表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
堕ちた枢機卿は復讐の夢をみる  作者: 夕立
Ⅷ.払われし代償が導く

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

147/183

8-10 治療法を求めて

 ディアーナの動きは早く、その日の夕方にはジュダと面会できるようにしてくれた。


 刑務所の面会室でジョエレが待っていると、透明なアクリルガラス1枚で隔てられた小部屋にジュダが入ってくる。共にやってきた刑務官もいたが、そのまま退出していった。


「よう。元気そうじゃねぇか」

「俺に会いに来るだなんて誰かと思ったが、お前か」


 ジュダが席に着く。

 異端審問局「元」局長、使徒ブラザージュダ。半年ほど前に教理省長官レオナルドに反旗を翻し、チヴィタ・ディ・バニョレージョで大規模な乱を起こした人物である。


 大それた事をしでかした人物ではあるが、そこは、局長に抜擢されるほどの人間というか。今は従順に規律に従い、模範囚として扱われているらしい。


四方山よもやま話をしに来たわけではなかろう。要件は何だ?」


 それに、馬鹿でもない。

 無駄な雑談無しはこちらも望むところだ。なので、ジョエレは単刀直入に告げる。


我ら終焉をもってノス・フィニブス・アド・楽園を創造せんパラディスス・クレアーレ、ってな」


 言った途端にジュダの表情が変わった。これまでも友好的ではなかったけれど、今は敵意を滲ませている。


「俺を消しに来たのか?」

「うんにゃ。そもそも俺、還幸会のメンバーじゃねぇし。熱烈なスカウトは受けてるけど」

「ならば何用だ」


 警戒は変わらずジュダが犬歯を剥く。

 ジョエレは軽く肩を竦め、次いで、前のめりに、仕切板ぎりぎりに顔を近付けた。


「《隠者レレミータ》。金髪眼鏡の方が通じるか? あいつと繋ぎが取りたい。あの騒動の時、お前に手を貸していたのはあいつだったな。連絡方法もあるんだろう?」


 あれだけの規模の作戦を行うには、最低でも数度は《隠者エアハルト》と連絡を取り合っているはず。そう踏んでジュダと話をしにきた。

 ジョエレが知る限りで、組織との繋がりが一番強いのは彼だ。


 ジュダが顔をしかめ、


「何のために」


 聞いてくる。

 ジュダは組織について一切白状していないらしい。

 どうやって情報を引き出そうか悩んだけれど、正直に情に訴えることにした。


「あの金髪眼鏡、あれで医者っぽいことしてやがんだよ。で、あいつにしか治療できない奴が死にかけてる。20歳そこそこの娘だ」


 反応は……悪くない。

 けれど、何やら悩んでいる様子だ。こういう時に結果を急ぐと大抵悪い方に転がる。なので、黙って動きがあるのを待つ。


 どのくらい経っただろうか。


「あいつは……、レオナルドは関わっているのか?」


 ジョエレを睨んでいたジュダが尋ねてきた。


「いや」


 そう答えると、ジュダの雰囲気が少しだけ軽くなる。


「あいつには絶対漏らさないと誓え」


 ジョエレが頷き、もたらされたのは1つの住所。

 メモを取りたいところだけれど、情報漏洩の確率を下げるためにその場で覚える。


「そこの特徴は?」

貧民街スラムの一画だ。特に特徴が無いのが特徴か。そこの軒先に街灯があるんだが、その下に眼鏡をかけた青い服の奴が23時から翌1時までいる。そいつに手紙でも渡せば、じき返事がくる」

「街灯下の青服眼鏡だな」


 欲しい情報は手に入れたので席を立った。翻した背にジュダが言ってくる。


「気をつけろ。安易に利用しようとすれば身を滅ぼす」

「お前と一緒にすんじゃねぇよ」


 言い捨てて部屋を出た。




 それから家に帰ってエアハルトへの手紙をしたためる。

 指定された時間になるまでに出張中の荷を片付けようと思ったら、棚の、伏せていたはずの写真立てが起こされていた。よく見てみれば、本の並びも少し変わっている。


(この、微妙に雑な感じはルチアだな)


 きっと掃除でもしたのだろう。

 この棚の書籍は総量はかなりのものになる。全てどかして掃除をしたのだとしたら重労働だ。


(ったく、無理はすんなって言っておいたのに、聞きやしねぇ)


 ルチアも、テオフィロも、ダンテもステファニアも。本気で怒るまで全然言うことを聞かない。自分の子を持った事はないが、子供というのはこういうものなのだろうか。


 並びの変わっていた本を元の場所に戻し、最後に写真立ての前に行った。

 写真の中で笑うアウローラとエルメーテを見ながら呟く。


「ただいま」


 そうして、再び写真立てを伏せた。



 ◇


 ジュダに教えられた方法で青服眼鏡の人物に手紙を渡して2日。

 いまだ何の進展もない。


「ジョエレ大丈夫なわけ? 顔赤いけど」


 出かけざまのテオフィロが心配そうにする。


「あんま大丈夫じゃないかもしれねぇなぁ。ルチアに移すといけねぇし、俺今日、病院行かんかも」

「ルチアじゃないけど、無理すんなよ」


 そう言って青年は出て行った。

 玄関に鍵を掛けたジョエレは奥に引っ込もうとした。けれど、目眩がして足がもつれる。


『大丈夫?』


 優しい声と共に手が差し伸べられてきた。掴まろうとすると、そこには誰もいない。


(こりゃ本格的にやべぇな)


 家具に手をつき身体を支えながらソファに向かう。とりあえず、手近なそこに転がった。


 最初だるさだけだった症状は、身体の重さに加え幻覚が付いてきている。風邪か過労かと思っていたけれど、どうにも様子がおかしい。


(病院行った方がいいんだろうな)


 その前にディアーナに病状を相談してみて、それも、少し寝てから……と、考えているうちに意識が落ちた。





「――エレ。ジョエレってば。寝るならベッドに寝なおせよ」


 呼ぶ声と、身体をゆする感覚にジョエレの目が覚めた。目の前にはテオフィロがいて、机の方に顎をしゃくる。


「来てた手紙そこだから。で、そこで寝てると邪魔だから、本気で寝るなら部屋で寝てくれよな」


 愛想のない顔でそう言って2階へ上がって行った。

 ジョエレがぼーっとした頭を掻きながら窓を見ると、夕焼け色の光が差し込んでいる。朝から寝落ちしていたようだが、お陰で少し体調がいい。


 冷蔵庫の中の冷えた水をひと口飲んで頭を覚まし、机上の手紙を拾う。待っていた封筒だったので目を通した。



 ――本日22時。テヴェレ川のほとり、壊れた橋(ポンテ・ロット)でお待ちしております



 思ったより動きが早い。それに、この文面だとエアハルト本人が出てきそうだ。


「テオー。俺晩飯いらねぇから起こさないでくれ」


 2階にひと声かけ自室に引っ込む。

 夜に備えてもうひと眠りすることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ