第十章10-26ジマの国の大使
おっさんが異世界に転生して美少女になっちゃうお話です。
異世界で力強く生き抜くためにいろいろと頑張っていくお話です。
はぁ~
とりあえずユエバの冒険者ギルドに戻ろう。
後はそこで何とかなるだろう‥‥‥(イオマ談)
10-26ジマの国の大使
「エルハイミ! イオマがいなくなった!!」
シェルが慌ててあたしたちがいる部屋に入ってきた。
見るとシェルは何かの紙を手に持っている。
「これ見て、エルハイミ!」
あたしはシェルから受け取ったその紙を見る。
それはイオマからの置手紙だった。
「お姉さまへ―― お姉さまと一緒に居られた時間はとても幸せでした。お姉さまには心に決めた人がいます。私はお姉さまの心の片隅にも入れないようですよね? でも大丈夫です。お姉さまにいただいたこのプロテクターと鍛えてもらった魔道でまた冒険者を続けます。村に戻ってみんなにも自慢できます。もう貧乳じゃないし、揺れるくらいには大きくなりました。だから、だから、お姉さま、私のこと忘れないで‥‥‥ 好きです、大好きですお姉さま――」
手紙は最後の方が何かで濡れていたのか、文字がかすんでいた。
あたしはそっとその手紙を折りたたんで懐にしまう。
「追わないのエルハイミ?」
「シェル、イオマとはもともと迷宮を出るまで一緒に行動するとの約束。むしろ今まで一緒に居過ぎましたわ。今私がイオマを追うことは出来ない、出来ないのですわ‥‥‥」
あたしの脳裏に妹のようなイオマの笑顔がよみがえる。
でもあたしにはティアナがいる。
どんなに可愛くてもイオマと一緒にはなれない。
そのまま黙って下を向くあたし。
分かってはいた、でもなんとなく一緒にいるのが心地よかった。
気付くとあたしは涙を流していた。
「エルハイミ‥‥‥」
シェルは後ろからそっとあたしの肩抱いてくれた。
「大丈夫よ、イオマは強い子だからきっとうまくやっていける。あの迷宮をあたしたちと一緒に、そしてあの悪魔たちとも戦ったんだから」
あたしはティアナが好き。
でもみんなも大好きだ。
その複雑な感情をそのままにしばしシェルに支えられ涙するのだった。
* * * * *
イオマがいなくなって二日後、ジマの国はミグロさん、いや、ミナンテ=ガナ・ジマが正式に王座につき亡者の王リッチからジマの国を解放したことを宣言した。
それと同時に元レジスタンスの重要人物たちが近隣諸国に大使として派遣されその親書を携えて行ったのだった。
あたしはここ数日無言で王城や町の復興を手伝った。
岩切場でロックゴーレムを作り城壁や町の復興を手伝い、そして町に人が戻れるように整備を手伝った。
はぁ、やっぱりイオマの事引きずっている。
でもこれだけは仕方ない事だ。
まさかイオマまでティアナの元に連れていくことは出来ない。
コクたちはあたしについて来る気満々だけど、コクとイオマじゃ意味が違う。
やっぱりあたしって浮気性なのかな?
そんな事を思いながら道路をロックゴーレムで整備していた時だった。
「いたいた、エルハイミ。渡りのエルフたちから連絡があったのよ。どうやら近くにいる風の精霊は使えるみたいだけど何か大きな力が働いていて風の精霊限定で遠くまではメッセージとか飛ばせないらしいわ。既にファイナス長老もそのことに気付いているみたいだけど、肝心な連絡がちゃんと届かないってエルフたちの間じゃ大騒ぎよ!」
シェルはあたしの所までやってきて一気に話をする。
何か大きな力って、風の精霊を制するようなものなんて上級精霊か風の女神メリル様くらいしか思いつかない‥‥‥
ん?
風の女神メリル様??
あたしは先日の事を思い出す。
そう、あの女神の杖だ。
あの女神の杖はどうやら十本くらいあるらしくその魔結晶石の中には女神様の体の一部があると言われている。
あのカルラ神父が持っていた女神の杖ってまさか‥‥‥
「シェル、そうするとドドス共和国の方の風のメッセンジャーも使い物にならないのですの?」
「渡りの話だとイージム大陸全部がそうみたい。一体どうなっているのやら」
肩をすくめお手上げのポーズをとるシェル。
あたしは思い出す。
数日前ボヘーミャに飛ばせるという伝書鳩に手紙は書いたが戻ってこないところを見るともしかするとボヘーミャまでたどり着いていないのかもしれない。
確かに何か起こっているのかもしれない。
もしあの女神の杖が問題を引き起こしているなら何とかしないとだけど、そもそもカルラ神父たちが何処にいるのかさえ分からない。
悩んでいるあたしの所へ今度はショーゴさんがやってきた。
「主よ、ここに居たか。実はイザンカに向かっている大使たちが何者かによって襲われたそうだ。今は親書をもって命からがら逃げて来たそうだがどうやらイザンカで何か起こっているみたいだ」
ショーゴさんのその言葉にあたしは確信する。
秘密結社ジュメル。
ジュメルはイザンカにちょっかいを出している。
確かにあの時カルラ神父もそんな事を言っていた。
イザンカ自体にあたし自身は思い入れはないけどジュメルがその魔の手をイザンカ王国に伸ばしているのは確実だ。
連合設立で出来あがった連合軍はサージム大陸の南、水上都市国家スィーフの近くで起こったジュリ教の問題で対応していたがその後どうなったかは分からない。
しかし今度はイザンカでジュメルが動いているのは確実だ。
連合軍がここに来てくれるように連絡はするべきか?
それとも今はこのままイザンカを無視してウェージムのガレントに戻るべきか?
あたしがそんな事を考えているとシェルがびくっとして耳に手を当て目をつむる。
そしてしばらくじっとして何かを聞いている様だ。
「どうしたのですのシェル?」
「渡りのエルフからの緊急連絡、ジマの国から近いイザンカにあるユエバの町にいる渡りのエルフから助けを求める連絡よ! 今冒険者たちが中心に町を守っているけどどうやらジュリ教の聖騎士団の様よ!」
あたしはそれを聞いていてもたってもいられなくなった。
イオマはきっとユエバの町に行っただろう。
「主よ!」
「エルハイミ!!」
ショーゴさんもシェルもあたしを見ている。
ティアナごめん!
でも、このまま見捨てられない!!
「イオマっ! 今行きますわっ!!」
あたしたちはユエバの町に向かって出発するのだった。
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