1話
「……」
新品の制服に身を包んだバルドさんが死んだ目で床を見ている。悲壮感漂う背中だ。
「バルドさんバルドさん。似合ってますよ」
「オレもう今年で19なのに……ギリギリアウトだよ! 似合ってたまるか!」
「まぁまぁ。見てください、もっくんなんて女装ですよ」
部屋の端っこでこれまた死んだ目をしているもっくんを指差す。もっくんが着ているのは女子の制服だ。絶妙に似合っている。
「土に還りたい」
「早まるなモナ」
「なんでオレが女装なんだ」
「ノエルさん推薦」
「……」
私を除く二人から悲壮感が漂ってくる。
今年から第二王子と王女様が学園へと通い始める。
護衛もつくが、学園の中で四六時中ピッタリとそばにいられるわけではないので、安全のために魔法軍からも人を出すことになったらしい。そして選ばれたのが私達だ。
私達三人は学園に通っていなかったから学園に知り合いがいない。顔が割れていない。護衛ではあるものの、なるべく内密にしたいらしく、その点から私達が選ばれた。まぁ全員年齢のサバを読まなければならないのだが。1つ年下の学年に混ざらなきゃなんないからね。
そして、誰が誰の護衛につくか、という話になった時、第一王子は年の近いバルドさんに。困ったのは王女様だ。彼女は女子である。彼女の護衛はより近くで守るため、女装しなければならない。その役にもっくんが推薦された。ノエルさんから。可哀想。でも似合ってる。
まぁでもノエルさんはたぶんもっくんの女装姿を見たかっただけだろう。なんか凄く楽しそうにもっくん見てるし。
「ノエル、満足しましたか?」
「画家を呼んでも良いだろうか」
「駄目です。モナ、それ脱いで男子の制服に着替えてください。フィオーレは女子の制服に」
「はぁい」
「わかりました」
手渡された制服に着替える。ふむ、ぴったり。スカートの下に銃隠しておくこともできそうだ。動きは制限されるけど、あった方が良いだろう。
「ところで私の見た目ってこういうひっそりとやる仕事に向いてないと思うんですよね」
被ったウィッグを整えながらエルくんに言う。私の見た目は派手過ぎる。白い髪に赤い瞳はひっそりとするには目立つだろう。それに王子たちには一度会ってしまっているから、この仕事には向いていない気がするんだ。
私の疑問にエルくんは疲れた顔をした。憂い顔も良い。
「……軍にいる人は、殆ど学園出身なんです。教師陣に知られていたりするよりはマシです。本当に」
「切羽詰まりすぎでは?」
「色々あるんですよ……」
「大変ですね……」




