五十二話 その2
「祭りだー!」
「はしゃぐな。落ち着け」
「ぐえっ」
えりを掴まないでほしい。
あの後死ぬ気で勉強を終えた私は、バルドさんと共に街へと繰り出した。様々な屋台が立ち並び、人が行き交う活気に満ちた場所。祭りだからか皆浮かれているようだ。
「何か食べましょう! 制覇しましょう!」
「無茶言うな」
「普段あんなにもりもり凄まじい量のご飯を平らげてるのに!?」
この間も山盛りのパスタを平らげてたよこの人。私の数倍はあったよ。胃袋ブラックホールかよ。バルドさんなら屋台制覇くらいできそうなもんだけど。
「少しだけな……。制覇はしない」
「はーい! さっそくあのもふもふ食べましょう!」
「もふもふって……」
なんか綿飴みたいなもふもふを購入して二人で食べる。うまい。次は塩っぽいものが食べたいなぁ。何があるだろう。焼きそばとか食べたいけどこの国にはないのが残念。というか和食食べたいなぁ。米……餅……味噌汁……。
「明日はまた仕事かぁ」
「最近物騒だからな。あっま……」
「バルドさん甘いの苦手でしたっけ」
「いや別に……けどこれは……」
「うま〜……あ、もっくん!!」
もふもふを食べていると前方に特徴的な赤毛が見えた。もっくんだ。どうやら一人でいるらしい。
「もっくーーーーん!!!!」
「お前よく気がついたな……だいぶ離れてるぞ」
呆れた様子のバルドさんが言うように、たしかにもっくんは結構先にいる。私がもっくんを見つけられたのはあの赤毛と、そしてあれだね、もっくんに対する愛情からだね!!
「もっくーん!!!」
「何度も呼ぶな聞こえてるわこのおチビ!!!」
「ぅぐっ!!」
大きな声でもっくんを呼んでいると凄まじい勢いで走ってきたもっくんに鳩尾を殴られた。だってもっくん一回目無視したじゃない! 無視されたら悲しい!!
「モナは一人なのか?」
「あ、バルドさんこんにちは。今日は休養日なので、一人で散歩してました」
「もっくん、私への対応ひどくない? ツンデレ? ツンデレなの? 実は私のこと大好きなの?」
「黙れチビ」
「んにゃぁぁぁあ!! もげる! 腕がもげる!!」
「お前ならまた生えてくるんじゃないか? なんかしぶとそう」
「生えないよ!?」
流石の私でもそんな特殊な体はしていない。もげた腕は戻らないよ。もげなければ治るだろうけど。あ、でもどうだろう。神経が切断されたら流石に無理かな。治癒魔法はどのくらい効くんだろう。師匠に聞いておけばよかったな。
「もっくん私に冷たくない?」
「早朝にエロ本を抱えてオレの部屋に突撃してこなければもう少しマシな対応するんだがな」
「てへぺろ」
「あともっくん呼びやめろ」
「呼ばれて嬉しいくせに〜」
「てめえの脳髄引きずり出してやろうか」
「ひぇっ」
物騒な笑みを浮かべて、これまた物騒な言葉を放つもっくんに恐怖して私はバルドさんに抱きついた。モックンコワイ。でももっくん呼びはやめない。絶対に。
「モナ、これ食べるか?」
バルドさんがもっくんに差し出したのは屋台で売っている饅頭だった。おかしい。私は先程からバルドさんにくっついていたけど、そんなもの買っていなかったはずだ。
「バルドさんそれいつ買ったんです?」
「さっきだな。ほら、そこの屋台で売ってるから」
バルドさんが指差したのはすぐ近くの屋台。なるほどそれならほとんど動かずに買える。
「いただきます」
「フィオーレも」
「わーい! いただきまーす!」
その日は三人で祭りを満喫した。途中エルくんたちやノエルさんたちにも会った。何事もなく平和な一日を過ごせた。楽しかった。
あぁでも、もうすぐ私が軍に入ってから一年が経つ。つまり、物語の舞台が始まるのだ。気を引き締めねば。




