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堕ちた枢機卿は復讐の夢をみる  作者: 夕立
Ⅶ.掲げよ旗を

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7-19 崩壊へのカウントダウン Parte1

 アンドレイナ達によってほぼ制圧されていた王宮内だが、衛兵の残党がいた。


「そんな少人数で戻ってくるだなんて油断したな!」

「お前達がな」


 会敵したそばからジョエレは衛兵を床に沈める。

 戦えるのはジョエレとアンドレイナの実質2人だったけれど、雑魚が何人こようと負けるはずがない。それからも会った敵は全て蹴散らした。


 不自然に長い廊下を駆け抜け、その先の一室に入る。

 フアナは本棚の前でうんうん唸ると、


「これだったかな?」


 なんとも自信なさ気に1冊の本を前に引き出した。

 ガコッという金属音と共に重そうな本棚が僅かにもち上がる。そのまま横にスライドして、隠されていた入口が現れた。


「あ、当たりだね。良かった〜」

「お手柄だ」


 胸をなで下ろした彼女の頭をぽんと叩いたジョエレは現れた入口をくぐる。

 その先は普通の部屋で、祝賀会の時に主催側にいた面々が隅に固まっていた。何人かは震える手で銃を向けてきているが、電磁フィールドの影響下では何の脅威にもならない。


(クラウディオがいねぇな)


 逃せば面倒そうな奴の姿が見当たらなくて少し落胆した。それでも、第一目的のフェリペが槍と共にいてくれただけ良しとする。

 当のフェリペは、こんな状況だというのに優雅に椅子に腰掛けのんびりしていた。室内が騒がしくなったのは不服なのか、気だる気な視線をジョエレに向けてくる。


「ヴァチカンの司教殿なのだろう? そんな被り物をしていても僕は誤魔化されないぞ」

「別に正体を隠したかったわけじゃねぇんだけどな」


 テレビを見ている一般市民の信仰に水を差したくなかっただけだ。

 部外者はもういないので、ジョエレは視界を狭くするだけの邪魔な頭巾を脱いだ。適当に捨てフェリペのもとへ向かう。


「止まれ! 止まらんか司教!!」


 隅で震えている集団の1人が静止を求めてきているが、止まってやる理由などない。あっさりフェリペの前に立ち彼を見下ろす。


「なぜロンギヌスを抜いた」


 あえて感情を込めずに尋ねた。

 不思議そうにフェリペが顔を上げる。


「なぜ? 僕が名実共にこの地域の王に返り咲く為だ。この槍は所有するものに世界を制する力を与えてくれるのだろう? だから、その力を手に入れる為に抜いたの――」


 言葉が終わる前に、ジョエレはフェリペの横面を殴りつけていた。


「フェリペ殿に手を上げるとは! 暴行罪だぞ!!」


 周囲から野次が飛ぶが、


「ちょっと手が当たったらこいつが勝手にぶっ飛んだだけだろ。知らねぇよ」


 デタラメな理論を返し黙らせた。

 椅子から転げ落ちたフェリペの手から聖槍を奪い、彼の頰すれすれに突きつける。


「どうしてお前は言い伝えの前文、自分に都合のいい所だけ読んだ。対に綴られている、"失った場合は破滅する"の部分は気にならなかったのか?」

「そんなもの、失くさなければ問題ないじゃないか」

「馬鹿が!」


 あまりに浅はかで利己的な考えに槍で殴ってやりたくなったけれど、外野がうるさそうなので抑えた。


 フェリペ達は盛大に勘違いしているようだが、聖槍ロンギヌスを現在所有しているのは教皇庁ではない。もちろん、管理を委任されているだけのボルボン家やモンセラート司教でもない。

 槍は大地を安定させる為に捧げられたもの。

 イベリア半島自体が所有しているのだ。

 2本の槍が揃っている間は大地の崩壊を抑える力=世界を制する力が与えられるが、片方でも抜かれる、つまり、大地から失われれば、文字通り破滅が訪れる。


「それで、お前がロンギヌスを抜いて何日経っているんだ?」

「何日だったかな。1週間くらい前だったと思うが。それが?」

「1週間……」


 口の中でジョエレは反復し、自分の持つ情報と照らし合わせる。

 何かのハプニングで槍が抜けてしまっても、鉱脈崩壊の予兆が見えていない状態、2、3日以内に槍を刺し直せば事態を切り抜けられるとあった。

 地震が起こっていた時点で大方諦めていたが、やはり、今さら槍を戻しても崩壊は止まらない。


 状態の確認はできた。

 まだ幾らかは役立ってくれそうな槍も奪還した。

 もう彼らに用は無いので身を翻す。


「フアナ、アンドレイナ、帰るぞ。ここはもういい。後で異端審問官どもに逮捕しに来させよう」

「た、逮捕だと!? 我らが何をした! それに、そなた達のどこにそんな権限があるというのだ!?」

「罪状? こいつが今喋った教皇庁への造反で十分だろうがよ。それに、権限っていうなら、なぁ?」


 アンドレイナの方に視線を向けると彼女が前に進み出る。


「私が逮捕権限を持っています。異端審問局所属、使徒名コードネームはアンドレイナ。ベアトリス・フェリシアーノの名は忘れてください」

使徒名コードネーム持ち? 《十三使徒ナンバーズ》が司教に成りすましていただと?」


 司教服の男が唖然と呟いた。恐らくどこかの教区の大司教である身なのだろう。ならば、アンドレイナの危険さも、持っている権限も知っているはずだ。

 教皇庁に仇なす者なら地位を無視して逮捕できる強制逮捕権を。


「あー。今のうちに銃没収しとくか。俺らもいつまでもこいつらに構ってられるわけじゃねぇし」


 造反者達から銃を奪い部屋を出ると、出口を再び本棚で塞いだ。

 そこにルクレツィアがやってくる。


「あなたは!?」


 アンドレイナが戦闘姿勢になった。そのまま鞭を振るいそうだったので、ジョエレは慌てて彼女の腕を掴む。


「アンドレイナ待て! 今だけだが、こいつは敵じゃない」

「何を言っているんです!? ロールでの事を忘れたんですか!?」

「それでもだ」


 アンドレイナが厳しい目付きのまま腕を下げた。

 赤毛の女は愉快そうに笑みを浮かべる。


「なんやかんや言って、本当に殺したりはしないのね、あなた」


 警戒のそぶりも見せず彼女はジョエレの方に寄ってくる。

 態度が気に入らないのもあるが、それ以上ルクレツィアを近寄らせたくなくて、ジョエレは槍の穂先を彼女の喉元に突きつけた。


「黙れ。王宮には誰も出入りできないように固めさせているはずだが、どうしてお前はここにいるんだ?」

「細かい事はいいじゃない。情報持ってきてあげたんだから」

「情報?」

「バレンシア大司教サマの居場所、知りたくない?」


 アンドレイナの眉がぴくりと動いた。

 ジョエレにしてもそれは欲しい情報だ。バレンシア大司教――クラウディオを放置しておくと、禍根を残すのは間違いない。

 ルクレツィアに突きつけていた槍をどけ、顎をしゃくる。


「話せ」


 ふふっと笑った彼女は再び動き出しジョエレの前まで来た。そうして上目遣いに見上げてくる。


「彼ね、モンセラートに向かってるわよ。もう1本の槍を取りに」

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