7-14 マドリードの乱 Parte2
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マドリード王宮の一室でテレビを眺めていたアンドレイナは、画面の向こうに現れたジョエレに苦笑を漏らした。
「こんな手段で連絡をしてきましたか」
「つか参謀、完全にレジスタンスのゴロツキと区別つきませんね。目出頭巾のせいで仮装にしか見えませんよ」
「ガラ悪いしな」
周囲で共にテレビを見ている者達の感想は酷いものだ。けれど、そこはかとなく愛嬌を感じる。仲良くしているからこそ出てくる戯言なのだろう。
「何にせよ、これからの行動指針は分かりました。私達も動きますよ」
牙と爪を隠し、無力な子猫を演じる時間は終わりだ。
司祭服の隠しから《女王の鞭》を取りだし励起する。電磁フィールドを発生させようとして、ふと疑問が浮かんだ。
(20パーセント励起でフィールドを張るだけなら、私の張れる範囲で全開になどという言い回しをするものでしょうか。ひょっとして、励起レベルを上げろと言っている?)
今銃撃戦が繰り広げられているのは街中だ。そこを、王宮にいながら電磁フィールドの効果領域に組み込もうとするならば、50パーセント以上まで鞭を励起してやらねばならぬだろう。
教皇庁は聖遺物の高レベル励起を制限している。
けれど、オペラ座でのジョエレは励起制限違反の聖遺物を使っていた。必要とあれば、アンドレイナにそれを要求するのだって躊躇わないだろう。
(まぁ、それは後で本人に確かめるとしましょう)
判断がつかない事は保留だ。
ジョエレがどうこうを差し引いても、これからの作戦に電磁フィールドは役立つ。
王宮ほぼ全域にフィールドを展開しアンドレイナは息を吐いた。胸に手を置き、肺の中身を全て吐き出す。
これから取るべき行動を簡単に頭の中で整理した。
「王宮内での銃を封じました。全員警棒は持っていますね? 我々はこれよりこの建物を制圧します。評議員は見つけ次第拘束。それ以外の者達の対応は各自に任せます」
「押忍!」
「では行きましょう」
大人しくしていたので、軟禁状態ではあるけれど扉に鍵はかけられていない。
外に出ると見張りの衛兵と目が合った。
「困ります、司教フェリシアーノ。お出かけになられるようなら先に申請を出して頂きませんと。警備の人間を手配できませんので」
彼は、こちらが揃って出て行こうとするのを慌てて止めてくる。アンドレイナは無言で鞭を振い兵を打ち据え、電流を流して気絶させた。
「見張りの人間を手配できないの間違いでしょう?」
動かなくなった彼に一瞥だけ与え歩を進める。
「行動は2人ずつのペアで。A班B班前方偵察を。I班J班後方警戒。その他の班は評議員達の捜索を最優先」
簡単な指示だけ出し走りだした。
妨害してきた衛兵は鞭で締め上げ情報を吐かせる。用がなくなった者は意識を飛ばして転がした。
時間経過と共に相手も集団で向かってくるようになってくる。けれど、部下達の動きが昔より格段に良いので、全く障害にならない。
「随分と体捌きと警棒の扱いが上手くなっていますね」
「そりゃそうですよ。参謀が毎日毎日こればっかり鍛えてくれましたからね〜。出来が悪いと個別でしごきに来るんですよ、あの人。嫌でも上達しますって」
「2つに絞ってですか」
ジョエレが武術訓練していた者達は、今回の使節団に組まれる事が最初から分かっていた。荒事が起こった場合に《女王の鞭》の能力を使う事を織り込んで、それに特化した鍛え方をしたのだろう。
短期間で底力を引き上げるには悪くないやり方だ。
(ジョエレ。あなた、どこまで見越して動いているんです?)
あの不自然な失踪だって考えがあってのはずだ。それが何なのか、アンドレイナには分からないけれど。
(かないませんね。やはり、私よりあなたの方が総指揮に向いていると思うのですが)
それでも彼は裏方に徹するのだろう。
なんとなく、それだけは確かな気がした。




