12そんな彼を見て
私は彼がいつも昼休みにいる大きな木のそばに行ってみようと足を進めていた。
そこに声を掛けられる。
「アマリエッタさん」
振り返るとそこにはシルフィー・ネクス伯爵令嬢が他の令嬢といた。
彼女はダークブラウンの髪色で菫色の瞳をしている。顔立ちも整っていて男子生徒からは憧れの令嬢と噂もある。
「はい、何でしょう?」
「あなた。どういう神経をしてらっしゃるの?」
「はい?」
「まあ、とぼける気ですの?」一緒にいた確かヨスナート子爵令嬢だったか。
私は何をそんなに怒っているのかさっぱり分からずまた聞き返した。
「とぼけてなどいません。そんなまどろっこしい物言いをしなくてもはっきりとおっしゃればいいではありませんか」
「シルフィー様、この方はっきり言わなければわかりませんわ」そう言ったのはローベル男爵令嬢だったか。
シルフィ様は大きくうなずくとびしっと私を指さした。
「そうですわね。アマリエッタさん。あなたどういうつもり?殿下はすでに婚約されたんですのよ。それなのにまあ、未練ったらしく物で釣ろうなんて、それにヴィント様は気分を害されて途中で退席されて‥そんなにヴィント様との婚約がいやならはっきり断わりすればよろしいじゃありませんか?」
「私はそんなつもりなど全くありません。殿下はただの友達としてお付き合いをさせていただいているだけですし、ご心配なさらなくてもヴィント様との婚約もうまく行っておりますわ」
どうしてあなたにそんな事を言われなきゃならないのよ。関係ないくせにでっしゃばらないでよ!!
ほんとはそう言ってやりたいがそう言うわけにもいかない。
シルフィが一瞬ひるんだ。
それを庇うようにヨスナート子爵令嬢とローベル男爵令嬢が前に出た。
「まあ、さっきのご様子ではサルバート公爵令息がかなりお怒りでしたわよね」
「ええ、そうですわ。まあ、殿下の気を引くことは成功したみたいですから、良かったんじゃありません?」
「勝手な解釈はやめて下さい。話はそれだけですか?私は急ぎますので」
まるっきりばかばかしい。
エディオ殿下も余計なお世話なのよ。だから私がこんな目に合うんじゃない!!
ふたりはわざと私の前に立ちはだかり大きな声で言った。
「「まさか、おふたりを天秤にかけるおつもりではないんでしょう?」」
「いい加減にしてください。あまり失礼なことをおっしゃるなら人を呼びますよ」
「まあ、恐い。行きましょうか」
「ええ、そうですね」
ふたりの令嬢はいそいそと去って行った。
あら?シルフィはどこに行ったのかしら?まあ、いいわ。分が悪いと思って逃げたのね。
まったく!いい気なもんだわ。
私はしばらくしてやっとヴィントの様子を見に行くところだったことを思い出した。
はぁぁぁ~気が重い。
でも、一応気持ちは伝えておかなければこの先も婚約者として付き合うことは変わりはないんだから。
私は廊下から中庭に出るといつも彼がいる辺りを見回す。
えっ?シルフィがどうしてヴィントと一緒にいるわけ?
ちょっと、あなたこそ余計なちょっかい出してんじゃないわよ。
人の事言えるの?
ふたりは楽しそうに話をして笑い合っている。
ふん。何がそんなに楽しいんだか。
私に喧嘩を売っておいてその隙に私の婚約者に媚を売るなんて。
もう、見てられないわ。
シルフィがヴィントの腕にすり寄る。その瞬間、風が吹いて彼女の髪がふわりと巻き上がり顔見まとわりつく。
「きゃぁ~」
わざとらしい演技でシルフィはさらにヴィントを見上げて。
ヴィントはシルフィの絡んだ髪の毛をそっと払ってやっている。
何よ!何よ!
あなたこそヴィントを狙ってるってわけ?
まあ、王子とは婚約出来ないとなれば次は公爵令息でしょうね。アントールとタロイには想い人がいるからヴィント様に狙いをつけたのね。
ふん、ヴィントもヴィントよ。ふたりで見つめ合って‥
やだ。何で私がこんなにそわそわしなきゃならないのよ。
どうせ私たちは政略で婚約したんだもの。
それに公爵家の嫡男なら好きな人を妾として持つことだって出来るのよ。
あんな事くらいでおたおたしてたら公爵夫人なんか出来ないじゃない。
しっかりしなさい私。
貴族なら当たり前な事ってわかってるはずなのに、なぜか、彼とはそんな関係ではなく家族として信頼関係で結ばれていたいと思っていた。
無理なのかな?
何だかすごくもやもやする。




