四十四話
「これ美味しいですね〜」
「でしょう〜? ちょっとお高いやつなのよ〜」
「あら、そんなのを頂いていいのかしら」
「いいのよ〜。それより貴方どこの化粧品使ってるの? 軍人なのにお肌ツルツル」
「これは王都にある店のなんですけど、凄く良いんですよ〜」
「そうなの? 今度買おうかしら」
「すごーい!! 高いねーおじさん!」
「だろー? って俺はおじさんじゃねえよ!? まだ20代だ!」
「おっちゃん?」
「お兄さん!」
「カルトスさん!」
「おう!」
「馴染んでるなぁ……」
我が家になじむ先輩方を見ながらつぶやく。母様はエルミオさんとお茶してるし、ニコラはカルトスさんに肩車をしてもらって嬉しそうだ。因みに父は仕事、私の隣には師匠。
「そうだなぁ。ところで馬鹿弟子」
「はい」
「その手に持っているものはなんだ?」
師匠に言われて、自分が持っているものを見る。
エロ本。
「エロ本ですねぇ」
「没収」
「理不尽!!」
折角買ってきたのに!!
私が持っていたエロ本は師匠の魔法で消し炭となってしまった。まだ読んでなかったのに……。今回のは美乳ばかりを集めたやつだったのに……。
「折角師匠好みの美乳特集なのに……!」
「五月蝿い。ニコラの教育に悪い」
「ぅぐぅ……!」
そう言われてしまうと何も言えない。
ニコラと私はそこそこ年が離れており、ニコラはまだ齢1桁。たしかに、エロ本を見せるにはまだ早い。いや見せる気ないけども。不慮の事故で見てしまうかもしれないから。
「師匠だってエロ本の1つや2つ持ってるでしょうに……!」
「持ってねえよ」
「え!?」
嘘だろ!? バルドさんといい、私の周りの男性はふの……。
そこまで考えたところで私の体は宙に浮いた。頭は師匠の手に掴まれている。
「今なんか失礼なこと考えなかったか?」
「考えてないですぅぅう!!」
師匠が実は童貞とか思ってないです!!
「そうか、そんなに俺と遊びたいか」
「あるぇ!?」
私何も言ってないのに!?
因みに、師匠がこういうときに言う遊び=死ぬ気の遊びである。この間の鬼ごっこみたいなものだ。
師匠の手から開放されて地べたに座り込んでいると影がさした。
「何やってるんですか……」
「お、エルベ………………何だその熊」
「獲りました」
「OKわかった。そのまま動くな」
こちらにやってきたエルくんは背中に大きな熊を背負っていた。勇ましいエルくんも良いと思う。その後ろにいるバルドさんが若干引いているけれど。
「何をどうしたらここで熊が穫れるのか、俺にわかるように説明してくれ」
「山に入ったら目をつけられまして。死にたくはなかったので」
「そうか。なら仕方ないな」
師匠納得するの早くない???
いや確かに死にたくはないだろう。私だって全速力で逃げた。そして崖から落ちた。けど流石に熊は獲っていない。
「因みに魔法で?」
「素手ですけど」
エルくんの言葉に私は空を仰いだ。
そうか……エルくんは熊を素手で仕留めるのか。本にはそんなこと書いてなかったわ。やったね初情報。
「あ、フィオーレ。お前ダンテさんのところ行ってこい。ひまだろ」
「おっと師匠、失礼ですね。私にだって用事の1つや2つ……」
「ないだろ」
「……」
「さっさと行ってこい。検査するだけだ」
「はーい……」
心外である。まるで私が暇人みたいじゃないか。いや暇人なんだけども。
私はダンテさんのいる病院へと足を進めた。




