8話《甘さと苦しさ》
「はぁ……すごく楽しかったです」
流れる人混みを避け、壁際に立っている二人。
ルミは先ほどの高揚感の余韻に浸っており、そんな様子を見て、歌恋も満足そうに笑みを浮かべた。
「あっ、ルミ甘いもの食べない?」
「え?」
「あそこ」
歌恋の指差す方には水族館内にある小さなアイスクリーム屋さん。お店のそばでは、小さな子供や若い女性、カップルが美味しそうに買ったアイスを食べていた。
「食べたいです!」
「よしっ。では、お姉さんがおごってあげよう」
「え、大丈夫でよ。自分で出します!」
「いいからいいから」
お店には八種類のアイスがあり、全ての色がバラバラで、同じ色はなく、とても綺麗だった。まるでパレットの上に並べられた絵の具のように色鮮やかだった。
「ルミ決まった?」
「えっと、私はイチゴで」
「じゃあ、私はシンプルにバニラかな」
それぞれ店員に注文すれば、コーンに乗った白と赤のアイスが手渡される。
「んー、冷たくて美味しいです」
「だね。やっぱり夏はアイスだね」
横目でルミの食べている様子を歌恋は見つめた。彼女が食べているいちごはピンク色ではなく、どちらかといえば赤に近い色をしていた。通常のいちごとどう違うのだろうと、歌恋は少し興味を抱いた。
「一口ちょうだい」
「えっ……」
ルミの手首を掴んで、歌恋は彼女のアイスを人舐めした。普通のいちご味のアイスよりもとても強くいちごの味がした。しかも、自分の食べたバニラとの相性がものすごくいい。今度来た時はこれを頼もうと思いながら歌恋は「ごちそうさま」と満足そうに笑みを浮かべる。
「ルミ?」
「ず、ずるいです!」
「え!?」
急にムッとしたかと思えば、ルミも歌恋の手首を掴んでアイスを人舐めした。
「る、ルミ……さん?」
「……ん。バニラも美味しいですね」
お返し。と言わんばかりの満足そうな笑顔。普段の彼女からは想像できない悪戯っ子な表情だった。
もう十分彼女の色々な表情を見たつもりだったが、初めて見たそれに歌恋の胸が少しだけ苦しさを感じた。
「先輩?」
「え?あぁ……ごめん。びっくりしちゃって」
「私だってびっくりしました。だから、おあいこです」
壁に寄りかかって、ルミは夢中でアイスを食べ始める。
歌恋も同じように壁に寄りかかってアイスを食べるが、胸の苦しさは消えず、ほんのり顔を赤く染めながら静かにアイスを食べた。




