五十話 その3
もっくんと別れて廊下を歩いていると何やら壁の向こう側から弾丸を打ち込むような音が聞こえて足を止める。
止めた次の瞬間、少し先にあった壁が凄い音を立てて崩れた。煙を立てているそこに人影が映る。
「モナはどこかな!?」
「……oh」
瓦礫の上に立っていたのは片手に銃、もう片方の手で気絶した男の首根っこを掴んだノエルさんだった。美しく長い金髪が太陽の光を反射していて眩しい。
叫ぶノエルさんに若干の恐怖を抱きながらもっくんがいた部屋を指差す。ノエルさんは満面の笑みを浮かべた。
ところでまさかその銃で壁を壊したんです? その銃にそんな威力無いですよね? え、怖。
「ありがとう! お礼にこれをあげよう!」
「わーい!」
犯人ゲットだぜ〜。取り敢えず縛っとこ……。あ、私亀甲縛りしかできない。こんなことなら前世でそっち系の本を読んで学んでおくべきだったな。亀甲縛りしとこ。
「フィオーレ!!!」
「あ、少佐〜。これ犯人ですよ」
「この男だけですか?」
「もう一人いますねぇ」
壁の穴からやってきたエルくんは走ってきたのか汗をかいている。あ〜、イケメンだ。顔が良い。素晴らしいよね。私の推しが今日も尊い。
「何もされませんでしたか? 怪我は?」
「連れて来られるときにバチッとやられただけです。怪我はたぶんないです」
「よかった……!! ところでその男はなんでそんな奇っ怪な縛られ方をしてるんですかね」
「私がやりました!」
「器用ですね」
「ところでさっきノエルさんがこれ片手に壁を破壊したんですが」
「モナが無事ならすぐ収まりますよ」
「愛されてんなぁ、もっくん」
なるほど、友人も目をつけるわけだ。ふむふむ。
「モナ無事だった!!!!」
「よかったですね」
「……」
満面の笑みを浮かべたノエルさんにお姫様抱っこをされたもっくんの顔は死んでいる。
「モナに傷一つでもついてたらそれ、3分の2くらい殺すところだったな!」
とても良い笑顔でとてつもなく物騒なこと言うなこの人。
「過保護ですね」
「家族だから仕方ない。このあとの処理は任せて大丈夫か? 我々の班は今日休養日なんだ」
「えぇ、大丈夫です。巻き込んでしまって申し訳ない」
「いや、悪いのは犯人だからな。向こうの部屋に今までさらわれたご婦人方がいた。早く安心させてあげるといい」
「おろしてください……!」
「断る! じゃあまた会おう!」
そう言って颯爽と去って行くノエルさんを私達は呆然と見送った。もっくんは依然としてお姫様抱っこされたままだった。もっくんのSAN値が心配である。
その後、バルドさんたちも合流し、犯人を捕縛しお持ち帰り、被害者たちはそれぞれの家に送り届けて仕事は終わりとなった。まぁ私はこのあと報告書を書かなきゃならないんだけどな!!! ノエルさんは始末書書くらしいよ!! 壁壊したからですねわかります。
「もう今日の天気だけ書いて提出したい。今日は快晴でした……」
「アホか」
「みにゃっ」
机に突っ伏してうだうだ言ってたらバルドさんに頭を叩かれてしまった。感触からして丸めた書類かな。
「ほら、教えるからちゃんと書け」
「バルドさん好き……神かよ……優しすぎて悪い男に付け入られそう……貞操が心配」
「お前ほんと慎みどこにおいてきたんだ?」
その辺に捨てたんじゃないかなぁ。




