五十二話 その1
「……バルドさん」
「んー?」
「今日お祭りじゃないですか」
「そうだな。しかも俺達は珍しく休みが被った」
うん。お祭り当日に休みなんてなんと運がいいのか。しかしだな。
「なんで私は勉強させられてるんですかね……!!」
私はダンッとテーブルに拳を叩きつける。机に広げられているのは参考書とノート。今は植物について学んでいるところだ。
「お前の頭に知識がなさすぎるからだろ」
「私の脳みその容量小さいんですもん!! 師匠が匙を投げるレベルですもん!!」
因みに師匠はニコラの家庭教師もしている。あの人実は頭いいんだぜ。顔良し身体よし頭良し。なんだよ完璧超人かよ分けろよ。ニコラもよく勉強する子で、知識に貪欲らしいから、私なんかよりずっと頭がいいんだと思う。悪かったな脳筋で。
「それでも叩き込め。何かあったときのためだ」
「草じゃん……全部草……」
「大雑把すぎんだろ」
だって何この挿絵。こんな挿絵でどう見分けろと? せめて実物がほしい。なんだよこの挿絵。チュパカブラか? チュパカブラ知らないし見たことないけど!! この世界にチュパカブラいないけど!! 取り敢えず確かチュパカブラは草じゃなかったはずだ。自分は何を言ってるんだろう。
「ほら、覚えろ」
「バルドさんの鬼!!」
「もう鬼でもいい」
「せめて実物が見たい。食べてみたい」
「食べたら死ぬぞ」
「魔法で解毒できないんですか」
「今現在の常識では不可能だな諦めろ」
「ちくせう!!」
私は泣く泣く参考書と向き合った。やっぱりわからない。なんだよこれ……。この2つの葉っぱは一体何が違うんだよ……。一緒じゃないか。もっと違いをわかりやすく描いてほしい。というか写真を載せてくれ。カメラを作れ。
「……少佐から、それが終わったら祭りに行っていいと言われてる」
「お祭り!」
「子供か。ほら、頑張れ。教えてやるから」
「バルドさん優しー!」
「お前さっきと言ってること違うぞ」
「私は前だけを向いて生きていくのですよ」
「たまには過去を振り返れ」
だって振り返ったら思い出さなくていいことも思い出しちゃうじゃん。
「前を向き続けてたら疲れるだろ」
「後ろを向いたら心が折れますよ、私の場合」
「そうか。ところで何を書いてるんだお前」
「え、犬」
自分の本から視線をずらし、私の手元をのぞき込んだバルドさんはしばらく無言になった。ちなみにバルドさんが読んでいるのはよくわからない小難しい本。私には絶対に読めない。
「フィオーレ……」
「なんですかバルドさん」
「絵心の欠片もないな……」
「ほっといてください……!」
そんな慈愛に満ちた目で見るなよ!! 勉強してないことを怒ってくれた方がまだマシだよ! 泣くぞ!!




