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夏の向日葵  作者: 暁紅桜
第3章_夏の恋
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8話《彼は彼女》

また、BGMが耳にはっきりと聞こえる。慎也しんやはまっすぐに歌恋かれんを見つめ、歌恋はほんのり頬を染めながら目をそらしていた。


「それは、先輩としてだよね。私も、高崎たかさきのこと」

「いえ、恋愛的な意味で好きです。先輩のことが、ずっと好きでした」


 歌恋は直接彼の表情を見ることができない。告白されて照れているからではなく、彼が自分とは違うからだった。

 ボロが出て気持ちを知られてしまった歌恋とは違い、慎也はまっすぐに彼女に気持ちを伝えた。

 胸が苦しくなる。夕月ゆづきの射形を見ている時と同じ、苦くて苦しい感覚。


「私は、その気持ちには答えられない」

「まだ、春宮はるみや先輩が好きだからですか」


 その質問に、歌恋は首をふる。黒い水面に写っている姿は、眉間にしわを寄せて、目を今にも閉じてしまうほどに細め、とても苦しげに顔を歪ませていた。


「私には、高崎が眩しくて、綺麗すぎるから」

「綺麗って……俺はそんな」

「私とは違うよ。だって、高崎はまっすぐに私に告白してくれたでしょ?」


 ただ側に居られればいい。それ以上のことは求めなかった自分と、それ以上を求めた慎也。歌恋からしたら、純粋に人を好きになって、ちゃんと気持ちを伝えた彼は、目を細めたくなるほどに眩しく、なおかつ自分の汚さを思い知らされてしまう。


「先輩……俺は、綺麗じゃないです。だって、付き合ってるわけでもないのに、春宮先輩にヤキモチ焼いて、感情を抑えられなくなった。欲望って、一番汚いものだと思うんです」

「……確かにそうかもしれない。でもね、私は激しい欲望を持つ人が羨ましい。私は、それが足りないんだよ」


 だから、気持ちを伝えるんじゃなくて寄生するように、居座るように、ただ彼のそばに居たいと思ったのだ。

カップを手にして、残っていた珈琲を飲み干した歌恋は苦笑いを浮かべる。


「好きになってくれてありがとう。でも、私にとって高崎は、部活の後輩。それ以上になることはない」

「……そう、ですか」

「うん。先輩が、私をそう思ってたのと同じでね」


 小さく、慎也に聞こえないほどの大きさでそういった。

 自分で言っておきながら、また胸が苦しくなった。不愉快になるほどの苦しみ。どうして、好きだったのに、こんなにも苦しくなるのだろうか。彼を好きになった当時は、もっと違っていた。

 笑顔を向けられるたびに胸が苦しくなった。でも、その苦しみはいま感じているものとは違う。甘くて、幸福感に包まれて、相手が愛おしくてたまらない。そう、あの時の……。


「先輩?」


 胸元を抑え、大きく目を見開いて、空っぽになったカップの底を見つめる歌恋。


「どうかしましたか?」

「……ううん。なんでもない」


 歌恋は地面に置いていた荷物を手にすると、そのまま席を立ち上がった。


「帰ろうか」

「あ、はい」


 慌てて立ち上がった慎也は荷物を手にし、伝票に手を伸ばした。だけど横から伸びてきた歌恋の手が先に伝票を手にした。


「私が出すよ」

「いえ、俺が誘ったので俺が」

「いいの」


 伝票をひらひらさせながら、歌恋はレジへと向かった。慎也はその場でじっと会計をする歌恋の姿を見て、ぎゅっと、高まる気持ちを抑えるように胸を押さえ、顔を歪ませながら笑みを浮かべる。


「あぁ、やっぱり好きだな……」


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