15話《重なり合う肌》
「んっ……ぁ、はぁ……」
額に感じるひんやりとした感覚。耳にわずかに聴こえる物音。遠くにあった意識が徐々に覚醒し始め、閉ざされていたルミの瞳がゆっくりと開かれていく。
「あっ、ルミ起きた?」
「か、れん……さん」
「ちょうどご飯できたよ。起きられる?」
小さく首をかしげる歌恋に、ルミは横になったまま首を左右に振った。
「じゃあそのままで。食べにくいものじゃないし、少しずつなら大丈夫でしょ」
「何、作ったんですか?」
「ミルク粥だよ。私が風邪引いた時、よくお母さんが食べさせてくれたの」
スプーンで一口分をすくい上げ、軽く息を吹きかけると、歌恋はそのままルミの口元へと持っていく。
「あーん」
「あ……んっ」
口を少しだけ開けて、差し出されたミルク粥をゆっくりと食べる。ゴクリと飲み込んだ後、ルミはもっと欲しいというように、小さく口を開いた。
「美味しかった?」
返事は返さず、こくこくと首を上下に振って頷くルミ。それを見て、歌恋は満足そうな笑みを浮かべて、またすくって食べさせた。
通常の数倍の時間をかけて、ルミは無事に食事を完了させた。吐息を一度漏らし、天井を見ながら満足そうに彼女は笑みを浮かべる。そんな様子を見て、歌恋も思わず笑みを浮かべた。
「ご満悦だね。気にいってもらえて嬉しいよ」
「……ご飯も美味しかったですけど、歌恋さんがあーんしてくれたのが嬉しかったです」
「かわゆいこと言ってくれるな」
優しくルミの頭を撫でてあげ、歌恋は食器を持って再び立ち上がる。
「どこ、行くんですか?」
「片付けしてくる」
「嫌です」
ぎゅっと服の裾を握りしめ、瞳をわずかに涙で濡らし、どこか不安そうな表情をルミは浮かべていた。
「一人に、しないでください」
少しだけ震えた声。必死に引き止めようと強く握りしめる手のひら。風邪を引いていれば、不安になったり弱気になってしまう。ルミもきっとそういう状況なのだろう。だけど、好意を寄せている相手、恋人が、そんな言葉を投げかけ、自分を引き止めようとしていることに、ときめかない人間などいるのだろうか。
歌恋は頭の片隅であることを思い出した。前にたまたま観たアニメか映画でこんな言葉があった。
『風邪で弱っている子はいつもの三割増しで可愛い』
「はぁ……」
「歌恋、さん……」
振り返り、歌恋はそのままベットに横になるルミに覆いかぶさった。
不安げに見つめてくるルミ。すると、歌恋がゆっくりと顔を近づけてきて、ルミは反射的に目を閉じてしまう。
「ダメ、先輩……風邪移っちゃう」
フルフルと震えながらそう口するが、期待していないわけではなかった。唇に感じるであろう柔らかい感触を待っていたが、それは頬で起こった。
「さすがに、病人を襲うわけにはいかないよ」
「へ?」
耳元でそう囁き、歌恋はそのままルミの横に寝転がると、ぎゅっと手を握った。
「風邪、引いちゃいますよ」
「大丈夫、私ここ六年ぐらい風邪引いてないし。それに、ルミからの風邪なら大歓迎」
ニコッと笑みを浮かべ、歌恋はそのままルミを抱き寄せて優しく頭を撫でてあげた。
「始業式は一緒に登校しよう。もちろん、帰りも」
「……はい」
互いに目を伏せ、重なり合う体の体温を感じながら、二人は眠りについた。




