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夏の向日葵  作者: 暁紅桜
第2章_夏に感じた熱
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10話《ぎゅっと強く、苦しく》

「ここまでくればいいかな」


 人通りが少ない場所へとやってきた歌恋(かれん)。薄暗い館内は他の客のシルエットは見えても、表情までは見ることはできなかった。


「ルミ、大丈……」


 振り返り、彼女の顔を見ようとした時、ルミは手にした袋を離し、そのまま歌恋に勢い良く抱きついた。胸に顔を埋め、腰に腕を回し、体はわずかに震えていた。


「ルミ……」


 そっと彼女の頭に手を添え、歌恋もぎゅっと彼女を抱きしめる。


「ごめん……ごめんね……怖かったね」

「う…うぅ……」


 彼女を一人にしたのは歌恋の不注意だった。今日はただのナンパだったが、もし例のストーカーが彼女に声をかけていたらと思うと、歌恋は自分に怒りを覚えた。無警戒すぎると。


「落ち着いたら帰ろうか。それまでは泣いてていいからね」


 まるで子供をあやす母親のように、歌恋は彼女の頭を優しく撫でた。



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「……静かだね」

「……そうですね」


 ベンチに腰掛けて、ぼーっと目の前の水槽を見つめる二人。互いの気持ちが落ち着いた頃に、自分たちが今クラゲのコーナーにいることに気づいた。

 互いの昂ぶった気持ちを落ちかせるように手を握り、水槽の中でフヨフヨと浮いているクラゲを見つめる。

 あたりには他の客の姿はなく、遠くからわずかに賑やかな声が聞こえる。


「そろそろ帰ろうか」

「すみません、先輩……」

「いいんだよ。私こそごめんね、一人にして」


 いつものように頭を撫でると、ルミはそのまま歌恋の胸に顔を埋め、ゆっくりと頭を左右に振った。


「ルミ?」

「落ち着きます……」

「そう?」


 先ほどと同じように、歌恋は落ち着くように頭を撫でてあげた。長い髪をなぞるように、何度も何度も、優しく……。


「あっ、そうだ。ルミ、ちょっと後ろ向いて」

「え、なんでですか?」

「いいからいいから。ほら、後ろ向いて」


 特に何かを企んでいるような様子はなく、不思議に思いながらもルミは歌恋に背を向ける。すると、歌恋はルミの髪に触れて何かをしていた。


「よし、できた」

「……髪、束ねたんですか?」

「うん。暑そうだったからね」

「……これだけですか?」

「これだけだよ」


 なんだか満足そうな表情を浮かべる歌恋。ルミは何をしたのだろうと思いながら髪留めに手を伸ばす。


「えっ……」


 不意に、水槽に映った自分の姿にルミは驚いた。自分が今触れている髪留めは、イルカの形をしたヘアゴムだった。


「先輩のお土産探してる時に見つけてね。可愛いなぁってね」

「い、いいんですか?」

「いいよ。私がルミにあげたかったから」


 髪留めに触れ、ルミは嬉しそうに笑みを浮かべ、歌恋の方を向いた。


「ありがとうございます、歌恋先輩」


 ドクンッとまた胸が苦しくなった。軽く咳払いをすると、歌恋は「良かった」と口にした。


「じゃあ帰りますか。先輩がお土産待ってるだろうし」

「はい」


 手を繋ぎ、二人は水族館を後にする。

 並んで歩くルミはご機嫌で、先ほどからずっと笑っている。そんな幸せそうな彼女を見て、歌恋も笑みを浮かべた。


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