表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏の向日葵  作者: 暁紅桜
第5章_夏の嵐
53/80

7話《赤いバラ》

翌日の空も晴天だった。劈くほどの蝉の鳴き声。アスファルトに反射する太陽の熱気。体の全てで夏を感じながら、歌恋かれんは学校へと足を運んだ。

 かけ声をあげながらグラウンドを走る野球部。体育館で俊敏な動きをするバスケ部。校舎に響く吹奏楽部の演奏。

 夏休みだというのに、部活に勤しむ生徒たちの音を聞きながら、歌恋はゆっくりと歩みを進めて、鍵のかかっていない【美術室】の扉を開いた。


「あれ、神薙かんなぎさん。おはよう」


 絵の具で汚れたエプロンを身につけ、キャンバスに筆を走らせていた椎葉しいばは、にっこりと笑顔を浮かべる。


「今日も春宮はるみやさんの付き添い?」

「いや、今日は違うんだ」

「そうなんだ。補講もないのに学校にくるなんて、神薙さんも大変だね」


 歌恋に背を向けながら、せっせと片付けを始める椎葉。そんな様子を見つめる歌恋だったが、その表情はいつもと違っていた。


「ねぇ椎葉」

「ん、何かな?」

「椎葉だよね」

「何が?」

「ルミのストーカーって」


 唐突に投げかけられた言葉に。椎葉は振り返り、首を傾げて、困ったような表情を浮かべる。


「何のことだい?」

「白百合の花言葉は《純粋》《清浄》。赤バラは《愛してます》」

「急にどうしたの?」

「一つ疑問だった。ストーカーが送ってきた水族館の写真の中に、一枚だけありえないものが入っていた」


 椎葉の問いかけを無視し、歌恋はただひたすら言葉を続ける。彼の表情はいまだに困惑しているが、歌恋は気にしなかった。


「その写真を私はちょうだいと言った。だけど彼はそれをくれなかった。だから他人にあげるなんてそんなことはありえない」


 そう言って、歌恋は胸ポケットから一枚の写真を取り出す。そこに写っていたのは、真正面から取られた、仲良さげの歌恋とルミの姿だった。


「もう一度聞くよ、椎葉」


 校舎の中にも外にも、ほかの生徒の声は響いていた。だけど、二人の耳には周りの音は聞こえない。しいていうのであれば、お互いの心音が、お互いに聞こえているようだった。


「椎葉が、ルミのストーカーなの?」


 二度目の問いかけ。椎葉は俯き、言葉を発しようとしなかった。

 教室内の掛け時計が時を刻み、そしてしばらくして、椎葉が息を吸う音が聞こえ、にっこりと笑みを浮かべて顔を上げた。


「残念、ばれちゃったか」


 否定しなかった。悪びれもなく、いつも通りに彼は苦笑する。

 抱えていたキャンバスを床に置くと、近くの椅子を引っ張ってきて、歌恋の向かい側に腰を下ろした。


「弁解は?」

「ないよ。だって、神薙さんのいう通りだから。でもストーカーじゃないよ」

「何言ってるの……?」

「僕はただ、彼女に僕の気持ちを伝えたかっただけ。そして、僕はいつでも彼女のことを見守ってる。これは愛だ。そこら辺の変質者と一緒にしないでくれよ」


 さっきまでの椎葉とは一変し、その瞳には歪んだ愛情が溢れ出ていた。

 奥歯を噛み締め、勢いよく椅子から立ち上がった歌恋は、ズカズカと床を踏みつけ、椎葉の胸ぐらを掴んだ。


「そんなもの愛じゃない。一方的な愛情の押し付けは、ただの自己満と陶酔行為だ。椎葉のそれは酷く気持ち悪い」


 苦しげに、いまにも殴りかかりそうになっている歌恋。だけど、それに反して椎葉はどこか、彼女を冷たく見たいた。


「一方的な愛情の押し付け……そう……だったら君のこれも、自己満足と陶酔行為なわけだ」

「っ!」


 椎葉が自身の胸ポケットから取り出した写真、それは……。


「随分、大胆なことをするんだね、神薙さん」


 花火大会の日。歌恋がルミにキスをした瞬間の写真だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ