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堕ちた枢機卿は復讐の夢をみる  作者: 夕立
Ⅳ.輝星堕ちし時

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間話 届けられた手紙 2通目

 すっかり暗くなった頃にジョエレは家に帰り着いた。


「ただいま〜って、お前ら今から出かけんの?」


 よそ行きっぽい格好のルチアとテオフィロをリビングで見つけ、突っ込む。何かを探している様子でうろちょろしていたルチアがふり向いた。


「ジョエレお帰り。早かったね?」

「そうかぁ? てか、おまえ何探してんの?」

「晩ご飯食べに行こうって言ってて、いいお店見つけたんだけど」


 そこまで聞いて探し物が分かりジョエレは周囲を見回す。机の上に広げられている新聞の下にそれっぽい物を見つけ、持っていた紙袋を机の端に置いた。

 新聞を畳み、出てきた雑誌でルチアの頭を軽く叩く。


「ほれ。どうせこれだろ?」

「これこれ! お店の場所覚えてなくて、地図見ようと思ったら見つからなくて、困ってたのよね」


 ルチアが嬉しそうに雑誌のページをめくりだした。


「なんかいい匂いがしてんだけど。ジョエレ、これ何?」


 ソファに転がっていたテオフィロが身を起こし、ジョエレの置いた紙袋をじっと見つめている。夕食がまだで空腹だからか、中々に嗅覚が鋭い。


「土産。お前らいらないなら俺が食うけど」

「え? お土産なんてあるの?」

「食いもんなんだ」


 テオフィロがさくっと袋を開ける。そうして中からパニーノを取り出した。

 それを見たルチアが目を輝かせる。


「凄く美味しそうなんだけど。ねぇテオ。今晩これと、簡単なスープでいい?」

「いいよ」

「うん。じゃぁ、すぐに用意するね!」


 ドタバタと2階に上がっていったルチアは部屋着になって戻ってきて、冷蔵庫を漁りだした。テオフィロものそのそと2階に上がって行く。

 着替えに行ったのだろう。


「ジョエレも食べる? それとももう食べてきた?」

「作るなら食うかな。ちょっとでいいぜ」


 ジョエレはジャケットを脱ぎソファの背もたれに投げ、どっかりと座り込んだ。

 トントンと包丁の音をさせながらルチアが聞いてくる。


「このパニーノどこで売ってるの? 他にも種類あるなら、あたしも行ってみたいんだけど」

「あー」


 なんとなく答えるのを躊躇いジョエレは鼻の頭を掻いた。

 けれど、下手に誤魔化しては変に怪しまれそうなので、素直に教える。


「オルヴィエート」

「オルヴィエートっていうお店なんだ。で、どこの地区にあるの?」

「いや、だからオルヴィエートだよ。ヴァチカンの北にあるだろ? ウンブリア州テルニ県オルヴィエート」

「……」


 ルチアが静かになった。代わりに包丁のリズムが早くなり、鍋の中に切った物を放り込む音と火を点ける音がする。

 仕込みがひと段落したらしき彼女はジョエレの真ん前まで来ると、


「自分だけ旅行とかずるい! あたしも行きたかった!」


 拳を握って全力で訴えてきた。


「旅行じゃねーし!」


 ジョエレは否定したが、ルチアは唇を尖らせている。


「じゃぁ何だって言うのよ?」

「……」


 選帝侯の散骨場に入れないから、襲撃現場で妻と友の命日を悼んでいたとは言えない。ジョエレが無言で顔をそらすと、ルチアは逆に顔を寄せてくる。

 ふと、彼女が鼻をひくつかせた。

 そのまま匂いの元を探すように鼻を動かし、ジョエレのジャケットを怪しんでいたかと思うと、ジョエレの近くでも鼻を動かす。


「なんか、いつもと違う匂いがする」


 何かを怪しんでいるような目でルチアが見てきた。


「パニーノじゃねーの?」

「それとは間違えないわよ。凄く弱いけど、品がいい感じの柔らかい、女物の香水?」

(ディアーナか!)


 心当たりがあり過ぎてジョエレの身体が固まった。

 ほど良い座り場所が無かったので、かなり近い距離でしばらく過ごしていたら匂いが移ったらしい。

 彼女のいつもの匂いだし、比較的好きな香りなので、全く気にしていなかった。

 運が悪い時とは重なるもので、


「デート?」


 2階から降りてきたテオフィロまで余計な突っ込みを入れてくる。


「ジョエレと付き合ってくれるような物好きいたんだ」


 ルチアに生温かい目で見られた時はなぜか凹んだ。それでも、上手いこと話ははぐらかせたようなので、ジョエレはやる気なくソファに転がる。


「どうとでも言ってくれ」


 これ以上ほじくり返されないように敗北宣言しておいた。

 ルチアはそれで満足したようで、笑顔で台所に戻っていこうとする。その途中で振り向いた。


「あ、ジョエレ。これ雑誌に挟んじゃってたみたい。今日届いてたと思うよ」


 またもや適当に放り投げられている雑誌から1通の封筒を出し、渡してくる。


「おう。ありがとよ」


 よく見もせずにジョエレは受け取り、差出人を確認しようと裏返して手を止めた。

 百合を模った白い封蝋がされていた。

 封を開き、中を確認してみると、入っているのは1枚の便箋。



 親愛なるジョエレ・アイマーロ様

 最近は気候も良く、行楽には素晴らしい季節になりましたね



 ただそれだけが書かれていた。

 30年ばかり前に組織から来た初めての手紙そのままだ。


「こっちにも来るのかよ」


 1人呟き、便箋をぐしゃりと握り込む。


「何が?」


 ソファに座ったテオフィロが不思議そうに見てきた。

 ジョエレは皺になった便箋を折り畳みなおして封筒にもどすと、不敵に笑う。


「ラブレターさ」

明日は2ページ更新します。

午前中に人物紹介ページ(読み飛ばして問題ありません)、午後から5章1話目となります。

ご注意ください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うはー、いっぺんに読んでしまいましたえ~! 胸アツ過ぎて途中で手ェ止められませんや……! いやまあ、ジョエレの正体については、時代設定とか、1章での知識とか遺伝子ネタとかから、「面白くする…
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