17話
自分の脳みそのアホさ加減に泣きそうになった。もしかして記憶の半分くらいエルくんで埋め尽くされてんじゃないだろうな。
授業も終わり、一人頭を抱えていると不意に影が注した。
「フィルさん」
「……………………………………王女さま」
「どうしたの? 体調悪いの? 保健室行く? 寧ろ医者呼びましょうか?」
「すみませんただ自分の無能さに打ちひしがれていただけなので大丈夫です」
「ならいいのだけれど。いえ、よくないわね? もっと自信を持って?」
「心配してくださってありがとうございます」
「私が勝手にしたことだからいいのよ。フィルさんは眼鏡してるけど、目が悪いの?」
私の隣に座った王女様は何故か話を続けてくる。珍しいなぁ。
「えぇ。あまり目が良くないんです」
「やっぱり目が悪いと不便?」
「そうですねぇ……」
生憎、今の私は頗る目が良いので前世の視力0.03の自分の視界を思い出す。ついでに乱視つき。
「まずありとあらゆるものがボヤケます」
「あら」
「そして私の場合1つのものがいくつにも見えます。分裂します」
「あらあら」
「文字が読めなくて本を近づけて読める位置にまで持っていったら今度は焦点が合わなくて読めなくなります」
「それは……大変ね。眼鏡が大事なのね」
「本体ですね」
「ほんたい」
「生死に関わります」
「せいしにかかわる」
「裸眼で夜の道を歩いたら死にます」
「よく生きてこれたわね」
「眼鏡を発明してくれた偉大な人のお陰ですね」
前世の私はひどかった。眼鏡がなければ生きていけない。コンタクトでもいいけど、目が乾くし。メガネ大好き人間だった。でも邪魔な時は本当に邪魔。
「ところで貴方、私とあった事ない?」
「毎日学校であってますね」
「それよりも前。どこかで見たことがある気がするの」
「私の出身は王都よりもだいぶ離れた場所なので、おそらくあったことはないかと」
「あら、そうなの。……まぁ同じ顔は3人いるって言うものねぇ」
どうやら納得してくれたらしい。それにしてもヤバイな。やっぱりバレる気がする。そもそも私は色合いからしてバレやすいんだ。この世界にカラコンなんてないから目の色は変えられないし、髪色もウィッグだから多少変わってはいるけれどやはり色は薄い。あまり髪色を地毛とかけ離れた色にすることもできない。睫毛なんかの色で地毛はわかってしまう。
「なのでやっぱりもっくんに女装させるべきだったなと」
「殺すぞ」
「明確な殺意」
「お前の方がいいだろう。第二王子の護衛についてもたぶんバレるしな。それに向こうはフィオーレは男、フィルは女だと思ってるぶんバレにくい」
「それもそうですねぇ」
校舎の屋上で、王子たち三人が仲良く昼ご飯を食べているのを見ながら自分たちもご飯を食べる。3人固まってくれると守りやすくていいなぁ。
「そういえば第一王子の方はどうなんです?」
「どうも。オレは編入生ってことになってるからな、色んなやつが世話してくれるし、王子とも少し話したくらいだ。モナは?」
「オレもたまに話すくらいです」
「そのくらいの距離感でいいだろう。あまり近づきすぎてもな」
「でも仲良く四六時中一緒にいた方が守りやすいのでは?」
「それだと目立ちすぎる。万が一敵に目をつけられて、経歴を洗われたら身元がバレるし、フィルに関してはそんな人間存在しないことがバレる」
「駄目ですね」
「だろう?」
「適度な距離感な」
「難しい」
「友達の距離感がわからないです」
学園に入ってからわかったことだが、この三人、友達が驚くほど少ない。そもそも学園というものをすっとばして軍に入っている時点でお察しである。地元に友人はいるが、もっくんは出自が特殊だし、私は地元に同世代があまりいない。バルドさんも友人と呼べるような人間は数えられる程度だという。なんだろう、考えてたら悲しくなってきた……。
「三人が移動し始めましたね」
「じゃあ戻りますか。また放課後」
「ちゃんと授業受けろよ」
受けはするが、たぶん寝る。




