3話《お買い物》
「人参、じゃがいも、玉ねぎ、豚肉……カレーかな?あっ、糸こんにゃくもあるし、肉じゃがか」
帰り道、母に頼まれた買い物をしに歌恋は近くのスーパーへと足を運んだ。
時刻は夕刻十五時頃。お客さんはちらほらと目に入り、あまり混んではいないため、のんびりと買い物をすませる。
母に頼まれたものを籠の中に入れて行き、滅多にこない店内をカートを押しながら歩き回る。
「んー……豚肉とは書いてるけど、細切れでいいのかな?」
お肉コーナーで小さく唸り声をあげながら悩み続け、最終的にはスマホを取り出して、レシピを調べ始めようとした。
「神薙先輩?」
不意に呼ばれて振り返ると、そこには小さな男の子と手を繋ぐ慎也の姿があった。
「高崎」
「こんにちは。先輩も、お買い物ですか?」
「うん。その子は?」
慎也と手を繋ぐ男の子に目を向けると、その子は繋いでいない手を歌恋に見せるように大きく広げる。
「真昼です、五歳!」
子どもらしい無邪気な笑顔を浮かべると、真昼は慎也の顔を見上げる。ちゃんと自己紹介ができ、褒めて欲しいと目をキラキラに輝かせる彼に、慎也は優しく撫でてあげた。
「にぃに、お菓子見て来ていい?」
「おう。後、一個だけ好きなの選んでいいぞ」
「やったぁ!」
真昼はそのまま慎也から手を離して、お菓子コーナーへと走り出した。そんな様子を二人で見つめた後、歌恋は思わず笑ってしまった。
「な、なんですか?」
「いや、お兄ちゃんしてるなーって。弟くんがいたんだね」
「かなり歳が離れてますけどね。今日はその、母に頼まれて弟と買い物に」
照れ臭そうにする慎也。そんな彼をからかうようにニマニマとした表情を浮かべながら歌恋は見つめる。
「せ、先輩も買い物ですか?」
「うん。ちょっと悩んでるけど、まぁ適当でいいかな」
「何を作るんですか?」
「肉じゃがらしいけど、どの部分か書かれてないんだよね」
「だったら、王道はここら辺ですかね」
そう言って、慎也はさっと選んで歌恋に渡した。
「高崎、料理するの?」
「たまにですけどね。両親が仕事の時とか」
「へぇー。部活しながら家のことするなんて、すごいね」
受け取ったお肉を籠の中に入れ、スマホのメモを確認しながら、買い漏れがないか確認をした。
「にぃに、これがいい!」
バタバタと駆け足で慎也の側に駆け寄って来た真昼が、手にしていたお菓子を見せた。
「わかったから落ち着け」
「それじゃあ私はいくね」
「あっ、先輩!」
会計に向かおうとしたとき、不意に慎也に引きとめられて振り返ると、あたふたする彼の姿があった。
籠にお菓子を入れた真昼が、様子のおかしい兄に気づいて首をかしげる。
慎也は何かを言いたげにしていたが、しばらくして俯いたまま「なんでもありません」と口にした。
「そっか。それじゃあまたね。真昼くん、バイバイ」
「バイバイ」
歌恋と真昼はお互いに手を振りあい、歌恋はそのまま会計へと向かった。
会計を済ませた商品を袋の中に入れて、店の外へと出た。
店内の涼しさとはうって変わって、肌に感じる熱にさっきまで引いていた汗が額から滲み出てくる。
「ん?これ……」
店を出てすぐの掲示板。そこに貼られていたチラシに、歌恋は思わず足を止めてしまった。
それは、数日後に行われる、花火大会お知らせだった。




