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変化

 そろそろ昇降口に辿り着こうかというとき、東雲さんの口から信じられない事実が告げられた。


「響さんが亡くなったって…う、嘘ですよね?」

「あなた達、知らなかったの?あれ…知り合いじゃなかったの?」


 私達が動揺するのを見て東雲さんもまた焦っている。話が噛み合ってない…私達は確かにゲームの中で動いて、喋って、歌うヒビキを確認しているんだ……。個人番号と生体認証が一致しないとログイン出来ないゲームだから、当然響さん本人である事は間違いない。


「あの、なんで亡くなったのかを教えてもらうことって…」

「その前に…あなた達は、なんで響の事を?」


 私達はNWでの出来事を説明していく。難しい話をしても理解してもらえるかはわからないので、個人番号と生体認証、セイレーンとの一件だけを簡潔に話した。


「それって、誰かが響の情報を使って不正にアクセスしてるってこと?」


 もしそんなことが可能ならば、だ。だが、強固なセキュリティを持っているNWに不正ログインする事など本当に可能なのだろうか?響さんそっくりのクローンでもいない限り不可能に近い。


 東雲さんの話によると、響さんはオペラや演劇などを愛して、将来はその道で活躍する事を望んでいたらしい。だが、小さい頃から重い病気を患っていた彼女は2ヶ月前に、病状が悪化して亡くなった。


「つまり、姫宮さん達は響を調べるために来たってわけね」

「騙すような事して、申し訳ございません」


 それまで曇った顔をしていた東雲さんは無理に笑顔を作って、気にしなくていいと言ってくれた。おそらく天王寺響さんと交流があったのだろう。彼女の事を語る東雲さんは、辛そうだった。


「あ、でも私とマリが海清を受験するのは本当ですよ。ずっと憧れだったんです」

「へ~、じゃあ次からは葉月お姉さまって呼んでもらおうかな」


 お、お姉さま!?まさか本当にそんな呼び方が存在しているのだろうか?さすが、お嬢様学校。


「は、葉月……お……おぉ…姉さま……」

「なーんてウソウソ。私もそういうの期待して入学したんだけど、お姉様なんて呼んでる人いないから、ちょっとやってみたくなっちゃって」

「あぅ…」




 ◇




 その後、東雲さんと連絡先を交換して帰ることにした。今夜ログインする約束をして、私達もそれぞれの家に帰る。


「ただいまー」


 私は家族の待つ家に帰宅する。リビングのほうへ行くと、お母さんと雪ちゃんが夕飯の支度をしている最中だった。


「あら茉莉ちゃん、おかえりなさい」

「あ、私もお手伝いしようか?」

「もう終わるから休んでていいのよ」


 夕飯の支度で忙しそうなので後にしようかと思ったが、我慢出来ずに、今日決意した事をお母さんに報告することにした。


「あのね、お母さん。私、海清を受験しようと思う」

「は!?お姉ちゃんが海清?いきなりどうしちゃったの!」


 真っ先に反応してきたのは雪ちゃんだった。私が海清を受けると知って、夕飯の支度を放り出して迫って来る。


「ゆ、雪ちゃん近い…」


 鼻と鼻がくっつくかと言うくらいに顔を寄せて『なんでなんで』と問い詰めてくる。

 雪ちゃんが『ありえなない!』と叫ぶ一方でお母さんは優しく微笑んで『茉莉ちゃんがやる気になれば、きっと受かるわよ』と快く認めてくれた。



 ◇



 食事中、今日色んな学校を訪問した事や、沙耶に惹かれて受験する事を正直に話した。


「沙耶って姫宮沙耶先輩?うちの学校じゃ有名な人だよね。なんでお姉ちゃんが仲良いの?」

「うん。実はゲームを通じて仲良くなったんだよ」

「え、ゲームってもしかして…あっ」


 雪ちゃんはNWの名前を出そうとしたが、慌てて言葉を呑み込む。私がロストメモリーズである事は、以前雪ちゃんにバレてしまったが、お母さんにはまだ話せていないからだ。折を見て話そうと思ってたけど、それが今なのかもしれない。


「お母さん、実は私――」

「知っているわよ。ネクスト・ワールドってゲームでしょう?」


 私が切り出す前に、お母さんがNWの事を口にした。


「あ、あれ?雪ちゃんNWの事、お母さんに言った?」

「い、言ってないけど…知ってたんだ」


 どうやら、専用VRが梱包されていた段ボールを捨てた時に気付いたらしい。伝票を付けっぱなしだったのかもしれない。


「ごめんなさい。隠したりして…」

「茉莉ちゃん。お母さんは茉莉ちゃんが決めた事を応援したいから、今度からはしっかり報告して、隠したりしないでね」

「う、うん」


 結局はお母さんも雪ちゃんも、私がNWをプレイしてる事を咎めたりしなかった。隠す必要なんてなかったのかな。


「あ、あのね。二人もNWにアカウント作らない?」


 別に私のようにレベル上げや冒険をしてほしいわけじゃない。万が一を考えて準備をしておいてほしいってだけだ。

 もしも本当に世界の終わりが近付いた時に慌てて準備をしても遅い気がするから、スムーズに事を進めるために、予め準備をしておくのが良いと思った。


「まぁ、キャラ作るだけなら…ていうかお姉ちゃんに誘われる前から友達にも誘われてたんだけど、中々踏ん切りつかなくて」


「そうね、ゲームの事はよくわからないし、世界の終焉も信じられないけど……もしもに備えて準備くらいしておくのは賛成よ」


「よかった!じゃあ、今度説明するね!最近はちょっと忙しいから、もう少し先になっちゃうけど!」


 NWに移住するときは家族一緒がいいから、どうしようかずっと悩んでいた。とりあえず万が一に備えて準備してもらえる事だけでも一歩前進だ。



 ◇



 私は夕飯を食べ終えて、シャワーを浴びてログインの準備をする。今はNWにログインする時間がいっぱいあるけど、今後は受験勉強も頑張らないと。NW移住が現実のものになったら、勉強も進路も無意味になるかもしれないけど、それを言い訳に逃げたら胸を張って生きていけない気がした。だから今はリアルも精一杯生きたいと思う…こんな気持ちになったのも沙耶や会長、NWのおかげなのかもしれない。



 私は、自分の心の変化に自分でも気が付いていた。

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