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エルハイミ-おっさんが異世界転生して美少女に!?-  作者: さいとう みさき
第六章
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第六章6-10長かった一日

おっさんが異世界に転生して美少女になっちゃうお話です。

異世界で力強く生き抜くためにいろいろと頑張っていくお話です。


お、大人の口づけですの!!?(エルハイミ談)

6-10長かった一日



 あたしとシェルさんは再びマーヤさんの「命の木」の前に立っていた。




 すると先ほど同様周辺の木々やマーヤさんの「命の木」からあのモヤが吐き出され合計六十人くらいの黒い偽師匠たちになる。



 「さあ、始めるわよ! エルハイミ魔力を!!」


 「はいっ!」



 シェルさんの掛け声と共にあたしは鎖を使って魔力を注ぎ込む!



 「風の乙女よ! 炎のトカゲよ!」


 シェルさんは精霊たちを呼び出し攻撃をかける!

 あたしはとどめることなく魔力を送る。


 「みんな! もっとよ! もっと手伝ってぇ!!」


 シェルさんの呼びかけに大量のシルフやサラマンダーが現れる! 

 その数ゆうに五百近く!!


 次々と現れる精霊たちはシェルさんの指示に従って偽師匠たちに攻撃をかける!!



 しかし流石魔人戦争の英雄たち。

 押しよる精霊たちをどんどんと撃破していく。



 勿論向こうも無傷ではない。

 何とか一人二人と徐々にその数を減らす。


 

 「くっ! 流石マーヤ、強い!!」



 唯一助かるのは偽師匠たちはそれほど魔法を使ってこないことだ。


 これで連発で魔法を使われたらいくら物量で押しているあたしたちであってもすぐに巻き返されてしまう。

 多分本物と違って保留魔力だけで戦っているのだろう。



 本物の師匠がどれだけ脅威か再度実感する。



 半分ほど偽師匠たちを倒した頃、こちらの精霊もほとんどいなくなってきた。

 あたしは鎖経由でまたシェルさんに魔力を送る!



 「ほんとあなたって魔力底なしね! でも今はそれが助かる! みんな、もっともっとよ!!」



 そう言って追加された魔力を糧にシェルさんはまたまた大量のシルフとサラマンダーを呼び寄せる!



 と、向こうも何処から呼び出したのか偽師匠たちの増援を呼び寄せる!?



 あたしはずっと魔法の構築をイメージしている。

 雷撃の原理でそれを天空の魔法陣に集約して、アースになる地面に一気に流す!

 後はその数を可能な限り増やして豪雨のように放てばあの究極魔法が完成する!!


 呼吸を整え、タイミングを見計らい、シェルさんに魔力供給しながらあたしはイメージを固める。



 と、偽師匠たちの前衛が倒れて一所に溜まる!



 

 チャンス!




 「いけぇ! 【雷龍逆鱗】!!」


 あたしのかざした手の先、偽師匠たちがたまっている上空に大きな魔法陣が出来上がる。

 そして次の瞬間大きな音を立てて豪雨のような沢山の稲妻が落ちる!!


 

 カッ!


 どががぁあああぁぁぁんんっ!!!!



 その場にいた偽師匠たちのほとんどを飲み込んでその落雷の雨は降り注いだ!

 豪雨のような雷を受けた偽師匠たちはぼろぼろと崩れながら霧散する。



 「やった! あと少し!! 風の乙女よ、炎のトカゲよ、来てぇっ!」

 

 シェルさんが更に魔力を使って精霊たちを呼び出す!

 あたしは慌てて魔力をシェルさんに鎖を通して送り込む。


 

 がくんっ!



 あたしは膝をついてしまった。

 流石に魔力の使い過ぎか!?


 慌てて近くのマナを魔力還元して吸収する。



 「これで最後!!」



 シェルさんの操るシルフが偽師匠を翻弄し、その隙にサラマンダーが炎の体当たりをくらわせる!

 偽師匠はその攻撃にとうとう倒れ、すべての偽物たちが霧散していなくなった。



 「やったぁ! とうとう全部倒した!!」


 「ええ、とりあえずは何とかしのぎましたわ」



 あたしは大きく息をつく。


 やばいな、いくら近くのマナを魔力還元して吸収しても限度がある。

 こういった鍛錬を怠っていたことをいまさらながらに後悔する。


 いつも師匠に鍛錬は怠るなって言われてたもんなぁ。

 つくづく皆の存在が今まであたしを守ってくれていたことを実感する。



 「さてと、これでマーヤさんの木の呪いを解けそうですわね?」


 そう言いながらあたしとシェルさんはマーヤさんの「命の木」まで来る。



 異形の形がやや収まった感じだけどまだまだその色は濁った黒いまま。

 周辺の「命の木」はほとんどが半透明に戻っている。



 「やっぱりまだまだマーヤの呪いは解けてないよね? これからどうするの?」


 「先ほどの【解除魔法】ディスペルマジックを試しますわ。と、その前に【拘束魔法】バインド!!」


 あたしは魔法の束縛をマーヤさんの「命の木」にかける。

 これで下手な動きは出来ないはず!



 「ちょっ! あたしのマーヤなんだから手荒にしないでよね! エルハイミ!」



 「すみませんですわ。でもここでまた何かされたらせっかくここまで抑えたのが無駄になってしまいますわ。【束縛】の魔法は傷つける事は無いので安心してくださいまし」


 あたしは【束縛】をしたまま【解除】の魔法をマーヤさんの木にかける。



 「【解除魔法】ディスペルマジック!」



 するとマーヤさんの「命の木」は震える。

 しかし濁った黒さは消えることなくとぐろを巻いている。


 「どういうこと? 魔法で呪いが解除できるのじゃないの?」


 「おかしいですわ、魔法自体は効いてはいるみたいなのにマーヤさん自体がそれを拒んでいるみたいですわ!?」


 「そんな馬鹿な!」


 シェルさんはマーヤさんの木を見る。

 あたしの魔法は確かに発動している。

 現に木の葉先は元の半透明になりつつある。


 しかし異様にゆがんだ幹や枝は未だに濁った黒さをしている。



 「【解除魔法】ディスペルマジック!!」



 もう一度あたしは魔法を発動させるけどわずかに幹の表面が半透明に戻ったままだ。


 「どういうこと? 魔法は効いているのにマーヤの木はそれを拒んでいるの?? 何故!?」



 そう言いながらシェルさんはマーヤさんの「命の木」に抱き着く。



 「ねえ、マーヤお願い! この呪いを解かなきゃ皆が死んじゃうんだよ! お願いマーヤ!!」



 シェルさんの悲痛な叫びがこだまする。

 

 「シェルさん‥‥‥」


 あたしがシェルさんの名前をつぶやいたその瞬間真っ黒なキリのような棘が「命の木」から飛び出しシェルさんを貫く!!


 「くぁっ!!」


 「シェルさん!!」


 慌てて駆け寄るあたしだったがシェルさんはあたしを止める。


 「ま、待ってマーヤの声が聞こえる‥‥‥」


 しかしこのキリは深々とシェルさんの胸を貫いている。

 出血は無いものの実際には即死レベルのモノだ。


 あたしはどうしていいのか分からずシェルさんに触れることもできずあわあわ慌てふためいていた。

 しかし、次の瞬間かすかにだけどあたしにも聞こえた気がした。


 マーヤさんの声だ!



 『に、憎い‥‥‥ 私の子供を犠牲にしたエルフみんなが憎い‥‥‥ あたしから何もかも奪ったジュメルの奴等が憎い‥‥‥ ジュメルを滅ぼすのを手伝ってくれないユカが憎い‥‥‥ 憎い‥‥‥ 何もかもが憎い‥‥‥』



 何これ!?

 マーヤさんの声が鎖を伝わってあたしに届いてくる??



 あたしはもう一度シェルさんを見る!


 「マーヤ‥‥‥ ごめんねマーヤ、マーヤの本当の気持ちに気付いてあげれなくて‥‥‥ でもだめだよ、いくら憎くてもそれはだめだよ‥‥‥ このままじゃマーヤだって死んじゃうよ!!」


 シェルさんはぽたぽたと涙を流していた。


 そしてシェルさんは胸に刺さったキリから手を放しそれがのめり込むのも厭わないで更に強く強くマーヤさんの「命の木」に抱き着く。



 「マーヤにはあたしがいる。あたしはずっとマーヤと一緒にいてあげるからもうやめようよ‥‥‥ お願いっ、マーヤ!!」



 シェルさんの悲痛な叫びにマーヤさんの「命の木」が揺れる!





 「うっ! うわぁぁぁぁぁっっっ!!!!」



 しかしシェルさんの悲痛な叫びは届かず黒いキリはその濁った黒さをシェルさんの中に吐き出し始めた!!




 『憎い‥‥‥ 憎い‥‥‥  ‥‥‥ニクメ ‥‥‥ニクメ ‥‥‥スベテヲニクメ!!』



 マーヤさんの声が徐々に変わっていく!?

 この声って誰よ!!!?

  

 まさかこれが魔人王の声!?



 いけない!

 シェルさんがどんどん浸食されていく!?


 鎖を伝わって状況があたしにも手に取るようにわかる。

 

 「シェルさん、だめですわっ!!」


 「そ、そうよマーヤ、すべての憎しみをあたしの中に吐き出して!! マーヤの為ならすべて受け止めてあげる!!」



 だめだっ!

 シェルさんは全ての呪いを自分の中に封じ込めようとしている!?

 このままじゃシェルさんが死んでしまう!!



 あたしは残った魔力全てを【解除魔法】ディスペルマジックに変えて鎖からシェルさんに流し込む!

 しかし呪いの方が強い!?


 いくら周りからマナを調達して魔力に変えても追い付かない!



 「くっ! くぅぅうううぉぉぉおおおののぉぉぉぉっでぇすぅわぁぁぁぁぁぁぁあああっっっ!!!!」



 あたしは振り絞れるもの全てを振り絞ってありったけの魔力をぶつける。

 既に腕や足の感覚は無くなってきている。

 でもまだ駄目っ!

 呪いを完全に消し去るにはまだ少し足らない!?


 やっ、やばい‥‥‥ 目がかすんできた!?


 









 ふと周りが白く光って見える。




 真っ白なその世界は裸のあたしとシェルさん、そして向こうに見えるのはやはり裸のマーヤさん?



 そのマーヤさんに薄く輝くあの壺が空からゆっくりゆっくり降りてくる。

 それを見たマーヤさんは穏やかな表情になり両手を広げその壺を迎え入れる。


 そしてその胸に抱かれた壺は薄く輝いて赤ん坊に変わる。

 

 マーヤさんはその赤ん坊に笑顔を向けて頬ずりをしている‥‥‥



 

 あれはマーヤさんの子供?





 「マーヤごめんなさい」


 ふと声のした方を見ると裸の師匠がいた。

 仮面も外していたその両目からは涙が流れていた‥‥‥


 「師匠‥‥‥」



 

 「マ、マーヤ?」


 シェルさんの声にマーヤさんがこちらを振り向く。



 「シェル、ごめんなさい。私はあなたを自分の子供と重ねて見てたの‥‥‥ 生まれていたら、大きくなっていたら‥‥‥ たとえハーフエルフでもシェルと同じくらいになっていたはず‥‥‥ だから私は‥‥‥」




 「マーヤっ!!!!」



 シェルさんの声を最後にマーヤさんと赤ん坊が輝き始める。

 それはまぶしすぎて直視できないほどに!




 「マーヤっ!」

 

 「シェ、シェルさん!?」


 あたしとシェルさんの声が光にかき消されていく。

 そしてあたしたちの意識も光に飲み込まれかき消されていった‥‥‥





 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


  

 

 「エルハイミ! エルハイミぃっ!!」



 あたしの名を呼ぶ声にはっと目が覚めた。


 「エルハイミっ! よかったっ!! ねえエルハイミあたしが分かる!!!?」


 涙でぐしょぐしょになっているティアナの顔が目の前にあった。


 

 あれ?

 あたし何してたんだっけ??



 起き上がろうとしたけど手足に力が入らない。



 あれ?

 動けない??



 「エルハイミちゃん、良かった意識を取り戻しましたね!」



 あれ?

 なんでアンナさんまで涙ぐんでいるの??



 『全く、あんたって子はなんて無茶するのよ! でもよく戻ってきたわね‥‥‥ 呪いは消えたわよ』



 シコちゃん?

 えーと呪い‥‥‥


 頭の整理がつかなかったあたしはそれでもシコちゃんの言葉ですべてを思い出した!!



 「シェ、シェルさんは!? マーヤさんは! 師匠は!! ‥‥‥うっ!」


 「エルハイミだめっ! まだ動いちゃだめよ」


 ティアナがあたしに抱き着いてくる。

 アンナさんは優しくあたしのおでこに手を触れた。


 「エルハイミちゃん、みんな無事ですよ。またエルハイミちゃんが頑張って無茶したみたいですけど、今はシェルさんもマーヤさんも師匠も静かに寝ています。今はエルハイミちゃんが一番安静にしていなければだめですよ。あたしたちの魔力だけじゃエルハイミちゃんを回復できないのだから」



 回復?

 あたしたちだけの魔力??

 よくよく見るとアンナさんもティアナも疲れた表情をしている。



 『本当にガーベルの血筋ってのは無茶しかしないのかしらね? エルハイミ、向こうの世界で何してたか知らないけど全魔力使いきって足らないからってあなた自分の命まで魔力変換してたでしょ? アンナやティアナがあなたにいくら魔力を注ぎ込んでも底なしに消えていくのだもの、みんな焦るわよ。でもよかった、ちゃんと戻ってこれたみたいで』



 命を魔力変換?

 あたしは動けないけど瞳を動かして目に入る自分の髪の毛を見る。


 

 白くなっている‥‥‥



 やっちまったぁ~~~~~~~~~~


 深く深く息を吐く。

 また三途の川を渡るところだったのか‥‥‥




 「ぐすっ、もう無理はしないでって言ったのにぃ~ エルハイミのばかぁ~~~~!!」


 そう言ってティアナはあたしの唇を奪う!


 「むっうぐぅぅぅっ!!」


 こ、こらティアナ!

 し、舌まで入れてこないでぇ!!!!


 しばらく濃厚なキスをされ、きらめくつばの薄い橋をかき消しながらやっと解放されるあたし。

 

 ちょっと放心状態‥‥‥


 や、やばいよこれ、すっごく気持ちいいっ!!


 

 「はぁはぁ、こんど無茶したらこんなんじゃ済まさないからね! わかったエルハイミっ!!」


 「ティ、ティアナぁ~~~~~(涙目)」



 『はいはい、ご馳走様。それだけ元気があればもう大丈夫ね? でもまだまだ安静にしてなきゃだめよ。とにかくエルハイミは寝なさい。【睡眠】!』



 シコちゃんの配慮で無理やり休まされるあたしは【睡眠】の魔法であっけなく眠りに落ちた。




 長い長い一日はこうして幕を閉じたのだった。

  

 

 

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