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夜の音

 村人Cさんの話を聞いてから数日後の水曜日、私と沙耶は声の正体を調査すべくNWにログインした。

 深夜に調査をするために早めに仮眠をしておいたので準備は万端だ。



「で…」

「で?」

「なんで双海さんがこの時間にログインしているの」



 私と沙耶がログインしたのは深夜の二時。

 トリデンテも夜のとばりに包まれ辺りは暗く、ハナビちゃんやヒビキは寝ている時間だ。


 そんな暗闇のトリデンテの中に明かりが灯る家があるので、まさかと思っていると、その家の主である双海さんが窓から顔を出して手を振っていたのだ。



「なんでって事はないじゃん。神崎さんと姫だってログインしてるんだし」

「私達は仮眠もしてるし、ちゃんと準備してきたわよ。明日は学校だし双海ちゃん、寝坊しちゃわない?」



 沙耶は少し心配そうに、そう聞いた。



「私は深夜にもよくログインしてるから大丈夫!大丈夫! リアルで勉強するよりNWで勉強するほうが捗るのだよ」


 双海さんが言う事もわからなくもない。

 私もNW内で勉強した事が多々あるからだ。


 そんなこんなで結局双海さんも同行する事になり、巨木に覆われた街、スノートリトンに3人でテレポで移動する。


 ここへ来るのは何度目だろうか。何度も何度も目にしたおかげで巨木にも慣れたか、訪れる度に何度も口走った「大きい木だね」という言葉は私の口からは出なくなっていた。


「それにしても大きい木だねぇい」

「……そうだね、双海さん」




 ◇




 深夜という事もあり、やはりスノートリトンはいつもの賑やかさはなく、静まり返っている。

 静寂の中で響く双海さんのマシンガントークに耳を傾けながら歩き、目的地であるホワイトランスの根元に辿り着いた。



「それでさ〜、勢いよく振りすぎてチキンが袋を突き破って吹っ飛んでいっちゃって」

「双海さん、静かに。着いたよ」

「およ、ここか。幽霊と出会える合コン会場は」



 昼間に来た時と違って、人もいなければ灯りもない。

 まさに心霊スポットな場所へと様変わりしている。

 ホワイトランスの根元、暗闇の中でも動き続けている広場の噴水、無人の出店。沙耶は一通り辺りを確認してから「とりあえず、ここで待つしかないね」と言った。


「待…つ?」


 沙耶の言葉に反応した悲しんでいるような落ち込んでいるような今にも消え入りそうな声。

 その正体は幽霊……ではなく双海さん。


「どうしたの、双海ちゃん」

「いやぁ、待つのは性に合わないというか、なんかこう…足を使いたいな〜なんて」

「足か……それじゃ待機と捜索の2班に別れようか。捜索班はマリと双海ちゃん。待機は私が一人でやるわ」

「沙耶、一人で大丈夫? 何があるかわからないよ」

「もし何かあっても耐久力の高い私なら二人が駆け付けてくれるまで持ちこたえられるからね。それに双海ちゃんはセーラさんの外見を知らないから、私かマリのどっちかがついていてあげないと。それよりも二人こそ気をつけてね」

「そっか、そうだね。じゃあ、何かあったらお互いが合流するまで無理はせずに耐えるって事で」



 ホワイトランスの根元で待機することになった沙耶に手を振りながら私と双海さんは歩きだす。まずはこの巨大な樹、ホワイトランスの周囲をぐるりと一周してみることにした。

 樹の周り、なんて言うと数秒で周れてしまうだろうと思ってしまうが、この樹はそこらの樹とは規模が違う。周囲を一周するだけでどれだけ歩けばいいのだろうか、たぶん学校のグラウンドを一周するよりも長い距離を歩く事になる、と言えばその樹の大きさがわかるだろう。




「なんか悪いね、二人の邪魔しちゃったみたいで」


 半ば強引についてきた双海さんは、私と沙耶が離ればなれになった事に責任を感じているのか両手を顔の前で合わせて頭を下げながら言った。


「大丈夫だよ。一緒にいる時間のほうが長いから、たまに離れたって」

「おぉ、さっそく惚気けた」

「そういうんじゃないってば!もう」

「ふむ。ところでセーラさんってどんな人? 話には聞いたことあるけどさ、一緒にプレイした期間ってそんなに長くないんだよね? それにしては思い入れが強すぎるように見えるっていうか」

「う〜ん、なんて言ったらいいのかな。とにかく大切な人」

「大切ぅ? まさか私より!?」

「なんで比べるの」

「妬きもち」

「も〜、双海さんも私にとっては既に大切な人の仲間入りしてるんだから、変なこと気にしないでよ」

「いや〜ん、ちょっとした冗談だったのに……そんなストレートにいわれると照れるってば、神崎さん」

「ぐっ……」


 完全に双海さんのペースに乗せられてしまった。

 私から恥ずかしい言葉を引き出そうと誘導したな。


「さて、嬉しい御言葉も頂いたことだし、真面目に捜索しますかぁ」

「最初から真面目に捜索してよ」


 スタート地点から300メートルほど歩いたが、特に異常は見られない。

 風に揺れる木々の音、波の音、虫の鳴き声。

 音による情報はあるが、目に見える情報は暗闇の中にどっしりと構えるホワイトランスのみだ。



「こちら捜索班。今のところは異常なし。沙耶、そっちは?」

「こちら待機班。こっちも異常なしだよ。そうだね……風が吹いてるから木々がざわめく音と、海から聞こえる波の音が心地良いってだけかな。それとさっきの会話も全部聞こえてるから、双海ちゃん」

「ぎくぅ! やだなぁ姫、怒らないでってば」



 どうやら沙耶のほうもこちらと差異なく平穏な時間を過ごしているらしい。

 ちなみにさっきの会話とは双海さんが私から恥ずかしい言葉を引き出した件。PTを組みながら捜索しているので、声くらいならば届く距離だ。

 たぶん怒っているというよりは……私が双海さんを「大切な人」と言った事への嫉妬かもしれない。


 大切な人なんて表現を安易に使いすぎたかな、と反省しつつ私は足を止めることなく前に進む。

 先程連絡を入れた地点から更に100メートルほど歩いただろうか、相変わらず何かあるわけでもなく誰と遭遇するわけでもない。


 そして結局はホワイトランスの周りをそのまま一周してしまい、私と双海さんの散歩は終わりを告げた。


「たっだいま〜姫。捜索班、成果なしであります!」

「ご苦労さま、マリ、双海ちゃん。まぁ、元々確実性のある情報でもなかったし、空振りでも仕方ないかな」

「うう~ん。どうする?沙耶、今日はもう帰る?」

「そうだね……もう朝の4時か。学校もあるしそろそろ終わろうか」

「うん、わかった。というか、これ絶対に授業中に居眠りコースだよ~」


 予め言い訳でも考えておかないと危険だなと思う私。

 しかしそんな心配をよそに、その日の双海さんはいびきをかいてまで爆睡して大目玉をくうのだった。

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