「主よ、あそこの女性がチラシの教祖のようだな」
なぜか懐からあのチラシを取り出したショーゴさんはチラシの挿絵とお立ち台の上にいる女の子を見比べる。
あたしもよくよく見ると確かにあのチラシの挿絵の子にそっくりだ。
いや、本物の方が数倍可愛いかもしれない。
「さあ、みんな行くわよぉ~、教えその一、世界は?」
『腐っているぅ!』
「教えその二、あたしは?」
『我らが希望!』
「教えその三、じゃあ世界をどうする?」
『ぶっ壊す!』
「教えその四、その後は?」
『メル様が再生なされるぅっ!!』
「教えその五、みんなは?」
『選ばれし民!』
「教えその六、じゃあこの教えは?」
『我らが全力で広めます!』
「教えその七、増えた信者は?」
『メル様の従順な下僕ぅっ!!』
「教えその八、邪魔するやつらは?」
『抹殺あるのみ!』
「教えその九、そして最後にあたしは?」
『女神になられる!!』
「良く出来ました、最後に教え十、ご褒美は?」
『握手か頭ナデナデでぇっ!!!!』
うおぉぉおおおおおぉぉぉっっっ!!!!
男どもが一斉に怒号の雄たけびを放つ。
既にコクはあたしの後ろで「変態です! 変態ですぅ!!」とか言って固まっているし、クロさんもクロエさんもドン引きで具合が悪そうだった。
宗教ってただでさえ人をおかしくするってのに、ジュリ教やジュメルでもあるまいし‥‥‥
「なによあれ? みんなおかしいんじゃない?」
「これはいくらお姉さまでも食指が動かないのでは?」
「まあ、なんだ、少しは分かる気はするがな‥‥‥」
ええっ?
ショーゴさん分かっちゃうのぉ!?
あたしは驚きながらショーゴさんに聞いてみる。
「な、何故わかってしまうのですの!?」
するとショーゴさんは珍しく目を輝かせ語りだした。
「昔ジマの国にも可愛らしいプリンセスがいてな、騎士団の間ではものすごく評判が良くて今のあいつらの様にいつの間にか取り巻きが出来、みんなの意志を統一するためにおそろいの鎧を作ったりおそろいのマントを仕立てたりして近衛隊を作ろうとした事が有ったのだが、あまりにも志願者が多すぎて却下になった。しかし根強い人気で信者の様にそれは増えて行って会員制のファンクラブまで立ち上がった。ちなみに俺は会員ナンバー三番だった」
懐かしい思い出をきらきらフォーカスかけて目を輝かせながら思い出すそショーゴさんは完全に逝ってしまっている人だった‥‥‥
思わずあたしでもドン引きしているのだったがそんな中、その集団にざわめきが起こると同時に爆発音がした!
あたしたちはすぐに臨戦態勢を取るけど、取り巻きの信者あたりが数人倒れている。
そして爆発のせいで煙がもわもわとしている所から人影が躍り出てあたしたちに近づく。
なにっ!?
あたしがそう思うと同時にショーゴさんが前に出て立ちはだかる。
その小柄な影はショーゴさんにぶつかる前に身をひるがえして逃げ去った。
しかしあたしは見てしまった。
彼女の顔を。
それは実に十数年ぶりだったが間違いない、イリナさんだった。
「刺客だ! 誰かあいつを捕まえろぉ!!」
「メル様にお怪我は!?」
「許せんっ! 絶対に捕まえろぉ!!」
怒号の中あたしは彼女が走り去った方を見ていたのだった。
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