第八章8-19コタツ? *
おっさんが異世界に転生して美少女になっちゃうお話です。
異世界で力強く生き抜くためにいろいろと頑張っていくお話です。
こたつかぁ・・・
みかんが欲しくなりますわ!!(エルハイミ談)
8-19コタツ?
ヨハネス神父との予期せぬ遭遇にあたしたちはざわめいていた。
「ゾナー! ここの検問はどうなっているの!?」
「すまない、主よ。重々に注意はしているはずなのだがまさかこうもたやすく入り込まれていたとは‥‥‥」
後で聞いた話だとヨハネス神父はたびたびこのティナの町に潜入していたらしい。
人当たりが良く、イケメンな神父と言う事でもっと話題になりそうなものだが意外と見たような感じがするけど記憶に浅くしか残っていないと証言者たちは言う。
『多分それって認識を阻害する魔法ね。ダークエルフたちがよく使う魔法よ?』
シコちゃんがそう言う。
あの時あたしはシコちゃんを持って行かなかった。
今回も痛恨のミスだ。
もしシコちゃんがいたならばもっと他の魔法でヨハネス神父を仕留められたかもしれない。
「しかしショーゴ殿やシェル殿、エルハイミ殿までいて逃げられたか。その『十二使徒』ってのはそんなにすごいのか?」
ゾナーは顎に手を当て唸っている。
「あれは普通ではありませんわ。どちらにせよ分かったことはヨハネス神父が『十二使徒』の一人でホリゾンは春まで攻め込んでこないと言う事ですわ。そしてヨハネス神父が言っていた本国から届くという何かが次の戦いでむこうの切り札になると言う事ですわ!!」
あたしはミルクティーをじゅるじゅると飲みながらそう言う。
苛立ち紛れに中に入っている餅のような茶色い粒を噛み砕く。
「あのヨハネス神父の言う事だから多分春までは襲ってこないだろうけど、警備は十分にね、ゾナー」
「わかっているよ、主殿。とにかく今後はそう言った輩は全て職務質問と拘束だ! 全衛兵たちにそう伝えろ!」
「はっ!」
そう言ってラガーさんは行ってしまった。
無言でじゅるじゅるとミルクティーを飲む音だけが響く。
せっかく買ってきたのにもうぬるいし!
ティアナといちゃいちゃしながら飲もうと思っていたのに結局会議の場でみんなに配って飲む羽目になるし!!
うー、覚えてなさいよね、ヨハネス神父!!
「‥‥‥ところでホリゾンの本国から来るものって何かしら?」
シェルは餅のような茶色い物体を指でつまんでしげしげと見ている。
「分かりませんわ。でも、あれだけはっきりと予告してくるのですからかなり自信があるのでしょうですわ」
あたしも考えては見たけど一体どんなものか見当もつかない。
それでもあの言い方、多分この城壁をどうにかできる手段があるのだろう。
「まあ、考えても始まらないわね。それよりこれって面白いわね。何この餅みたいの?」
くにくにとティアナはそれを噛んでいる。
餅自体はこの世界にも有った。
小麦で作る餅は米ほど粘り気の無いものだったが意外と知れ渡っている。
「これは芋を使った餅だな。ホリゾンではこいつを焼いて食べるぞ?」
ゾナーもくにくにしながら食べている。
そしてしばらくみんなでくにくにしていた。
* * * * *
「寒い!」
朝方ティアナのその声で目が覚める。
流石にこの時期に裸で布団から出ると寒い。
ティアナはベッドの横のテーブルにおいてあったガウンを引っ張り入れる。
「きゃっ! 冷たいですわ!!」
「あ、ごめんごめん、冷たかった?」
布団にいれたガウンはひんやりと冷たかった。
裸のあたしはちょっと膨れてティアナに抱き着く。
「いきなりお布団に冷たい衣服をいれてはいけませんわ、ティアナ! 罰として私が温まるまで抱きしめてですわ!!」
そう言いながら唇を重ねる。
「でもそろそろ起きなきゃね。今日もいろいろしなきゃだもの」
そう言いながらティアナは暖炉に向けて腕を伸ばす。
そして【炎の矢】を調整して飛ばし薪に火をつける。
「もう少しだけだからね、部屋が温まったら着替えましょ」
そう言いながらあたしを抱きしめてくれる。
「はいですわ。」
そう言いながらしばしティアナのぬくもりを楽しむあたし。
* * * * *
「今年は昨年に比べて冷え込みがきついわね?」
シェルは食事をとりながらそう言っている。
せっかくのスープも既にぬるくなってきている。
部屋の中も薪で温めてはいるもののやはり足元が冷える。
もともと冷え性のあたしは既に重装備だけどそれでも今日は冷え込みがきつい。
「なんでだろうね、いくら服を着こんでも薪を炊いても足元ってひんやりするのよね?」
ティアナもそう言ってぶるっと身を震わせる。
この世界に床暖房は無い。
通常は着込むか暖炉のそばで温まるかだ。
あたしはふと日本のこたつを思い出していた。
冷え性で特に足先が冷たくなるあたしにはあれがあったら助かるだろうなぁなんて思ってみる。
‥‥‥作るか?
あたまの中で別のあたしがささやく。
どうせ作るなら大きくてそのままそこで書類仕事が出来そうなのが良い。
日本のように直に座るのはこの世界では慣れていないからテーブルに布団をくっつけて中で熱源をこさえて‥‥‥
既にあたしの頭の中はこたつでいっぱいだった。
あたしは午前で仕事をさっさと片付けて早速マシンドール工房へと向かうのであった。
* * * * *
「エルハイミさん、また何か作るんですかい?」
ルブクさんはスキー板を作っていた。
偵察部隊が要望していた短めの奴だ。
どうやらこれの方が動きやすいらしい。
「ええ、でも大量には作るものでは無いので安心してくださいですわ!」
にこやかなあたしの笑顔にルブクさんは胸をなでおろす。
前にも愚痴っていたらしいけどあたしが工房に来るたびにルブクさんたちが忙しくなると最近は身構えられているらしい。
「で、今度は何なんですかい?」
「えーと、『こたつ』を作ろうと思いますの」
こたつ?
そう言って工房の周りの人たちも一瞬手を止める。
「それでエルハイミさん、『こたつ』ってのは何なんだい?」
「そうですわね、テーブルに保温用のお布団がくっついたものですわ!」
工房にいる職人たちはみんな頭にクエスチョンマークを浮かべてあたしを見ている。
あたしは了解を取って素材を分けてもらい四人掛けのテーブルを錬成する。
そして天蓋版も作りこれに合わせた椅子も作る。
普通の足がある椅子ではせっかく温まっても暖気が抜けてしまうからだ。
熱源は安全を考えて焼き石にやけど防止用の保護網を作って完成。
「あとはこのテーブルと天蓋版の間に厚手のお布団をはさんで中の焼き石を加熱すればいいのですわ!」
あたしはビット指を立ててそう説明する。
「なるほど、暖気をこの中に閉じ込めるって事か? これなら足元が温かくていいな」
ルブクさんはあたしの説明に唸りながらその出来栄えを見る。
そしてあたしに振り向く。
「で、毎度の事だがエルハイミさんじゃこいつは持ち上げられねえだろ? どこに持って行けばいいんだい?」
あー。
またまたあたしはルブクさんにお願いしてこのこたつを執務室まで運んでもらうのだった。
* * * * *
「それで、これが『こたつ』と言うやつなの?」
ティアナとシェルはこたつを不思議そうに見ている。
今は見つけてきた布団もかけられていて四つのひじ掛け付き大き目な背もたれ椅子に囲まれたそれを興味深そうに触っている。
「はいですわ、早速使ってみましょうですわ!」
あたしはそう言って中にある焼き石を炎の魔法で過熱をする。
そして布団で密閉して待つことしばし。
「そろそろいい頃合いですわ。ティアナ、シェル椅子に座ったらなるべく布団の隙間が出来ないように注意してくださいですわ!」
そう言てあたしは椅子に座る。
おおっ!
あったかい!!
こたつの中はいい感じに温まっていた。
ティアナとシェルもあたしに倣ってこたつに入る。
「うあっ! あったかい!!」
「ほんとね、これ良いわね!!」
「えー、温かいの? あたしも入る!!」
みんなこたつに入って緩やかな表情になる。
「いやぁ、これ良いわね。ほんとに足がポカポカして気持ちいい」
「そうね、確かにこれならずっと座っていても大丈夫ね」
ティアナもシェルも気持ちよさそうだ。
「ああ、そうですわ過熱用の焼き石には注意してくださいですわ。冷えてきたらまた焼き石を加熱しますが直接触るとやけどしてしまいますわ。一応保護用の網はありますけど、それも結構熱くなりますわ」
あたしはそう言って注意を促す。
しばらく三人でぬくぬくとこたつを楽しむ。
だんだんと気持ちよくなってきて眠気すら出始めたころ、ティアナが小さな声であたしに何か言ってきた。
「エ、エルハイミ、駄目よここじゃ‥‥‥」
ん?
ティアナが少し顔を赤めてなに?
「ひゃんっ! エ、エルハイミなの?」
シェルもこっちを見る?
なんだろう?
「エ、エルハイミったらダメだって、シェルもいるんだから‥‥‥」
「ちょ、ちょっとエルハイミ? ダメよ、あたしはティアナじゃないんだから!!」
なんか二人とも赤い顔してもじもじ始める。
はて、どうしたのだろう?
するとあたしにも何かが触れた!?
「ぴゃっぁ!!!?」
あたしをそれはなぞる。
もしかしてティアナ!?
い、いや、シェルなの!!!?
びくっ!
「ちょ、ちょっとですわぁ! ティ、ティアナなのですの?? それともまさかシェルですの!?」
もぞもぞと動いていたそれはすっといなくなる。
そして今度はティアナがまた変な声を出す。
「んんっ! そこだめっ!」
そしてシェルも!?
「ん、駄目だってば、へ、変な気持ちになっちゃうじゃないのぉ、このエロハイミぃ‥‥‥」
異常な事は分かっているけど何故かみんなこたつから離れない。
な、なんていけないいたずらよ!!!?
あたしは焦りながらもティアナがしてきてくれていると思うと思わずうれしくなってしまう。
だんだんとみんなの息が上がってくる。
既に三人とも瞳はウルウルとして何かに期待をしてしまっている。
あたしはティアナを見る。
きっとティナのいたずらよ!
そう思いながらも思わずシェルもチラ見してしまう。
もし、シェルのいたずらだったら、あたしティアナの前で‥‥‥
ぼうっとした頭の片隅でそんな事を思ってしまう。
するり~
あっ、また来た!!
思わずびくっとしてしまう。
でも今度は何か違う。
さっきよりも強い!?
だ、だめ、これ以上したららあたしっ!!
「ぷはっぁ!! やっと出られたぁ! ひどいよみんな、一生懸命に出してって呼んでいるのに誰も気づいてくれないんだもん!!」
あたしのお腹の所からマリアが布団を押しのけ顔を出す。
「へっ?」
マリアはもぞもぞと動きながら這い出てくる。
「中はあったかいけど真っ暗で何も見えないし、出してって呼んでいるのに誰も気づかないしさ! みんな酷い!!」
そう言ってテーブルの上に出る。
そして皆を見渡してから小首をかしげる。
「どうしたの? みんな赤い顔して泣きそうな目で? なんかはぁはぁ言っているし??」
『マリアのおかげでみんな楽しんじゃったのよ、お疲れ様マリア』
シコちゃんにそう言われてマリアは首を更にかしげてからふくれた。
「ひっどーぉいぃ! みんなしてあたしを閉じ込めて遊んでたんだぁ!!」
「「「シコちゃん(ですわ)!!!!」」」
思わずあたしたち三人の声が重なる!
「とにかくみんな酷ーい! みんなのおやつ、今日の分はあたしが没収だよー!!」
憤慨するマリア、顔を見合わせ更に赤面するあたしたち。
その後こたつの中にマリアが入り込むのは禁止となったのは言うまでもない。
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