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堕ちた枢機卿は復讐の夢をみる  作者: 夕立
Ⅹ.超人座せし世界の特異点

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10-13 〈第三種永久機関〉 前編

 一本道を進むとすぐに扉があった。

 開いてはいる。ただ、使われている金属の質感などが明らかにここまでと違う。


「昔はこのドアがどうやっても開けられなかったんですよね。だから、私が案内できるのはここまでです」

「んじゃ、俺が先頭進むかね」


 エアハルトを追い抜いたジョエレは扉の先へ進む。といっても、数メートルも行かないうちにエレベーターがあり、そこで通路は終わっている。他に行きようもないので乗り込んだ。


 幸いにも案内板があり、各階層の主だった施設は記されている。

 大まかには、上層に居住区、中層に制御室、下層に発電炉。

 発電炉に手はだせないので中層のボタンを押した。けれど、中層のどの階を押しても反応が無い。

 エレベーター自体は扉が開閉したので生きている。となると、


「コントロール奪われてんのかね」


 ならば、中層が来られたくない部分なのだろうか。

 探るために、上層のボタンも手当たり次第に押してみた。


「駄目だね」

「だな〜」

「ここら辺とかも駄目なの?」


 ジョエレの横から手を伸ばしたルチアが下層区のボタンを押していく。すると、1カ所明るくなって、ガクンと籠が降り始めた。


「なんか動き出したね」

「お手柄っちゃーお手柄だが」


 行き先を確認してジョエレは眉をひそめた。

 エレベーターの停止階は核反応炉がある階だ。仮に、そこに閉じ込められてしまった場合。核反応が始まればまず助からない。

 かといって、1階にはエレベーター以外行ける場所がなかった。そんなはずはないので、緊急用の階段か何かがどこかにあるはずなのだ。探すのに骨が折れるだけで。


「ま、なるようになるか。別ルートもどっかにあるはずだし」


 今さら心配してもどうしようもない。少しでも身体への負担が減るように壁にもたれる。


「にしても、見事に年齢詐称してる奴だけ揃ったな」

「?」


 なんのこと? とでも言いたげにルチアが首を傾げた。


「ああ。お前の老化が止まってたの俺ら知ってるから。本当の歳もな」


 ジョエレが言ったそばから彼女は両手を握りしめ、わなわなと唇をふるわせる。


「なんで!?」

「病気の治療薬作る途中のなりゆきっていうか、そんな感じ?」

「何その適当説明!? ……っていうか、エアハルトさんも見かけ通りじゃないの?」

「らしいぜ。いくつだかは知らねぇけど」


 というか、なぜこんなにも付きまとわれているのかも分からない。色んな意味で謎な男だ。

 ジョエレとルチア、2人の視線に気付いたのか、エアハルトが眼鏡に手を添える。


「私ですか? ジョエレさんの2つ下ですよ」

「ジョエレ、実年齢何歳なの?」

「58」

「58!?」


 大袈裟にルチアが叫んだ。


「見えない! っていうか、落ち着きも貫禄もなさすぎ。というか、なんでその見た目?」

「お前と同じだよ。てか、そっちこそ、いつまでも小娘みてぇにチャラチャラしてるじゃねーか」

「あれですよ。やっぱり外見に引っ張られるんでしょうね、中身」

「お前が言うなよ」


 くだらない言い合いをしているとエレベーターが止まった。静かに扉が開く。


「着いたな。行くか」

「ねぇ、ジョエレはなんで歳とらなくなったのか知ってるの?」

「知ってる」

「教えてよ」

「大人の事情って奴で教えられねぇけど」


 ジョエレは壁から身体を離し、外へ向かう。


「お前も、俺も、ついでにそいつも。もう時は動き出してるはずだから、そんな気にする必要はねぇよ。良かったな、胸も成長するかもしれねぇぞ?」


 はっはーと笑い飛ばしてやったら、


「うるさいオッパイ魔人!」


 ルチアはわざわざジョエレの前に回り込んで足を踏んで行った。そのまま逃げるように先へ走っていく。

 途中から足音は金網の上を歩く音に変わり、やがて静かになった。


 天井の高い空間上部には太い配管が走り、足元には水を張った巨大な水槽がある。その上に架かる、目の粗いグレーチング橋の上でルチアがしゃがみこんでいた。

 下が見えるせいで足がすくんでいるのかもしれない。他に道はと見回してみたけれど、とりあえず、この橋を渡り切らないとどこにも動けないらしい。


「ほれ」


 ジョエレが出してやった手にルチアが掴まる。何かに掴まっていないと怖いのか、手を繋いだままへっぴり腰でついてきた。


(まだ燃料棒は入れられてないな。結構余裕がありそうで良かったぜ)


 足元の巨大水槽。これが反応炉だと思うのだが、そこには水以外何も入っていない。

 燃料棒の注入には時間がかかるはずなので、それだけ猶予時間が残されているということだ。


 しばらくすると余裕が出てきたのか、ルチアが橋の柵に手を伸ばそうとする。


「必要以上にあっちこっち触るなよ。どこが脆い場所かわかんねぇくせに、連鎖崩壊する可能性があるからな」


 彼女の手がピタリと止まった。そうして、再びジョエレにしがみついてくる。

 大袈裟に指摘したけれど、完全に嘘ではないのが頭の痛いところだ。この施設は第五次世界大戦終結前に建設された物だから、今では使えない合金が使われている。

 〈終末の天使の号笛(ラグエルズホルン)〉の影響で脆くなっているだけでなく、経年劣化もあるだろう。

 余計な力は加えない方が無難だ。


 橋を渡りきると普通の通路に出た。小部屋が幾つかあったけれど、休憩室がほとんどで今は用がない。階段も見つけられたので、それで上を目指すことにした。


 今いるのは地下36階。目的の集中制御室は地下25階だ。

 階段があっただけマシだけれど、登るには少し骨が折れる。


「疲れる前に休憩って言うんだぞ」

「うん」


 それだけ注意して登り始めた。

 ルチアに負担をかけさせないのもあるけれど、ジョエレ自身の傷もそう軽くない。彼女に合わせて休憩していった方が身体に優しい。

 3、4階登るごとに休みを入れ、のんびり上階を目指した。

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