遠征出発(2)
いや、そうならないために食糧調達部隊を結成して遠征についていくのだ。
どうにかして風属性の魔物を狩って、風の魔石とその肉をアウモに食べさせよう。
ゾンビドラゴンを倒せばあの周辺はしばらく魔物が増加する。
超大型魔物は土を腐らせ、“狭間の泥”を吸い上げて現世に魔物の素となる“泥”だけを残していく。
他の魔物とちがって肉も素材も残さないくせに、魔物の素になるたそんな“泥”は残していくのだから超大型魔物は“災厄”扱いされるわけだ。
実際大きいだけはあって、歴史に残される超大型魔物は強大で強力。
数日かけて、多大な犠牲を払って討伐した――という記録が残っている。
国家の威信をかけて対応する相手であり、俺たちが今回派遣されるのは事前に決まっていたわけではなく、ついでだ。
本気で討伐しようとは思っていない。
これまでの超大型魔物は“狭間の泥”を移動しながら吸い上げていたという記録ばかりなのに、今回のゾンビドラゴンは森に鎮座して動かないという報告を受けている。
超大型魔物を早く倒さねばならないのは、移動するからだ。
移動して、村や町に甚大な被害を与える前に足止めし、倒す。
それが通例。
だから激しい戦闘になり、騎士や冒険者、傭兵に被害が出てしまう。
だが今回のゾンビドラゴンはその動きがないため、まずは入念な調査を、ということになったのだ。
確かに、数百年に一度現れる超大型魔物は通常の魔物よりも圧倒的に情報が少ない。
情報が取れる時に取りたい研究者もいるので、アウモの研究員以外にも同行する研究者がいるのだ。
その情報は他国に謝礼とともに提供もできるからな、多く取れるものなら取りたいだろう。
なので遠征の目的は『ゾンビドラゴンの出現により増加した魔物の間引き』と『ゾンビドラゴンの調査』と『アウモの食糧調達』。
そして――『妖精竜アウモとゾンビドラゴンの関係性調査』。
騎士団長や副騎士団長はなにも言っていないが、同行する研究者の一人にマロネスさんの知り合いがいる。
マロネスさん曰く、その人は超大型魔物を捕縛してでも調べ尽くしたいと考えているらしく、王宮から学園に聖女の同行を依頼したらしい。
聖女といえば浄化の力を持つ、冥府の女神の加護を受けた年端もいかない少女。
王子が彼女を「そんな危険な場所に連れていくことは許さない」と断ったそうだが、俺たちがゾンビドラゴンに敗北するようなことがあれば奉り上げられかねない。
そのくらいのことを平気でする輩、とマロネスさんが渋い表情で言っていたので可能なら今回の遠征で倒してしまいたい。
各国の騎士団と、冒険者と傭兵が犠牲覚悟で挑まねばならない超大型魔物だが……父に貰った魔導具――自然魔力回復装置を身につければ、俺の先祖返りスキルが五割り増し強化される。
この国でハイエルフを超える魔力量を持つ俺が、そんなものを使えば……まあ、俺一人で倒すこともできる……と、思う。多分。
ただ、その分体への負担が非常に大きい。
使うのは仲間に危険が及んだ時にする。
それが俺が俺自身に課した条件。
騎士として、守れないなんてあり得ない。
「飯って簡単なものだともたないよな? 昨日と同じ感じで食堂で食べようか?」
「ああ、そうだね。運び込まれた食糧も保存が効くもの以外は遠征に持っていくしね」
荷物をまとめ、しばらくは戻らないので食糧については俺もそれで問題ないと思う。
じゃあ食堂に行こうか、とアウモをフェリツェが抱き上げ管理人室から出た時、玄関扉が開く。
入ってきたのは魔術師団のメンバー。
「お疲れ様です……じゃ、なくておはようございます。アウモ様の朝食を作りにきました」
「ああ、ありがとうございます! アウモ、魔術師団の人たちが来てくれたよ」
「ぱうー!」
魔術師団の人たちのことをご飯提供者と思っているのか、フェリツェに抱き着いたまま大きく手を振る。
フェリツェから降りるつもりは……ないのかぁ。
「皆さんも遠征に同行してくださるんですよね?」
「はい。ですが我々は今からアウモ様に[サイクロン]を提供後魔力切れになりますので、道中魔物に遭遇したところであまり戦闘のお役には立てないかと」
「魔力回復薬は飲みますが、全快には程遠いので」
「そういうものなのですね。わかりました」
魔力のないフェリツェには魔力回復薬がどれだけ不味いか知らないもんなぁ……。
あれ、飲むんだ……プロ根性……すごいなぁ……。
俺がこの人たちの根性に感動すらしていると、全員で外に出て草原に急ぐ。
アウモの食事――[サイクロン]を食べさせていたら出発ギリギリになりそうだから。




