四十九話
出張から帰ってきた次の日は休息日だった。ので。
「もっくん! 猥談しようぜ!」
「帰れ」
「即答!!」
朝早く、今日はもっくんも午前中は休みだと聞いたので会いに行けば真顔で即答されました。泣くぞ?
「折角エロ本……じゃねぇや春画買ってきたのに! 新刊だよ!?」
「見ねえよ!? あとエロ本と春画は大して意味変わらねえからな!?」
「うっそだろ!? もっくんこういうの興味ないの!? あ、綺麗なお姉さんよりガチムチ筋肉のほうが良かった!? 大丈夫! 各種取りそろえてるよ!」
「んなわけねえだろ! 人の趣味を捏造すんな! なんで取り揃えてあるんだ!」
「給料の使い道がわかんないんだよ!!」
「もっと有用活用しろよ馬鹿!!」
仕方なくない!? 今まで給料なんてなかったし、無駄に給料良いし、必要なもの買っても余るし、前世のときみたいにゲームとかないし。娯楽用に本を買っても、すぐ読み終わっちゃうんだよ?!
「ったく……。で? 何しに来た」
「猥談!」
「出てけ」
「じゃあ遊ぼうぜ〜。ところでもっくんはどの子がタイプ?」
「おい、本を広げんな! 見せんな!」
「にゃは〜、もっくん顔まっか〜」
「燃やすぞ」
「すみませんでした!!」
土下座したら不思議そうな顔をされた。そうだ、この国に土下座というものはない。
「なんだそのおかしなポーズは」
「謝罪のポーズ」
「取り敢えず床は汚えから頭上げろよ……ほら、飴ちゃんやるから」
「わーい!!」
勢い良く頭を上げて飴を貰ったら何故かもっくんに呆れられた。悲しい。というかもっくん私のこと子供扱いしてない? 同い年ぞ??
「ったく……こんなもん見て何が楽しいんだか」
「え、知らね。こういうのって何を楽しむの? お姉さんたちの肌色面積でも測るの?」
「少なくともそんな楽しみ方はしねぇよ。いや、なんでお前これ買ったの? 何がしたかったの?」
「無駄に溜まっていく給料の消費。あと、男といえばこれかなって」
「……本屋行くぞ……」
もっくんは大きくため息をついてから、ゆっくりと立ち上がった。わーい本屋ー。
「ほわぁぁぁあ」
「……アホ面」
「え、これなに。なにこの難しそうな本。もっくんこんなん読むの? すごいね? 天才かよ」
「……」
あっ、凄く残念なものを見るような目で見られた悲しい。
「ここは少しニッチな本も置いてる」
「ほぇぇ」
「……これでも買えばいいんじゃないか」
そう言って渡されたのは可愛らしい絵の描かれた絵本で。
「もっくんこれ絵本。この国では代表的な絵本。対象年齢3歳程度。もっくん私のことなんだと思ってる?」
「ちび」
「悲しい」
「じゃあこれ」
今度は分厚い専門書。これ何語? 象形文字?
「ハードル高すぎない?」
「読めるだろ」
「無茶な」
私にそんな能力を求めないでほしい。こちとら自他ともに認める脳筋だぞ。
「……フィオーレに読ませるならこっちのほうがいい」
その言葉とともに私の手に乗せられた1つの本。さっきもっくんが寄越したのよりも柔らかい言葉で書いてある。
「バルドさーん」
「こんにちは、バルドさん」
「奇遇だな二人とも」
何冊かの分厚い本を手にした私服姿のバルドさん。どうやら彼もこの本屋に来ていたらしい。
「バルドさんはどんな本買うんです?」
「他の国の歴史について少しな」
「ほぇぇええ」
「モナは?」
「今から選ぼうかと。あと、こいつに」
「エロ本ばっかり買ってたら呆れられました」
「……さっき渡したやつと、あとは……そうだな、これ読んどけ」
「さばいばる」
スイっとバルドさんが本棚から取り出した本はサバイバル本だった。なるほど、孤島に放り出されても生きていけるようにしろということか。いや、それどんな状況?
「モナはどういうのが好きなんだ?」
「機械工学とか……ですかね」
「これは? オレはこれ結構好きだった」
「……!!!」
「気に入ったようで何より」
もっくんはバルドさんが選んだ本を手にとって喜び震えていた。どうやら相当気に入ったらしい。可愛いなぁ。
「バルドさんはよくここに?」
「まぁ。基本的には図書館で借りるけど、たまにはな」
「本好きですか」
「あぁ。先人たちの知恵の結晶だからな」
バルドさんは幸せそうに手に取った本の表紙をなでた。
「真面目ですねぇ」




