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せーのっ!

 ログイン、という作業もこれが最後になるのだろう。

 私は前回ログアウトしたトリデンテの自宅にログインした。

 もちろん沙耶もこの場所にいる。ほんの数秒前に別れてからのスピード再会。今になって、先程いろいろと口走った言葉の数々が恥ずかしくなってくる。


「え〜と、おかえり?」

「ふふ、なにそれ」

「えへへ、なんかちょっと恥ずかしくなって」

「今更でしょ。とりあえず、家族に連絡しておこうか」

「あ、そっか、お母さん達はサイバーフィッシュにいるんだよね」


 みんなの家族にはトリデンテではなく、サイバーフィッシュに住んでもらうことになった。その理由はトリデンテが襲撃を受ける可能性があるから。

 イーターを倒したとはいえ、アレが一体だけとは限らない。もしもNWに紛れ込んだイーターが複数いた場合、Nos.が4人在住しているトリデンテは間違いなく標的になる。

 なので、まだこの世界に慣れていないみんなはトリデンテから近く、かつ安全なサイバーフィッシュに住んでもらうことになっている。

 サイバーフィッシュの住人は現在50人。初心者のサポートにも慣れているし、防衛面も問題ない。そしてNos.がいないのでイーターに狙われる心配もなく安心して暮らせるはずだ。


 雪ちゃんに連絡を取ると、友達がサイバーフィッシュにいるので、とりあえずこのまま時間までサイバーフィッシュで待機するらしい。

 そういえば以前、私がNWに誘った時に、友達にもNWに誘われているって言っていた気がする。その友達がサイバーフィッシュにいるのだろうか。



「よし、とりあえずお母さんもお姉ちゃんもログインしてるし、あとは時間まで待つだけかな。マリは?」

「うん、こっちも大丈夫みたい」

「じゃあ、とりあえず外に出ますか」


 マイホームの外に出ると、ハナビちゃんがヴォイスの頭を撫でながら餌やりをしている。


「ハナビちゃん、ただいま」

「あ、お母様方」


 ハナビちゃんは私達の声に反応すると、一目散にこちらに駆け寄って抱きついてくる。今日からは私達がNW側にずっと居られる。口には出さないが、たぶんハナビちゃんはそれが嬉しいんだと思う。

 私は「よしよし」とハナビちゃんの頭をポンポン叩く。


 キャベツを栽培してる畑のほうではヒビキとハヅキさんが、浜辺のほうにはジャガミを頭に乗せた会長と双海さんがいる。

 トリデンテは全員ログインしている事を確認して、後は時間を待つだけとなった。


 移住希望者は必ず23時までログインしたままで待機するよう、運営からアナウンスがあった。

 23時に意識と魂をNWに転送し、その一時間後にイヴさんが【ワールド・エスケープ】を発動させて、NWと地球の繋がりを断つ。

 これで外にいるイーターはNWに干渉することはできなくなり、私達は世界の終焉から逃れることが可能なはずだ。


 新しい世界として生まれたNWは、この先どうなっていくのだろうか。

 これまで生きてきた世界とは何もかも違う。世界の終焉を逃れたからといって、完全に安全な世界になったわけでもない。

 モンスターもいればPKだっている。この先どうなっていくかは正直まったくわからない。


 そんなことを考えていると、ふと、双海さんの憂い顔が目に入る。

 普段あれだけ元気な双海さんがこの表情を見せるのは、修学旅行以来、二度目だろうか?


「双海さん、緊張してるの? 珍しいね」

「んん!? だ〜れが緊張してるって〜?」


 双海さんは私の後ろに周り込むと、脇の下に攻撃を仕掛けてきた。


「ちょ、双海さん! くっ……あはは、くすぐったいからやめてってっば! 沙耶〜助けて!」


 また始まった、と苦笑している沙耶に助けを求めて、なんとか解放される。


「はぁ、死ぬかと思った。NWって設定とかで感度下げれないの?」

「そんな機能があると私の楽しみが減ってしまう!」

「いや、その楽しみは別に減ってもいいけど…… で、何悩んでたの? 現実に心残りが?」


 あんまり詮索するのも悪いが、NW移住目前であんな顔されたら不安になる。もしも心残りが強くて魂がNWを拒否したら、取り返しがつかないからだ。

 沙耶とハナビちゃんも、私と気持ちは同じようで、心配そうに双海さんの隣に腰をおろした。

 それを見た双海さんは海の方角を見つめながら、重い口を開く。


「大したことじゃないよ。ただ、ちょいとミドリ達のことが気になっただけ」


 ミドリとは緑川さんのことだ。修学旅行で緑川さんへの想いを断ち切って以降、あまり連絡はとっていないらしく、結局、最後のお別れも言ってないなと沈思していたらしい。


「双海ちゃん、まだ好きなの? 緑川さんのこと」


 沙耶が口にした言葉は、私も聞きたいと思っていた事だ。

 想いを断ち切ったというけれど、実際どうなのかはよくわからなかった。特に双海さんは普段からおちゃらけているので本心が掴みづらい。


「好きという想いは、もうないかな。好き"だった"って思い出はあるけどね。心配してるのは、単に幼馴染みとして心配になってるだけだよ」


 小さい頃から共に育ってきた二人が、終焉を迎える世界に残るとなったら、気が気でないのは当然とも言える。


「あれ、でもサーチしたら普通にログインしてるけど」

「なぬ!?」


 タイムリミット間近ということで、現在ログインしてる人は移住希望者とみて間違いないだろう。『ミドリ』というキャラネームは双海さんから聞いていたので試しにサーチにかけたところ、ここからは遠い場所ではあるが、ログイン状態であることがわかる。


「なんだ、結局移住するのかな、ミドリ」

「まぁ、今の地球の状況を見たら、心変わりしても不思議はないかもね」

「そういうもんかぁ。でも、まぁ、ちょっと安心した。生きていてくれることが」

「私も安心したよ。あんなに移住に前向きだった双海さんが突然いなくなっちゃうかと思って」

「いやいや、さすがに移住やめるとかはないから! トリデンテにある瞳子ちゃんハウスを立派にして、優雅に暮らすことが今の夢だし」



 他のみんなにも目を向けてみるが、会長は今か今かと移住を待ちきれない様子で不安要素ゼロ。ハヅキさんもヒビキと楽しそうに笑顔で会話して緊張などは見られないし、移住に前向きなのだろう。

 ハナビちゃんは元々この世界の住人なので問題なし。沙耶は言わずもがな。うん、全員大丈夫そうだ。


 23時が近付き、誰が言うわけでもなく、村の中央の木の根元に突き刺してある槍、トリデンテの元に集まっていた。

 結局、人面虫はセーラさんとは無関係であり、セーラさんの魂がどこを彷徨っているのかはまだ特定できていない。

 人面虫に取り込まれた人々は、私達が倒した際に魂となって飛散し、セーラさんと同じく彷徨っているらしい。

 元のPCデータは人面虫によって破壊され、魂の還る場所が失われている以上、魂を見つけた後に器を用意する必要がある。それは武器でも道具でも家具でも、なんにでも宿せるらしいが、とにかく魂を見つけなければ話にならない。つまり当面は魂を探す方法を探りながら暮らしていくことになる。




「さて、ウチとハナビは既にNW側の人間だから、特に心構えとかはないが、他のやつらは準備いいか?」

「うん、私は大丈夫。ヒビキ、アナタが私をNWに引き込んだようもんなんだから、責任とって守ってよね」

「わかってるって」


 ハヅキさん、ドサクサに紛れてプロポーズみたいなこと言ってるけど、以前からヒビキはハヅキさんとNC作りたいって言ってたし『いよいよか』なんて思ってしまう。



「心構えなど、ワタクシは何年も前に済ませてありますわ! ドンとこいって感じですわね」


 会長は昔から異世界に憧れていただけあって、今回の移住の件では、まったくと言っていいほど揺らぐことなく、この日を待ちわびていた。

 誰よりもNWを愛し、信用しているし、これからもその姿勢は変わらないだろう。



「私は無理矢理転がり込むようにトリデンテに入れてもらったけど、みんな嫌な顔ひとつせずに受け入れてくれたし、優しくしてくれた。だから今度は私がみんなに精一杯、恩返ししていくよ」


 双海さんが真面目なことを口にしているが、不気味なのでとりあえずスルーしておく。


「をい! なんでみんな無反応!」

「いや、だって、なんかオマエが真面目なこと言うと気持ち悪いし」

「ヒビキさん、酷いぃぃ!」


 そのやり取りでトリデンテは笑いに包まれた。双海さんはみんなを笑顔にしてくれるトリデンテに欠かせないムードメーカーだ。


 そんなこんなで時刻は22時59分。いよいよあと一分で私達はNWの住人になる。私達は輪になり、手を繋ぎ、目を閉じてカウントダウンを始める。


「5、4、3、2、1! せーのっ!」

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