10話
バルド視点
惨状。
オレは今までこんなに酷い状況を見たことがない。
数日前、フィオーレとモナが消えた。探しても探しても見つからず、軍も学園も焦っていた。
学園に通いながらも、放課後に二人を探し続けた。少佐たちも。そして、何かあったときにと、師匠さんにも連絡をしていた。
それが今日、学園の近くの軍の施設に少年少女が駆け込んできた。数こそ多くはないが、彼らは焦燥仕切った様子で、山の方を指し、そこに実験施設があるのだと。大きな揺れと爆発が起きて、逃げ出せたのだと言った。
その中の一人からこんなことを言った。
「数日前にきた赤毛と白髪の新入りがまだ逃げてきてない!」
オレたちは声をかけるでもなく全員山の方へ向かった。
そして今、局所的に降る雨の中、オレたちはただ立ちすくんでいた。
「ーーーーーーー!!!!」
建物があったんであろう場所で、死体に塗れた地下でフィオーレが頭を抱えて何かを叫んでいる。
そこから少し離れたところではモナが自分を抱き抱いて地面に跪いている。
雨はやまない。
雷もやまない。
爆発も、嵐も、止まない。
そもそも学園の近くは快晴だった。山を一つ越えてはいるが、そこまで大きくもない山だ。天気がここまで変わるわけがない。これは魔法だ。
「フィオーレ!!!」
「モナ!!」
班長二人が、それぞれの班員のもとへ行く。傷がつくのも厭わずに。オレもフィオーレの方へと走った。少佐は迷うことなくフィオーレのいる地下へと飛び降りる。
「フィオーレ! フィオーレ、しっかりしなさい!!」
「ーーぁ」
これ以上は進めない。雨がフィオーレを守るように勢いを増して、まるで弾丸のようになっていた。少佐は傷だらけだ。
少佐の言葉にフィオーレの目がこちらを向く。
フィオーレは血まみれだった。顔も、両手も、服も、髪も。
逃げてきた子たちと同じ服を着ているから普段は隠された肌が服から見える。
傷だらけだ。
手は以前仕事中についた傷がある。腕や足も傷だらけだ。今だって傷ができて、血を流している。
……なんで、治らないんだ?
フィオーレは希少種だ。直ぐに傷が治るって言ってたじゃないか。なんで、治ってないんだ。
「モナ!! 落ち着けモナ!!!」
モナを呼ぶノエルさんの声が聞こえて、そちらを向けばモナも、傷だらけになっていた。その近くにいるノエルさんも。
「…………しょ、さ」
「はい、少佐ですよ」
「きず」
雷雨がやんだ。風もやんだ。爆発も収まった。やっぱりフィオーレの魔法だったか。
正気を取り戻したらしいフィオーレはフラフラと少佐の方へ近づいていった。少佐の姿を見て顔を顰める。
「……ごめん、なさい」
「大丈夫です、それよりも……」
少佐は未だに治らないフィオーレの傷に目をやる。それに気が付いたフィオーレは力なく笑った。
「へーき、です。……ぁ、も、くん」
そうだ、モナは。
「モナ! 大丈夫だから、落ち着くんだ!」
モナはまだ収まっていなかったらしい。




