9話《忘却の幸福》
「あぁ……えっとぉ……」
「ルミ、決まった?」
水族館を一通り回った二人はお土産を買うために水族館内のお店に足を運んでいた。
「んー……イルカとクラゲで迷ってます」
「まさかのクラゲと……まぁ分からなくもないよ。憎らしいぐらいにこのクラゲは可愛い」
両隣に並べられたクラゲとイルカのぬいぐるみ。歌恋はツンツンと愛くるしいクラゲのぬいぐるみを突っついた。すると、隣でそれを見ていたルミが笑った。
「何?」
「いいえ。先輩可愛いなって」
「え、可愛いって……からかわないでよ」
「そんなことないですよ。甘いものが好きで、可愛いものが好き。先輩だって女の子なんですから」
ルミはクラゲのぬいぐるみを手にすると、大きく頷いた。
「クラゲにしますね」
「そっか。じゃあ私はお礼も兼ねて先輩のお土産選んでくるから入り口で待ってるんだよ」
「はい」
ぬいぐるみを抱えて、ルミはレジへと向かう。
「さて、何にしようかなぁ……」
適当に店内を歩き回り、夕月へのお土産を歌恋は探した。
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「ありがとうございました」
会計を済ませて、ルミの待っている店の前まで歌恋はやってきた。辺りをキョロキョロしながら待っているであろうルミを探す。
「なぁ、いいだろ。ちょっとだけだからさ」
「あ、の……」
「ルミ?」
視線の先。ぬいぐるみの入った袋を手にしたルミを見つけたが、今にも泣きそうな表情を浮かべている。目の前にいる男は金髪で耳にはいくつものピアスをつけている。明らかにナンパだった。
他のお客さんもルミが困っているのには気づいているのに、ただ横目で見るだけで、誰も助けようとしない。
奥歯を噛み締め、早歩きで二人に近づき、歌恋はルミの手首を掴む。
「あ?」
「せん……ぱい……」
「うちの連れに何か用ですか」
鋭い目つきで男を睨み付けると、彼は一瞬怯むが、すぐに苦笑いを浮かべた。
「この子の連れ?君も良かったら俺と……」
「お断りします。困ってるのにしつこく迫るような男性について行く気はありません。行こう、ルミ」
彼女の手を引き、歌恋はその場を後にした。
男も、周りにいた客も、あまりに突然のことでしばし唖然としていた。




