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堕ちた枢機卿は復讐の夢をみる  作者: 夕立
Ⅹ.超人座せし世界の特異点

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10-8 見えない先行き

 ジョエレが家に帰ると、ルチアだけでなくテオフィロもいた。


「テオ、朝出かけてなかったか?」

「行ったんだけどさ。朝訓練無かった上にごたついてたから帰ってきた」

「んだよ、訓練なかったのかよ。わざわざ時間ずらしたってのによ〜」

「ジョエレも今日お休みで帰ってきたの? 後ろの人お客さん?」


 ルチアがジョエレの背後を覗き込む。


「あー。客じゃないけど、珈琲でも出しといてやってくれ。エアハルト、お前そこで大人しくしてろよ」

「ええ、分かりました」


 穏やかに微笑むエアハルトをリビングに残し、ジョエレは自室に引っ込んだ。

 スーツを脱ぎ、事前に用意しておいた修道服に着替える。

 戦闘が予想されるので、スーツのままというのは問題外だ。その点、異端審問局は荒事担当部署なので、動きやすく、防御力の高いものが制服として採用されている。

 治安維持軍も一緒に動くなら、修道服の方が浮かなくて良い。


 教皇庁に縛られているようであまり着たくはないけれど、この際仕方ない。

 対刃弾繊維のインナーを着込み、上から修道服を身に付けた。銃、《不滅の刃(デュランダル)》と装備していき、魔杖カドゥケウスも組み立て剣と共に腰にく。


「こんなもんかね」


 最後にフードを深く被って部屋を出た。


 リビングではエアハルトがルチア達にすっかり馴染んでいた。彼がこちらを向いたので、ジョエレは顎をしゃくる。

 エアハルトが席を立ち、ルチアとテオフィロが振り向いた。


「あれ? ジョエレまた出かけるの? なんか物ものしいね」

「お試し入庁のテオと違って、俺はがっつり正社員だからな。やりたくもねぇ仕事が降ってくるわけよ。帰りの時間分かんねぇから、先に飯食ってていいぞ」


 長引かせるつもりはないけれど、チヴィタの状況が分からない以上、どう転ぶか分からない。


「んー。わかった。でも、ご飯いりそうなら連絡してね。夕方くらいまでは待ってるから」

「りょーかい」


 無理だろうなとは思いつつ、軽く返事して家を出た。



 ◆


 金髪眼鏡の男性が使っていたマグカップをルチアは持ち上げた。流しにさげながら、なんとなく玄関を見る。


「あの人、ジョエレと付き合い続いてたんだ。仕事先でたまたま会っただけなのに、何が縁になるかわからないね」

「この前ルチアが倒れた時にもジョエレと何かしてたみたいだけど。治療薬? か何か届けにきたのあの人だったし」

「そうなの?」

「オルヴィエートでルチアが苦しそうにしてた時に、どうしたらいいのか教えてくれたのもあの人だったしさ。本業、腕のいい医者だったりするんじゃない?」

「ふーん」


 医者と猫のブリーダーって兼業できるのかな、とか不思議に思ったりもしたけれど、興味としては薄い。カップを洗い終わる頃には思考は他に移り変わっていた。

 テオフィロの横に座り、彼の顔を覗き込む。


「ねぇ。ジョエレ、また何か隠してる感じしなかった?」

「仕事って言ってたし。喋れない何かなんじゃないの?」

「テオ冷たい」

「冷たいって言われても」


 彼は言葉を濁し、間をごまかすかのように珈琲を飲んだ。そのまま顔はテレビの方に向いてしまう。この話題はこれで終わりらしい。

 追求するほどでもなかったので、ルチアも静かにテレビを見る。


 そうしていると玄関のチャイムが鳴った。


「はーい」


 ルチアが出てみると、スーツに山高帽を被った男性が立っていた。片方の手にはステッキを持っていて、もう片方の手で口髭をいじっている。きっちり手入れされている髭は毛先だけくるんと巻いていて、見ていて面白い。

 山高帽の男はルチアに笑いかけると、芝居掛かった仕草で会釈した。


「吾輩、エインズワースと申します。アイマーロ殿から仕事を頼まれまして」

「ジョエレから?」

「ええ。仕事が終わった後であちらで合流したいので、あなた方を連れてきてくれないかと頼まれて」

「さっきは何も言ってなかったけど」

「連れがいたでしょう? 本当は、業務終了後、帰庁しないといけないらしいんですよね。それを途中でまくらしいので。その相手がいる前では、ねぇ」


 癖なのか、彼は再び髭で手遊びしながらルチアを見下ろしてくる。


「どうかした?」


 玄関先でしばらく喋っていたからかテオフィロが出てきた。彼は山高帽の男を怪訝そうに見ている。ルチアがこれまでの話を聞かせてみても、あまり警戒は解けない。


「ジョエレが変な感じだったの、このせいだったのかな?」

「んー」


 悩んでいるのか、テオフィロは腕を組んで黙ってしまう。次の意見をしばらく待ってみたけれど口を開いてくれない。

 待ちくたびれたのか、山高帽の男が欠伸した。


「どうしますかな? 吾輩はどちらでも構いませんが」

「あ、行く、行きます! 出かける用意してくるからちょっと待っててください!」


 反射的にルチアは返事し、着替えるために奥に引っ込もうとした。ついでにテオフィロの腕も掴み引っ張る。


「ルチア?」

「大丈夫だって。テオも行くでしょ? ほら、早く着替えて」


 ジョエレの知り合いにルチアの知らない人がいるのなんて今更だ。仕事現場が楽しい遊び場所の近くで、そこに誘ってくれたのであれば、乗っかって楽しむ方がいい。


(荒事っぽい仕事の後で行く場所なら、落ち着いた場所じゃないよね)


 それなら動きやすい服の方がいいのかもしれない。行き場所くらい聞いてくれば良かったな〜と思いつつも、今さら聞きに戻るのも微妙で、ルチアはクローゼットを睨んだ。

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