19話
「婚約者候補ならいる」
ほほう。
三年生の教室にもっくんと二人でバルドさんを訪ねに来たら、教室内で女子に囲まれたラウロ王子がそんな宣言をしていた。大方女子たちに迫られていたんだろう。
そんな王子とパチリと視線があった。
「――そこに」
「……?」
こちらを向いたままそんなことを言うものだから思わず後ろを向く。誰もいない。
「……なぁ、フィル?」
「……」
視線を戻せばいつの間に来ていたのか、ラウロ王子が目の前に立って甘い顔で笑っていた。今、私を呼んだか。もしやその婚約者候補は私か。そんな話は聞いていない。
嘘だろう、とラウロ王子を見上げれば笑顔のままだ。ただし顔に「合わせろ」と書かれている。なんてことだ。
「ええ、そうですわねラウロ王子」
仕方ないので親に仕込まれた外行きの笑顔を浮かべて対応する。笑顔は筋肉で作れるとは母の言葉である。
「私ラウロ王子の婚約者候補になった覚えないんですよね」
「そんなもの作った覚えもないからな」
やっぱりそうですよね。
ラウロ王子、私、もっくん、バルドさんしかいない屋上で先程のことを確認する。やはり私の認識は間違ってなかった。この容量が小さすぎる頭が忘れたわけではなかった。
「というか、君、遠慮がなくなったな」
「予想外に面倒なことに巻き込まれてますんで。私辺境の出身なんでもともと作法とか必要最低限しか知らないんです。ご不快なら頑張りますが」
「いやいい」
「左様ですか。ところでラウロ王子なら婚約者の一人や二人いるでしょう」
「二人いたら問題だろう」
え、そうなの? とバルドさんに視線を向ける。なんか王族の方は何人もの嫁を持っているイメージ。
「この国では基本一夫一婦が普通だ」
「世継ぎの問題などがあれば側室も持つが普通は一人だな。父も母一筋だ」
「側室」
「王族も大変なんですね」
そうか、世継ぎ問題があるのか。
「そして父からは『人を見る目を養え』と自分で嫁を探すよう言われている」
「探せました?」
「………………しっかり人柄を見極めようと時間をかけていたら、全員を友人としてしか見れなくなった」
「ラウロ王子って才色兼備なイメージなんですけど、もしかして恋愛方面ポンコツです?」
「オブラートに包んでくれ。心が折れる」
「すみません」
ラウロ王子は意外と繊細だった。
「焦れた父か、それとも母か、その両方かはわからないが『婚約者募集中☆』の噂を流されていた。そしたら女子から迫られた」
「で、私を巻き込んだと」
「フィルという人物はそもそも存在しない。ならいいかと」
「一応今現在存在してるのですが」
「頑張ってくれ」
「うげぇ」
女子から攻撃されなければいいが。やだなぁ、物理攻撃なら避けたりできるけど精神攻撃は辛いぞ。




