四十八話 その2
なんで、この人は今その話を出した? まだ戦争までには時間があるはずだ。なんで、なんで?
「……何事にも前兆はあるからな。いきなり朝起きた偉い人が『そうだ! 隣国と戦争しようぜ!』とか言ってその日に戦争始めるわけないだろ?」
つまり前兆らしきものが見られたと。税が上がりでもしたか。ところでなんで私の方を向いて言うんですかね。顔に出てる? そろそろ表情筋を自由自在に操る練習でもすべき? いや、もしかしたら師匠と私の間でテレパシーでも通じているのかもしれない。片道だけど! 私師匠の考えてること1ミクロンもわからないけど!!!
頭の中でそんなことを考えているとスッと地面に降ろされた。私を持ち上げた意味を問いただしたい。
「つってもこれは懸念であって、確実なものじゃない。何事もなければそれはそれでいい。その石はお守りにでもしてろ」
「わかりました」
「あぁでも多少は土魔法の練習しとけよ」
「はい。ところで兄さん」
「ん?」
「この魔石……どうしたんですか?」
「獲った」
4人がドン引きしていた。
「師匠が持ってるのは全部自分で獲った魔石ですよ」
魔石は基本的に魔物の身体のどこかにある。それを獲るということはつまり魔物を狩るということだ。
私も山に入った師匠が無傷で魔物を抱えてきたときは流石に引いた。だって無傷! 魔物相手に!! 師匠は丸腰でも魔物より強かった!! 意味がわからないね!! 人間やめてるんじゃないかな!!
「おいエルベルト、お前はこの間熊を狩ってきただろうが。人のこと言えないからな」
「流石の私でも単独で魔物と対峙はしませんよ」
「えっ……?」
「えっ」
驚いた顔がそっくりである。
「お前……魔物狩らないのか?」
「すみません。私には兄さんみたいな超人的な身体能力も、魔法操作のセンスもないので……」
「熊は倒すのに!?」
「貴方だって小さい頃やったでしょう!? それにあれは不可抗力で……」
「突然襲い掛かってきた熊を少佐が殴り飛ばしてました」
「バルド!?」
殴り飛ばす……。やべえ。兄弟揃って規格外。
「やっぱ兄弟は似るもんだな!」
「うぐぅ……!」
師匠は嬉しそうにして、エルくんはなぜか悔しそうにしている。兄弟仲がよろしいようで。エルくんのそんな顔初めてみたよ。なるほど弟っぽい可愛い。弟属性は良い。天使かよ。
「仲良いわねぇ」
「微笑ましいな」
「なんか二人とも武器持ち出してますけどね……」
「師匠も手加減くらいしますよ、たぶん」
何だかんだ私にだって手加減しているのだ。兄弟喧嘩でもできるだろう。
観戦の体勢に入った私達はニコラが呼びに来るまで師匠とエルくんの兄弟喧嘩を見続けた。私は兄弟喧嘩をしたことがないので新鮮である。これが兄弟喧嘩かぁ。




