第七章7-24雪
おっさんが異世界に転生して美少女になっちゃうお話です。
異世界で力強く生き抜くためにいろいろと頑張っていくお話です。
さなぎは魚のえさよ!
あたしは食べないって!!(シェル談)
7-24雪
窓の外を見ると白いものが空から降ってきた。
「なになに!? あの白いのなに!!!?」
「うわっ! 氷の精霊力があんなに強い!!」
窓の外を見ながらとうとう降り始めた雪を見てシェルとマリアが騒いでいる。
そう言えばこの世界に来て雪は初めてだっけ?
「あれが雪って言うやつね? 雨と違ってゆっくり降ってくるのね?」
魔術授業の一環でこう言った事も習っているティアナは知識だけはあるもののやはり外の雪を見てワクワクしているのが見て取れる。
「外は寒いですわよ、出る時は温かい恰好をしてくださいですわ」
あたしの忠告も聞かずにマリアとシェルはベランダに出てすぐに撤退してくる。
「さぶっ! 無理っ! 死んじゃうよぉ!」
「何あれ! あそこまで寒いの!? ちょっとアイミ使ってこの辺の氷の精霊吹き飛ばそうよ! 寒すぎ!!」
どちらかと言うと南国育ちの二人にはこの寒さはきついだろう。
人がせっかく忠告してやったというのに。
「はい、ティアナ、これを羽織ってくださいですわ」
あたしはうずうずしているティアナに上掛けを羽織らせる。
ティアナはそれを羽織ってからバルコニーに出る。
それにくっついてあたしも一緒に出てみる。
冷たい凛とした空気が心地いい。
「ほんと、寒いのね。でもこの雪ってきれいね?」
ティアナが見る先はティナの町がだんだんと白くなり始める光景だった。
風もなく静かに降るその雪は周りの音さえ吸収してさらに静寂な世界を醸し出す。
あたしは手のひらで落ちてくる雪を受け止める。
途端にそれは溶けて水滴に変わる。
「きれいですけどこれからが本番ですわ、ティアナ。いよいよ冬が来たのですわ」
ここティナの町はガレント最北端。
北側の壁の外はホリゾンの領地となる。
「雪かぁ‥‥‥」
ティアナは空を見上げる。
雪は深々と降り続ける。
「冷えますわ、そろそろ中に入りましょう、ティアナ」
あたしたちはそう言って部屋に戻る。
* * * * *
「それで、農地の方はどうなの?」
「もともと冬に強い作物を作っている、このくらいの雪ならかき分ければ少しずつ収穫もできるさ」
北の国ホリゾン帝国出身のゾナーにしてみれば当たり前の光景らしいけど、あたしたちガレント以南の出身には翌日のこの光景は驚くべきものだった。
どうりで町の屋根に雨どいが無い訳だ。
昨晩降り続けた雪は翌日も止まらずやっと落ち着いたと思ったら積雪二メートル越え‥‥‥
どんな雪国なんじゃぁぁぁっ!!!!
ある程度は覚悟していたけどいきなり二メートル越えの積雪だよ!?
もう完全にいろいろな機能は停止するよ!
「まさかここまでとは思いもよりませんでしたわ」
「ほんと、広場の雪をどかすだけであんなに苦労するとはね」
あたしもティアナも流石に予想外だった。
「まあ、ここはこう言った地域だからホリゾンにしてみると砦を作るのにも躊躇していたんだ。何せ動きがとれなくなるからな。ガレントがこの辺に砦を作っていると聞いたときはよほど補給線が充実していると思ったもんだよ。しかし内情を聞けば逆に今までここを守っていた兵に同情をするがな」
そう、あたしたちに越冬の物資などを強く進言してきたガレント側の隊長はこの地域が長い。
今までの経験からの進言で、以前は身動きも補給線も絶たれて孤立無援に近い状況でここを守っていたのだ。
まったく、ガレントの行政はそのこと知っているのだろうか?
「でも越冬の準備は十分なのだから問題は無いのでしょう?」
「いや、主よ、問題はまだまだあるぞ。この町には貿易ギルドも冒険者ギルドもある。交易用の通路はある程度ティナの町で整備しなければならない。幸い交易は今の所ガレント側だけだからまだいい方だぞ?」
そう、このままティナの町だけに閉じこもっているわけにはいかない。
既に何人かの魔導士やホリゾンの魔法騎士がゴーレムを作り出して道に溜まった雪かきをしている。
そうなると定期的にその整備の予定を入れなければならい。
ガレントの砦隊長は冬場でも補給線が確保できることを喜んでいるけどその費用やら何やらが完全に予定外だった。
「そうするとこの雪はどのくらい続くの?」
「どのくらいと言われても、主よまさか知らないのか? 春まで雪は無くならないぞ??」
びきっ!
ティアナが固まる。
やっと状況を理解できたみたいだ。
あたしは前世の記憶のおかげで東北の日本をイメージしてさっきから諦めていた。
「え? ええ?? じゃあこの雪ってずっとこのままなの!?」
「まあ多少は溶けるがこの辺は豪雪地帯だからな。多い時は五メートル近く雪が積もるぞ?」
がーん!!
ティアナは完全にショックを受けて固まったまま動かない。
ゾナーはあたしを見てため息をつく。
「エルハイミ殿は状況を理解できているみたいだな? 俺は町の方の面倒を見に行くとする。時に聞きたいのだがマシンドール共はこの寒さは問題無いのか?」
ゾナーはアイミを見ながらそう言う。
「アイミたちは問題無いでしょう、双備型のおかげで自分で温度を上げれるので金属の体が凍り付くような事はありませんわ」
ソナーはふむとうなずいて更に聞いてくる。
「雪上での機動性は? まさかそのまま動かす気じゃないだろうな?」
聞かれてあたしも おや? と思う。
そう言えば雪上での運用なんて考えた事も無い。
「雪の上だと何か問題なの?」
やっと硬化から戻ってきたティアナが逆に質問をする。
「まずマシンドールの重さだが金属の体だ、女型でも相当に重いはず。雪の上ではそれだけでも埋まって身動きできなくなるぞ? それといくら体温を自由に上げれるとはいえ雪の中でそれをやったら落とし穴に落ちたも同然になる。最悪五メートル下の地面まで雪を溶かしながら沈んでいくぞ?」
うあー!!
何そのセルフ罠!!!?
稼働にしか頭に入ってなかったので運用問題をすっかりと忘れてた!!
あたしはゾナーを見る。
ティアナもゾナーを見る。
「‥‥‥わかった、マシンドールの運用方法も考案して後で報告する。ガレント側の衛兵もホリゾンの連中と雪上訓練につかせよう。そうしないと万が一の時に籠城しか手がなくなってしまうからな」
ゾナーはため息をつきながらそう言う。
いやー、助かった。
雪上での軍隊運用なんて聞いた事無かったもんね。
やはりこういう事は餅は餅屋か?
「じゃあ、お願いねゾナー」
「了解だ、主よ。そうだ、シェル殿はいないか?」
ゾナーは周りをきょろきょろ見てシェルを探す。
一体シェルに何の用だろう?
「シェルには繭の生育をお願いしてますわ。ティナの町の新しい産業として絹の生産を考えているのですわ」
「絹だと? それであんな変な注文をしてきたのか。虫に食わせる葉っぱが欲しいとか訳が分からなかった。そうか、絹か」
ゾナーは腕を組んで納得がいったというふうに首を縦に振っている。
「絹って、シルクの事? こんな寒い地域で絹なんて取れるの?」
「冬場は無理でしょうけど、天然の蚕がこの近くには多くいるようなので養殖できないかシェルに協力を頼んでいますの」
あたしのその言葉に今度はゾナーが驚く。
「あんな虫を養殖出来るのか? 確かにこの辺には多いと聞いたが蛾だぞあれは!?」
「シェルの話ですと孵化してすぐに雄雌をくっつければ簡単に卵を産むらしいですわ。それを安定した所で育てるとどんどん大きくなって簡単に繭を作ってくれるらしいですの。環境さえ整えれば飛ぶことさえ面倒がるそうですから飼育は簡単らしいですわ」
ゾナーはちょっと嫌そうな顔をしてからシェルへの伝言を言ってくる。
落葉樹なので今は無いそうだが幹は近くにたくさんあるから春以降は簡単に手に入るそうだ。
そして去り際にぽつりと聞いてくる。
「まさかと思うが、エルフはさなぎを食うのか? ホリゾンの農村でも絹を取った後のさなぎを冬場は栄養源として食う習慣のある村もあるが、やはりエルフもそうなのか??」
あたしは思い出す、生前にも聞いた事が有る。
あのさなぎを佃煮か何かにして食べる習慣のある地域が有るとか無いとか‥‥‥
そう言えば日本の隣国でも食べていたっけ!!
「ああ、みんなここにいたんだ、うまく行きそうよ繭も順調に冬眠に入ったみたいだから春には孵化して卵を産むでしょうね!」
丁度シェルが戻ってきた。
あたしたちはシェルを見る目がその、何と言うかゲテモノ食いをする者を見るかのような目になってしまう。
その視線に気づいたシェルは変な顔をして聞いてくる。
「なに? なんかあたしの顔についてる? みんな変な顔をして??」
そんなシェルにあたしたちはつい言ってしまう。
「シェル近寄らないで!!」
「エルフもそう言う習慣が有るのか‥‥‥ 残念だせっかくの素晴らしい貧乳なのに‥‥‥」
「シェル、まさかあなたのそうなのですの??」
頭上にクエスチョンマークを浮かべながらシェルは何のことだか分かっていないようだ。
「なに? どういう事よ!?」
近づくシェルに思わずあたしたちは引いてしまう!!
『みんなあんたが絹取った後の蚕のさなぎを食べると思っているらしいわよ?』
シコちゃんの説明にシェルは驚く。
「なっ! 食べないわよあんなまずいもの!! そりゃあエルフの中には好んで食べる人もいるけどあたしは大嫌いだわよ!!」
そう言うシェルにあたしたちはつい思う。
食べた事あるんじゃん!!!!
しばらくみんながシェルを遠ざけたのは言うまでもない。
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