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堕ちた枢機卿は復讐の夢をみる  作者: 夕立
Ⅶ.掲げよ旗を

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7-8 天敵

 目覚ましに起こされ食事に行き、それも終わって、ジョエレは大食堂の窓から外を眺めていた。


「何か、気になるものが見えますか?」


 その横にアンドレイナがやってくる。


「いや。ただ、明るいなと思って」


 ジョエレはちらっとだけ彼女を見、すぐに視線を外へ戻した。

 他人の耳もあるので言わなかったが、正確には明るすぎると思っている。


 夜だというのに空が薄ぼんやりとしていた。

 原因は、煌々と路を照らしている街灯と、街路樹に施された電飾。他にも、ビルの上でネオンが輝いていたりと、闇夜を払う光に困らない。

 マドリードは昔から明るい都市ではあった。けれど、クリスマスも終わったのにこれではハメを外しすぎだ。


 第五次世界大戦前であればそれで良かっただろう。

 世界の夜には光が溢れていて、人の住む大陸の形が宇宙からでもはっきり分かるほどだったと聞く。

 しかし、それは過去の話なのだ。


 現在、諸理由で原子力を用いた発電は行えない。

 石油や天然ガスを用いるにしても、ヨーロッパ内で賄える量には限界がある。

 となると、太陽光や水力、風力、地熱といった自然エネルギーによる発電に頼らざるをえず、不安定な上に絶対量が足りていないのだ。


 そのせいで、エネルギー問題が常にどこかで影を落とす。

 現に、日中の生産活動や鉄道網が必要とする電力の何割かは、貯め込んだ夜間の余剰電力が利用されている。むしろ、そうしなければ回せないと言ってもいい。

 それをこのような形で消費してしまっていると、日中の生産活動に支障は出ないのかと心配になる。


「ヴァチカンにこもっている者共には、この街は眩しいだろうな」


 傲慢な物言いがあった。方向は、アンドレイナがいる方とは逆。

 そちらから司教服の老人が近付いて来ていた。彼はジョエレの前までくると、理由も言わず、握っていた司教杖を振り上げてくる。

 避けられたけれど、ジョエレはあえて殴られた。


「痛っ」


 左肩に鈍痛が走り顔が歪む。


「大丈夫ですか!? あなた、突然何を!?」


 アンドレイナが老人を睨み、警備達が老人を取り押さえようとした。しかし、老人はその手をはね除け、彼女の鼻先に杖を突きつける。


「何をだと? 貴様らが挨拶ひとつまともに出来んようだから、躾けてやりに来たまでだ。教皇庁の職員も質が落ちたな」

「挨拶? 先に挨拶に行くべきお相手は回ったはずですが?」


 アンドレイナの眉の角度が急になった。


「いい、ベアトリス。下がれ。お前達もそのお方に手を出すな」


 それ以上アンドレイナが老人に噛みつかぬよう、ジョエレは彼女の前に腕をかざした。不承不承ながら彼女が身を引いたので、老人に向き直り頭を下げる。


「不作法で申し訳ございませんでした、元枢機卿、クラウディオ・アミルカレ・ボルジア猊下。今は、バレンシア大司教とお呼びした方がよろしいでしょうか?」

「ボルジア? まさか、長官のお父上の?」


 アンドレイナ含め、若い者達が驚いたような声を漏らした。

 気にくわなさそうにクラウディオが鼻を鳴らす。


「ふん。私の事は知っていたようだな。それで、そっちの女は頭を下げないのか?」

「ベアトリス」


 ジョエレが小声で言うと、


「申し訳ございませんでした」


 横で彼女の頭も下がった。


「すぐに頭を下げた素直さだけは褒めてやる。今後こちらに来る時は、真っ先に私に挨拶に来るのだな。ああ、だが、お前は来るな。いけ好かない男を思い出すからな」


 クラウディオがジョエレを杖で叩いてくる。嫌らしく、先ほど打ち据えられた肩の同じ場所をだ。

 むかつくのでどついてやりたいが、ここはひたすらに我慢だ。

 過去の経験上、こいつに刃向かうと事態がややこしくなるのが常だった。外遊先で騒動など、ディアーナにどやされるのも目に見えている。


「肝に銘じておきます」


 感情を殺して返事した。叩かれるに任せているとそれもやがて終わる。

 たっぷり時間をおいて顔を上げた時には、クラウディオは既に大食堂にいなかった。


「ジョエレ、肩は大丈夫ですか?」


 アンドレイナが心配顔で見上げてくる。


「なんとかな。向こうから近付いて来るとは思ってなかったぜ」


 殴られた左肩を回してみても特に不具合は感じない。触ると痛いので、あざくらいはできているのだろうが。


(ディアーナのやつ、あいつに会いたくないからって仕事蹴りやがって。俺だって嫌だっつーの)


 旧スペイン領の近況を勉強中にクラウディオがいるのを知り、行け行きたくないで言い合いになったのだ。その時のイライラまで思い出してしまい、ムカつきが増した。

 けれど、どこかに怒りをぶつけようにも人目が邪魔をする。仕方がないので表情だけは平静を保ち、拳を握り込んで感情を流す。


「!?」


 すると、建物が揺れた気がした。

 シャンデリアが揺れているし周囲も騒がしい。やはり揺れたのだろう。

 アンドレイナはというと、少々肩を縮こまらせて周囲を見回している。


「今のは地震ですか?」

「なんじゃねーかな」


 体感できる揺れぎりぎりだったので、本気でよく分からない。

 それでも被害がないか部屋を見回していると、


「あなたが怒ると地震まで起こるんですか?」


 アンドレイナがとんでもないことを言いだす。


「んなわけねぇだろ」


 そんな事をするのは神話の神々くらいだ。

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