四十八話 その5
「起きろ、こんなところで眠るな」
その言葉に起こされて目を開ければ軽装の師匠と目があった。
「……師匠って目は夜色だし、髪も黒いから闇夜に溶け込みますね」
「頭はしっかりと働いているようで何よりだ。起きろ」
目を開けると夜空と一体化しそうな師匠がいた。服装が黒いからなおさら。
あぁ、嫌な夢を見た。
そう心の中でぼやきながら体を起こす。どうやら屋根の上で空を眺めたまま寝たらしい。嫌な夢を見たせいで寝た感じはしないけど。
「エルベルトが探してたぞ」
「私なんかやらかしましたっけ」
「さあな。急ぎではないようだからもう寝てるだろ」
「つまり今少佐の部屋に行けば寝顔が見られる……!?」
なにそれすごく見たい! 寮だと見に行けないからね! 是非とも見に行きたいものだ。このあと見に行こうかな! 明日には帰っちゃうし。
「お前たまにド変態になるよな」
「すごく心外です! 私のどこが変態だと!? どちらかというと師匠の方がぅぐ!」
「お前は俺に対して余計なことを言わないとならない呪いでもかかってんのか? ん?」
師匠の方が変態では? と言おうとしたらほほをガッと掴まれて遮られた。喋れないので離してほしい。というか笑顔が怖い。
「ふ、ふひはふぇん」
「よろしい」
素直に謝ればあっさりと解放される。私はまだ違和感のある頬を擦った。
「師匠、容赦なく力入れましたね! 顎砕けるかと思いましたよ!」
「砕けちまえ」
「師匠もしかして私のこと嫌いなんです??」
私の扱い雑すぎない? とジトっとした視線を向けたら鼻で笑われた。泣きたい。
「愛してるに決まってんだろ」
「私も師匠のこと愛してますよ! 相思相愛ですね!」
師匠の言葉にそう返したら師匠は私の頭を少し強めの力で撫でつけた。その力加減がどこか嬉しい。もっと。
「ほら、そろそろ部屋戻れ。風邪を引く」
「明日も早いですしねぇ」
「あっちでもがんばれよ」
「師匠も。こっちの皆の事、お願いしますね」
私が向こうに行ったらこちらにいる皆を守れないから。そう言えば師匠は当たり前だろうと呆れたように言う。そして、少しだけ苦しそうな表情をした。
「死ぬなよ」
私は曖昧に笑った。




