四十三話
「弟子を地面に落として去っていくって……師匠酷くない……?」
地面に落とされたまま空を見上げて呟く。空が青いなぁ。
「痛くないのか?」
「ないですね。衝撃で、あぁ落とされたなぁってわかるくらいです」
バルドさんの疑問に答えて身体を起こす。よく寝たよく寝た。
「少佐は行かなくていいんですか?」
「えぇ。私は先程少し話してきました」
「お二人とも今日はもうお休みですか? というか、カルトスさんとエルミオさんは?」
私の近くに腰掛ける二人はどこか疲れている様子だ。たしか、私達が鬼ごっこしている間も訓練していたんだっけか。
「兄が両親と会っている間は休みです。カルトスたちは貴方の家の手伝いをしていますよ」
「おっふ……」
客人に手伝わせて私が手伝わないのはまずい。あぁでもまだ体が重いな。
「今頃結婚についてでも話されてるんじゃないですかね」
さらりとエルくんがそんなことを言う。けっこん……? 結婚ていうとあの、えっと………………。だめだ、良い言葉が思いつかない。ウェディングドレスしかでてこない。ウェディングドレスを着た師匠しか頭に浮かばない。やばい。
「師匠……ケッコン……?」
「あの人ももう良い年ですからね」
いや待ってほしい。つい先日生きていることが発覚した師匠だぞ。普通生きていることを喜ぶのでは? 何故に結婚???
「私達の両親、ちょっとあれなんで」
「あの……今更なんですが、師匠さんっておいくつなんですか?」
「今年で29です」
「はぁ!?」
29!? 見た目20才なのに!? 詐欺かよ!
「なんでお前が驚いてんだよ……師匠だろ」
「いやあの人の年齢なんて気にしたことありませんし。出会ってから見た目が全く変わらな……あの、少佐っておいくつです……?」
エルくんと師匠は見た目が結構そっくりだったりする。二人とも結構若く見えるが、師匠は29。では、エルくんは? 20代ということしか覚えていないんだが。
私からの質問にエルくんは少しだけ目を瞬かせてから口を開く。
「私は今年で26です」
「え!?」
「実年齢に見た目が追いついてませんね……」
ランディーニ家はそういう呪いにでもかかっているんだろうか。
「ってことは少佐も結婚勧められたりするんです?」
「しますね」
「個人的には黒髪長髪泣きぼくろがある美乳の女性とかが良いと思います」
エルくんが本の中で結婚した女性である。
「えらく具体的ですね」
「だって少佐美乳好きじゃないですか」
「へぇ〜。エルベルトって美乳が好きなのか」
突然降ってきた声に反応したエルくんが持っていた短剣を声の主に突き立てた。まぁ、当たらなかったわけだけれども。
「戻ってくるの早すぎません?」
「逃げてきた。そうかそうか。お前は美乳好きか。兄弟だと好みまで似るもんかねぇ」
ニヤニヤと笑いながら短剣を持っているエルくんの腕を抑える師匠。あぁ、底意地の悪い。ん? 兄弟で似る?
「ってことは師匠も美乳好きなんにゃぁぁぁぁあ!! 頭蓋が割れる!! 首が伸びるぅぅうう!!」
師匠に頭蓋骨を鷲掴みにされ宙に浮く。ジタバタ藻掻くが師匠はびくともしない。くっそ!! この人の腕力どうなってんだ!!
「口が減らねぇなぁ、馬鹿弟子?」
「すみませんすみません馬鹿なこと言いましたごめんなさい」
「ん」
「頭蓋が粉砕されるかと思った……!!」
べしょっと地面に落ちて頭を抱える。怖かった!!!
痛みはないけど圧迫感はある。頭が握り潰されているということはわかるのだ。それに頭からミシミシ音がしたら流石に怖い。
でもそうか。師匠は美乳好きか。なるほど……。




