10話《突然の訪問》
エアコンが程よく効いた心地の良い部屋の中、寝苦しさなど微塵も感じさせることなく、タオルケットを抱き枕にしながら歌恋はベットの上で眠っていた。
激しいアラーム音が聴こえるまでは、夢の世界でひと時の非日常を味わいながら、体の疲れをとっていく。
「歌恋、歌恋起きてる?」
アラームよりも先に、扉の向こうから母の起こす声が聞こえ出し、歌恋の意識が徐々に現実に引き戻されていく。
「これは寝てるわね……歌恋、起きなさい!」
扉が壊れてしまいそうなほどに激しく叩かれ始め、歌恋の表情は徐々に険しいものに変わっていく。
「うるさ、い……」
「ルミちゃんが来てるわよ!」
「おばさま、無理に起こさなくてもいいですよ!」
「っ!」
母の口にした言葉と、少し遅れて聴こえたルミの声に、一瞬にして意識が覚醒し、歌恋は勢いよく体を起こした。
慌ててベットから降り用としたが、足と足とが絡み合い、勢いよく床に倒れてしまった。部屋の前にいた二人はなかから聴こえた大きな音に、何事かと勢いよく扉を開いた。
「あー……」
「歌恋さん!」
「あんた何してんの……」
うつ伏せで床に倒れる歌恋。ルミは慌てて彼女のそばに駆け寄り、母は冷たい眼差しを向けながら娘を見下ろす。
「いったぁ……」
「あ、おでこ赤くなってます」
「平気平気」
「全くあんたは……」
「お母さんのせいでしょ!」
母は歌恋の怒りを軽くあしらいながら、そのまま部屋を出て行ってしまった。
その場に残った歌恋とルミ。エアコンの音が虚しく響き、しばらくすれば、セットしていたアラームが鳴り始め、歌恋は慌ててそれを止めた。
「えっと、何故に?」
主語はなかったが、なんのことかはさすがのルミにもわかり、俯き気味に、ほんのり顔を赤くしていた。
「はっ、早く歌恋さんに会いたくて……すみません、寝てたのに……」
「…………あー、もう可愛いな!」
「うひゃっ!」
ルミの発言で感情が高ぶった歌恋は、そのまま勢いよく抱きしめる。突然のことで歌恋を支えることができず、ルミはそのまま倒れてしまい、歌恋がルミを押し倒す形となってしまった。
特に何か言葉を発することもなく、二人はじっと見つめ合う。
「ねぇルミ」
「なんですか?」
「キス、していい?」
「……はい」
何度か目を泳がせたあと、恥ずかしそうにしながらも、ルミは返事を返した。
「ありがとう」
歌恋はゆっくりと顔を近づけていき、触れるだけのキスをした。
触れるまでの時間がものすごく長く感じ、触れた時間もほんの数秒だったはずなのに、数分間も触れ合ったような感覚がした。
唇が離れた後も、二人は見つめ合う。だけど自然とお互いに笑い合い、歌恋はゆっくりと体を起こしていく。
「早いけど出かけようか。準備するからちょっと待って」
「はい」




