6話《嵐の前触れ》
「元気でのう」
「またお正月にきんしゃい」
翌日。お祭り騒ぎだった前日よりもしんと静まり返った家の中。親戚たちは足はやに帰って行き、歌恋たち家族が、最後となった。
「お世話になりました」
「何かあったらすぐに連絡しろよ」
来た時と変わらず、日陰にいても目を細めたくなるほどの夏空。その空を少しだけ不快に感じながら、祖父母に挨拶をして車に乗り込む。
「どこも混んでるなぁ」
「お盆だもの、みんな帰ってるところよ」
後部座席でぼーっと窓の景色を眺める歌恋。全く動いかない車。対向車線とは違って、進みはゆっくりだった。
「歌恋、眠いなら寝てていいぞ」
「ん……」
「途中でパーキングエリア寄るけど、何かいる?」
「……ジュースと、たこ焼き」
「わかったわ。たこ焼きはあったらね」
すると、まるで催眠術にかかったかのように、どんどん瞼が重くなってきて、歌恋は暗闇の世界を見つめる。そして、耳に聞こえる外からの車の音と、車内に響くBGM。父親の好きなクラシックを聴きながら、徐々に意識を手放していく。
「はぁ……疲れた……」
母親に起こされて、いつの間にか着いていたパーキングエリアで一休みをして、再び車に揺られる。約三時間半かけて、歌恋は家に帰ってきた。
車を降り、荷物を手にして部屋に戻れば、エアコンをつけてそのままベットに倒れこんだ。
体にどっと疲れが襲いかかってきて、そのまま体を起こすのも億劫で、近くのぬいぐるみを引っ張ってきて抱きしめた。
「歌恋、手紙が来てたわよ」
部屋の扉がノックされ、開いた扉から顔を覗かせた母がひらひらと手にしていた手紙を振る。淡白な、一言「ん」と返事をすると、ベットから起き上がらずに手をあげる。
小さくため息をこぼしながら、母は歌恋の手に手紙をおき、それを彼女が掴むのを確認すると、そのまま部屋を出ていった。
「ん……誰からだろう」
ぬいぐるみを抱きしめたまま。無駄にしっかりと封をされている手紙を開き、その内容を黙読する。
【僕の白百合を汚す、罪深きトリカブト。君には必ず絶望を与えてあげるよ】
送り主の名前はなかった。だけど、すぐに誰からのものかわかった。
じっと、その手紙の内容を見つめた歌恋は、体を起こすとリビングに行き、晩御飯の準備をする母の背中に声をかける。
「お母さん」
「ん、なーに?」
「明日学校行ってくるね」
「あら、ルミちゃんの付き添い?」
振り返る母に、歌恋は首を横に振り、苦笑いを浮かべる。
「ちょっと用事。早めに帰ってくるから」




