四十五話
「うん。健康健康」
もう見慣れた診察室で、馴染みの医者であるダンテさんが満足そうにつぶやく。
師匠に言われてダンテさんに様々な検査をしてもらった。もう何年もやっていることだから慣れたものだ。
「向こうでもきちんと生活できているようで何よりだ」
「先生は私をなんだと……」
「ははは」
「むぅ……」
カルテに何やら書き込む先生は朗らかに笑っている。それを見ながら私は椅子をくるくる回していた。今頃少佐たちは訓練を受けているのだろうか。くるくる回るの楽しい。
「体に異常は感じない?」
「相変わらず何も」
「そっかぁ」
「くるくる回んな」
またくるくる回ろうとした私の肩をいつのまに戻ってきていたのか師匠がガシリと掴んだ。食い込んでる食い込んでる。
「キーラ婆さんが呼んでたぞ」
「キーラさんが? 今日は調子良いんです?」
「みたいだな。屋敷にきてる」
ひょいっと椅子から降りる。キーラさんが来ているなら会いに行かねば。
キーラさんは私を天使様みたいねと言いながら特に可愛がってくれたお婆さんだ。ニコラもお世話になった。というか、この付近に住んでる人は皆あの人の世話になってる。あの人すごい。
「師匠は行かないんですか?」
「俺はダンテさんと少し話がある」
「猥談ですかししょ……待って待って師匠! 私の腕はそっちには曲がりません可動域外です!」
腕をあらぬ方向に曲げられながら叫べば師匠はその攻撃をやめてくれる。痛みはなくとも脱臼はするし怪我もするのでやめてほしい。
「馬鹿なこと言ってないでさっさと行け」
「師匠私の扱い雑すぎですよ〜」
師匠に部屋を追い出されたので私は廊下に出る。扉が閉められ、鍵のかかる音がした。私はその扉に背を預ける。
『で、フィオーレの身体は』
中からは微かに師匠の声がする。この部屋の扉はそこまで分厚くない。まぁ、聞こうとしなければ聞けない程度の声だが。私は聞く。
『何も変わってないよ。身長体重に微々たる変動はあっても、それ以外は何も。魔力量は測れないしね』
『何も、ね』
『あぁ。何も変わってない』
「……」
私は扉から退いて、廊下を進み始めた。




