第八章8-22巨人
おっさんが異世界に転生して美少女になっちゃうお話です。
異世界で力強く生き抜くためにいろいろと頑張っていくお話です。
無慈悲な魔女・・・
ああ、踏まれたい(エスティマ談)
8-22巨人
あれからだいぶ経って潜入していた偵察部隊が戻ってきた。
「間違いない、山間のルートから例の物が来ているらしい」
ゾナーのその言葉に軍事会議に参加する者全員に緊張が走る。
ジュメルの巨人のせいで連合軍が撤退してスィーフで体勢を立て直し、またジュリ教の神殿への攻撃をする準備が進んでいる矢先の事だった。
それはここティナの町にも同じものが襲来する可能性が非常に高い事を物語っている。
先ほどのゾナーの報告がそれだ。
「そうすると山間ルートでその巨人が来ていると言う事?」
「大きな荷馬車で何やら運んでいるらしい。大きさから言ってまず間違いなく巨人だろうと言う事だ」
今はティナの町はまだ雪に包まれている。
この雪が融けるにはまだ一ヵ月くらいはかかる。
「だが山間部を通ってくるなら一ヵ月はかかるだろう。かなりの大きさらしいからな。移動にも手間取っているようだ」
「自分で移動出来無いのか、その巨人は?」
エスティマ様その疑問にゾナーはこう答える。
「どうも卵のようなものにくるまっているらしい。おかげで荷台の移動にも苦労しているようです」
「卵?」
「卵だと? では孵化する前にそれを破壊できれば巨人は倒せるのではないか?」
エスティマ様はそう言って拳を手のひらに叩きつける。
しかしゾナーは静かに首を振る。
「何故卵のような状態かは分からんですがこちらから攻撃するにしても距離が有り過ぎます。それにそこにたどり着いたとしても生半可な攻撃では意味がない。下手したらホリゾンの砦から応援が来ます。そうしたら挟み撃ちだ。精鋭部隊を編成しても無事帰ってこれる見込みがない」
そして偵察部隊も必死だったと付け加えた。
確かに卵の状態で孵化する前なら倒せるかもしれないけどそこに行くまでが問題だし、本当にその卵自体を破壊できるかも疑問だ。
「それじゃあそれが来るまで待っているというの?」
「今のままではそうなりますな、主よ」
ゾナーにそう言われティアナは次の言葉が出てこない。
しかしゾナーはあたしを見る。
「危険なのは承知の上でこちらから手を出すとすれば確実に仕留めなければならない、それには遠方から強力な魔法攻撃しかないでしょうな」
みんながあたしを見る。
「だ、駄目よ! そんなの!! エルハイミを危険な目にあわせるわけにはいかないわ!!」
真っ先にティアナが反対意見を言う。
「そうだ、いくらエルハイミ殿の魔法が強力だとは言えエルハイミ殿を敵陣の真っただ中に送り込むわけにはいかん!」
エスティマ様も反対意見を言う。
が、それは承知の上でだろうゾナーはあたしに向かってこういう。
「勿論そんなつもりは無い、しかしエルハイミ殿実際の所あの大雨を降らせる魔法はどのくらいまで遠くまでできますかな?」
あたしはその答えを知っているシコちゃんに聞く。
『そうね、条件にもよるけど目視できる範疇までならエルハイミの馬鹿みたいに大きな魔力ならできるでしょうね。ただ、あまりにも距離があると何処まで魔力を飛ばして大雨振らせられるか分からないけどね』
シコちゃんの答えをあたしはみんなに伝える。
するとゾナーは口元をニヤリとする。
「では行けそうだな。エルハイミ殿司令塔のテラスまで同行願えますかな?」
そう言ってゾナーは歩き出す。
つられてあたしもみんなもついて行く。
* * *
ひんやりとした空気の中あたしたちは司令塔のテラスにいる。
「向こうに見える山と山の間のところは分かりますかなエルハイミ殿!?」
雪が薄く降っているので視界は良好では無いもののうっすらと山と山の谷間は分かる。
ゾナーが指さした場所は低い雲の中でもなんとか見分けがついた。
「あそこに大量の雨を降らせてもらいたい。雪ではだめだ。大雨が必要だ」
多分目視で見えるそこは徒歩でも一週間以上かかりそうな場所だ。
あたしはシコちゃんに聞く。
「シコちゃん、だいぶ離れていますけど出来まして?」
『うーん、今は無理ね。見える範疇だからできるでしょうけどここまで気温が低いと雨雲が発生させられないわ』
あたしはシコちゃんの言葉そのままに答えた。
するとゾナーは満足そうに言う。
「十分だ! これなら行けそうだぞ!」
そう言って作戦の概略を言い始める。
今はまだ雪のせいで大雨が降らせられなくてもあとひと月もすれば雪は止む。
そして徐々に雪解けが始まる。
その頃ならばあの大雨を降らす魔法も使えるのでその頃になったら合図を待ち先ほどの場所に大雨を降らせてもらいたいとの事だ。
その場所は谷間の始まりの場所でゾナーの考えではひそかに水をせき止めるくらいの工作は出来そうだとの事。
そこに水をせき止めるダムのようなものを作ってあたしが合図をもとに一気に大雨を降らしダムを決壊させ、大洪水で卵もろとも流してしまおうという作戦だ。
どれほどの効果があるか分からないが少なからずとも足止めや同行している軍隊に大ダメージを与えられるだろうとの事。
「これで肝心な巨人の卵も流されて壊れてくれれば言う事無いわね」
ティアナもあたしの身の安全が分かったので一安心しながらその作戦に同意する。
勿論エスティマ様も同様にだ。
ただあたしはそれでも巨人の卵がどうにかなるかとは思っていない。
爆破でも出来れば違うでしょうに‥‥‥
ん?
爆破??
あたしはふとグランドアイミに抱き着いて自爆したブラックマシンドールを思い出した。
あの爆破原理は魔晶石核の暴走。
その爆破威力は相当なものだった。
あたしはそのアイデアを試すためにまたまた工房に向かう事にした。
「ちょっと試したいことがありますわ! ルブクさんの所に行ってきますわ!!」
* * * * *
ルブクさんはあたしと一緒に司令塔に戻ってきた。
いつも通りに荷物をもって。
「それで、エルハイミまた何を開発したのよ?」
ティアナが真っ先にあたしに訪ねてきた。
あたしはルブクさんが下した袋の中から一つ四角い箱を取り出す。
四角い長方形の箱に魔晶石核がはめ込まれ、数個のダイヤルと蓋つきのスイッチがついている。
ティアナはしげしげとそれを眺めている。
「で、なんなのよこれって?」
シェルはダイヤルをいじっている。
あたしは慌ててそれをやめさせる。
「シェル、これは『時限爆弾』と言ってそのダイヤルで爆発時間を決められるのですわ!」
シェルからひったくっる。
「時限爆弾?」
ティアナは聞き慣れないその名前をもう一度言ってみる。
あたしは大きくうなずき説明を始める。
「このダイヤルで時間を決めてその時間が来たら魔晶石核の暴走で爆発が起こるという仕組みですわ! 今から実際にやって見せますわ!」
そう言ってあたしは約五分後に爆発するように設定してから蓋つきボタンの蓋を開く。
「このボタンを押してから約五分後にこの箱は大爆発を起こしますわ! それではぽちっとなですわ!」
あたしはボタンを押してから念動魔法でその箱をこの司令塔からホリゾン側の方へと影響のなさそうな所まで運ぶ。
みんなもそれを黙ってみている。
そして待つことしばし、それは一瞬赤く光ってから大爆発を起こす!!
ぴかっ!
どっかかぁぁぁああああぁぁぁっんっ!!
「うわっ!」
「なっ!?」
「こいつはっ!?」
もうもうと地面から煙を立ち昇らせそれは見事に爆発した。
パラパラとまだ飛ばされた小石が降ってくる。
「なによあれ!? すごい爆発じゃない!?」
「エルハイミ、危うくあたしもああなるところだったの!?」
ティアナもシェルも驚いている。
実はあたしもちょっと驚いている。
爆破威力が予想以上に大きかったからだ。
あたしはせいぜい手りゅう弾程度の爆発と思っていた。
しかしこの威力なら大きなロボットでもいちころだわ!!
うん、きっと超合金のロボットでも粉々よ!
赤い鼻の潜伏員だってこれならもっと数少なくて任務遂行できそうよ!?
生前見た事のあるロボットアニメの一シーンを思い出しながらあたしは親指を立てる。
「これを一緒に洪水に混ぜ込めば巨人の卵も破壊できるのではないでしょうかしら?」
「いや、これならそれだけでなく土砂崩れや落石も起こせるぞ! 流石エルハイミ殿だ! よくぞこんな危険なものを思いつく! 『無慈悲な魔女』の名前は伊達では無いな!!」
「なんですのその二つ名はですわっ!!!?」
いつの間にそんな不名誉な名前が増えてるのよ!?
「いやな、マシンドール開発だけじゃなく変なものポンポンと作り上げ俺たちが休みなく働くようにしている無慈悲な魔女っつったらエルハイミさんしかいないだろうに!」
ルブクさんもゾナーの肩を持つの!?
ケタケタ笑うティアナとシェル。
「エルハイミ殿は危険な女性だったのか‥‥‥ ますます惚れ直した! 流石エルハイミ殿だ!!」
何かエスティマ様も変なスイッチ入ってるし!
「私は無慈悲でも危険な女でもありませんわぁ!!!!」
久々にあたしの叫びがこだまするのであった。
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