第44話:僕らの反撃は続く
僕と兄、カメさんだけとなった研究室は、一瞬静まり返る。
だがすぐに檻の奥の犬と猫たちが大騒ぎだ。
「かえる!」の声の大合唱である。
「みんな、今、お迎えを呼ぶから良い子で待ってて!」
僕は言うけれど、全く大人しくはならない。
当たり前だ。こんな狭い空間、早く出たいに決まってる。
早く早くとせがむみんなに、兄と僕は笑うが、兄が兄らしく説明を始めた。
「まず、お前たちの家がわからん。それの検索に時間を要するのと、この研究室はそれほど安全じゃない。だからすぐには出せない。オヤツやるから、いい子にしてくれ」
兄が棚から引っ張り出したのは、にぼしとほねっこだ。
それを頬張る彼らを見て、僕らは正解を選んだんだ。
こんなに嬉しそうな彼らを見ながら、兄も満面に笑顔を作っている。
「しかし、意外とむこう、動き早かったな」
兄が僕に言う。それに僕は笑ってしまう。
「兄さんの中で、これは想定内でしょ?」
「まあな。AAだけってのは、ほんと助かった」
僕らは最悪も想定済みだった。
全ての動物が移動している可能性も踏まえて動いていたのだ。
「兄さん、予定通り、ここの子達の手配をお願い。僕は車を探すね」
そう言ったところで、井上さんの声が聞こえてくる。
『カケルくん、カンタ隊長が報告だって』
「え? カンタが? うん」
『聞こえるか、カケル!』
「車のなかだから、みんなに気をつけてよ」
『わかってるって。大学から3台車が出たんだ。全部それは停めてある。というか、動かせないようにした』
「もう!?」
『俺は仕事早いんだぜ?』
「さすがだな」
兄に、車をすでに確保済みだと伝えると、驚きながらも親指を立てた。
兄は今、この研究所に不満のあった先輩方を招集しているのだ。電話であるのは兄らしい。
ラインで一度連絡は入れてあるが、再度お願いのよう。
いくら根回しをしていたとはいえ、兄の行動は好ましくは思えなかったはずだ。
その謝罪とお願いに兄は動いている。
………やっぱり兄には頭が上がらないや。
思っている隙にスマホが震えた。
『あ、あたし! で、車なんだけど、どれに積まれたかはわからないみたい。今、ラインに住所送ったから、そこから一番近い場所、お願いできる? 自転車で15分ぐらい。私たちは一番遠くから攻めてく』
了解と返し、ラインを開くと、ツイッターにつながる。
「なるほど」
井上さんのフォロワーさんが、襲撃の車をツイートしてくれている。
複数の目が彼らを追っているのは間違いない。
現場の状況が随時ツイートされており、現場の住所もある。
「やっぱり、SNSは怖いねぇ……」
僕はキャリーバックを片手に集まりはじめた先輩方に頭を下げて、リュック片手に研究所を出る。
命からがら逃げ出した研究所の彼らがいるのだが、ラグビー部と柔道部、剣道部の面々が取り囲んでいる───
思わず、呆然と見てしまう。
ラグビー部の1人と目があった。
その男性はキラリと笑顔を作り、僕に親指を立てた。
「カケルくん、維くんから頼まれたんだ! 俺たちが見張っているから、存分に動物たちを救ってきてくれ!」
兄はこの先輩の影響もあるのだろうか……。
そんなことを思いながら、自転車にまたがり、さっきと同じ裏口から出るが… ……
マスコミが増えてる……!!!!
だけど、そこに構っていられない。
なのに、いくつもの腕とマイクが伸びてくる。
質問は「あの鳥はなんだ」ばかり。
裏口の警備員さん1人2人じゃ手に負えない!!!!
どうしようかと人の波に押されながら、カラスの鳴き声がする。
日差しに目を細めて見上げると───
───カンタだ!
しっかりカンタが上空で待機しているじゃないか!
僕が手を上げ、ぐっと拳を作る。
それだけでいい。
もう、これだけでいい。
黒い影が素早く舞い降りてくる………
黒い雨が降る。
僕を囲む人間に向かって、カラスが落ちていく!
「ちょっと、なにこれ!」
「おい、カメラにフン、落とすなっ!」
頭を蹴られ、羽が邪魔をし、さらに鳴き声。
ヒッチコックさながらの光景に、思わず見入る僕がいる。
鳴いては蹴るを繰り返すうちに、僕の周りからマスコミが距離を取りはじめた。
全く襲われない僕に、周りが気付き始める。
この目は知ってる。
奇異を見る目───
一瞬にして静まり返るマスコミの人たちに、これが異様な光景なのだと再認識した。
だけれど、僕は家族を取り戻したい。
「通してください」
僕が言うと、ススっと自転車の先に舗装が現れる。
まるでモーセのよう!
……ま、両肩にカラス1羽ずつと、自転車カゴに2羽とまってれば、避けるよね。
僕はリュックを背負い直し、自転車のペダルを踏み込んだ。
ハチコとモップが待ってるんだっ!!!!





