13話
「ジュートさん、足速すぎだ」
「うるさいわい。可愛い可愛い希少種が死にかけてんだぞ」
あとから入ってきた師匠さんの言葉にプリプリと怒りながら返したこのご老人はジュートというらしい。なんとなく、アーベルさんを思い出して、この人が希少種マニアなんだとわかった。
「フィオーレはどこだ!」
「隣の部屋です」
「邪魔するぞ!」
ジュートさんによって大きな音を立てて開かれた扉の向こうには二人が寝ているベッドがある。包帯を巻かれ、痛ましい姿になった二人は静かな寝息を立てていた。
「ふむ……静かなもんだな。見たところ自傷もしていない」
「本当ですね。山場は超えたか」
「これなら大丈夫だろう。数日もすれば元通りだ」
「取り敢えず、何があったか聞いてもいいか?」
どうやら、二人から見たらもう安心できる状況らしい。二人はこちらに向き直った。
「うーわー、ないわー」
「マッドサイエンティスト怖いのぅ」
一通りの説明を聞いた二人からの言葉がこれである。
今回の事件について。そして、ロンドと呼ばれる男の所業をすべて話した結果だ。あの二人は牢獄にとらわれている。博士と呼ばれていた男は罪を償うと、素直に従ったが、ロンドの方は反省の色がないらしい。
「神を作る? 馬鹿かよ。希少種は人間だっつの」
「確かに美しいがな。あれは人工的に作れるもんではないわい」
そういうものなのか。美しい……?
「今回、その惨状が引き起こされた要因は2種類の薬と、精神的負荷だな」
「だな。二人から詳しい話を聞かなければ詳しくはわからんが」
「どういうことですか」
二人が何やらあっさりと話し出すが、こちらは知識不足で何が何やらわからない。少佐から説明を求めた。
「モナって坊主のことは知らんがな、フィオーレのことはよく知っている。フィオーレは暴走したんだろうよ。魔力循環を乱す薬はただそれだけだ。魔力がなくなるわけじゃない。血を吐いたようだっつったな? ならおそらく制御の効かなくなった魔力はフィオーレを傷つけ始めた。それだけだったなら、暫くすれば元通りになったんだろうよ。けど、もう一種の魔力増強の薬で魔力が強制的に増やされた。お陰で体調は悪くなる一方。しかも循環を乱す薬を定期的に入れられてたってんなら相当ヤバイことになってたはずだ」
「で? フィオーレがいた場所は廃棄場? 死体だらけだったんだろう? あの子はそういうのが苦手だ。それが精神的に負荷を与えたんだろうよ。魔法は精神状態に深く関わるからな。そのせいであそこだけ局所的な嵐に見舞われ、原因不明の爆発が起きた。自傷も増えた。そして、お前らがやってきて、少し落ち着いて、今の状況だ」
つまり最悪なものが重なりに重なってあの状況だと。
「だが、その暴走で死者を一人も出さなかったのは褒めるべきところだな。そこだけは意地で守ったってことだ」
「え、」
「希少種が全力で暴走してたらもっと酷かっただろうよ」
あれより……?
あの惨状を思い出して、ゾッとした。破壊された建物を思い出す。アレより酷いとは、どうなるのか。
「良かったなぁ、フィオーレが人間大好きで」
「そうですね……」
「んで、モナって小僧な。こっちは恐らく魔力量がいきなり増えて身体が追いつかなかったんだろう。昔似たようなことがあったってんなら、それがトラウマになっている可能性があるな。それで揺さぶられて、暴走したんだろ」
ジュートさんの言葉にノエルさんは心当たりがあるのか、考え込んでいるようだった。
「あの二人は、大丈夫なんですね?」
「あそこまで落ち着いてんなら問題ない」
「……よかった」
「だが、一応目が覚めるまではここにいさせてもらう。いいな」
「どうぞ」
「そういや今あいつら学園に通ってんだろ? そっちは大丈夫なのか?」
「問題ありません」
「そうか」
しばらくは俺一人で学園に通うことになりそうだな。




