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堕ちた枢機卿は復讐の夢をみる  作者: 夕立
Ⅰ.老婆と7匹の猫達

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1-8 背教の館 中編

「ひっ」


 ルチアが小さく悲鳴を上げる。

 ジョエレは銃を抜いた。

 口元が汚れたそいつがこちら目掛けて走ってくる。


 襲いかかろうとしたのか、はたまた戯れようとしたのか。跳躍してきたそいつの眉間をジョエレは撃ち抜いた。1発では心配だったので、追加でもう1発お見舞いする。

 そいつは鳴き声もあげずに地に落ち、周囲を血で汚しだした。


 転がった何かをテオフィロが覗き込む。


「これって、ここの猫?」

「だろうな」


 ジョエレもそれを観察する。

 元猫と思われるそいつの開きっぱなしの目は金色で、三角の耳は昔と変わらない。口が大きく裂け犬のようになり、筋肉も逞しく発達した上に巨大化してはいるが、面影が皆無という程ではない。

 それに、あの鳴き声は、やたらと低くなってはいたが猫だろう。


 それが不服だったのか、なんとも嫌そうにルチアが顔をしかめる。


「あの可愛かった子達がこんなになるなんて嫌過ぎるんだけど。というか、どうやったらこんな風に成長するのよ?」

「さぁてな。ただ、なんだ。変な病気だといけねぇから、お前らそいつの死体とか血に触れるなよ」


 ジョエレは顎をしゃくり元猫を指した。若者2人が頷いたのを確認して奥へ足を進める。


「え? ジョエレ進むの? 警察呼んだ方が良くない?」


 ルチアが尋ねてきたので足を止めた。そうして、顔半分だけ振り返る。


「警察を呼ぶのは無しだ。理由は教えられねえけど、こいつは裏の案件だからな」

「危なくない?」

「危ねえかもって来る前に言っただろ。で、俺はジーナを探しに行くけど。お前らはどうすんだ? 付いてくるなら気合い入れて武器を構えろ。んで、俺から離れんじゃねぇ」


 そのまま待っていてやると、ルチアは自動拳銃ハンドガンを取り出し撃鉄を下ろし、テオフィロも自動小銃サブマシンガンをリュックから出した。

 2人がきちんとジョエレの後ろについたので、口角の片方だけを上げる。


「よーし、いい子だ。じゃ、あの化け猫もどきがいたら即殺す方向でいくぞ。間違っても俺は撃つなよ?」


 特にテオ、と、念を押す。


「分かった。気を付ける」


 青年が了承したところで調査を開始した。

 右手に回転式拳銃リボルバー、左手にペンライトを構えたジョエレが廊下を進もうとしたら、暗闇から化け猫が飛び掛ってくる。


「早速かよ!」


 避けようと身を捻りながら1発撃ち込む間に、背後から2発の発砲音が響いた。3発の銃弾は全て化け猫の頭部に突き刺さり、脳漿をぶちまける。

 発砲音と射撃の正確性から判断して、援護射撃をしてくれたのはルチアだろう。


「1匹ずつ来てくれている間はいいけど、暗闇から1度に複数匹来られると危ないね」

「だな。見えねぇことには応戦も糞もねぇからな」


 化け猫が事切れているのを確認して、ジョエレは通路の先を睨んだ。

 相手が猫では、暗闇での視力は圧倒的にあちらが上だ。今は前方にだけ注意を向けていればいいが、階段や分岐路ではそちらにも注意を割かねばならない。

 銃の性能上弾幕の張れないジョエレとルチアにとって、死角が多く、相手の視認が遅れる状況というのは好ましくない。


(にしても、なんだ? こいつら。あの金髪眼鏡、栄養剤を射ったって言ってたけど、変異誘発剤でも使ったんじゃねぇのか?)


 ぼんやりと原因を推測してみるが、詳細は分からない。確かなのは、変異を起こした連中が極めて危険だということくらいだ。


 化け猫達を警戒しながら電灯を片っ端からつけて進む。浴室やトイレといった小部屋も調べながら進んだのだが、不気味なほど襲撃がない。


 それが逆に緊張だけを高め、嫌な汗が滲みだした頃。

 タイミングを合わせたように2匹の化け猫が前方から襲い掛かってきた。

 自然と、ジョエレとルチアで1匹ずつ持つ。


「ナァーゴ」


 そこに響く別の化け猫のものと思われる声。しかも、ご丁寧に後ろから。


「くそ、無駄に知恵があるじゃねぇか!」


 3匹目も視界に捉えたけれど対応が追いつかない。とりあえず回避に走ろうと体勢を動かそうとしたら、銃を構えたテオフィロが立ち塞がった。


「俺を忘れてもらっちゃ困るんだよ!」


 叫びながら彼は銃弾をばら撒き始める。けたたましい音を立てて壁に穴が穿たれた。

 けれど、化け猫の動きが速いからか、テオフィロの腕が悪過ぎるからか、中々勝負がつかない。

 それでも弾幕がついに化け猫を捉え、身体を蜂の巣にした。

 その間にジョエレとルチアの方も決着がついている。


「なんていうか、テオ、戦い方にスマートさの欠片もないよね」


 広範囲に穴の開いた壁を眺めながらルチアが呆れた。


「仕方ないだろ? 銃なんてほとんど持ったこと無いんだから」


 マガジンを変えながらテオフィロが返す。


「ま。見た目はどうであれ、仕事としては上出来だ。んで、この部屋で最後なわけだが。中に2匹ばかし待ってる奴らがいるだろうから、きちんと突っ込む準備しとけよ」


 壁に背をつけながらジョエレは排莢。弾を再装填リロードした。そして、目の前の扉のノブに手を掛ける。若者2人に目を向け互いに頷いた。


「行くぞ」

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