三十七話
バルドさん視点
フィオーレの実家にきて三日目。休憩に入ったのでのんびりしていると少し離れたところにフィオーレを見つけた。目立つ色なので見つけやすいな。
「あら、フィーちゃんじゃない」
エルミオさんも休憩に入ったのか、俺の隣に腰掛ける。
フィオーレはなにやら見たことのないお年寄りと会話をしているようだった。何を話しているのかまでは聞こえない。
「あぁ、キーラ婆さんか」
「師匠さん。………………少佐、大丈夫ですか」
「大丈夫ですよ」
ぼーっとフィオーレを眺めていれば師匠さん、少佐、カルトスさんがやってきた。どうやら午前の修行はこれで終えるらしい。取り敢えず少佐がボロボロなのが気になった。
「キーラ婆さんとは?」
「あの婆さんのことだ。フィオーレを天使だとなんだと気に入ってるんだよ」
天使?????
「異国の方ですか」
俺が首を傾げるとどうやら回復したらしい少佐がそんなことを言った。異国。
「親御さんがな。キーラ婆さんはここで生まれ育ってるらしい。親御さんに天使様の話を聞かされて育ってて、その天使様に憧れてるんだと」
「バルドは他の国についてあまり知らないの?」
「すみません……勉強不足で」
「まぁ戦術なんかに比べると優先度が低いものね。仕方ないわ」
「天使様、と言うのはとある国の昔話に出てくる言葉ですよ」
「その国では昔雨が降らなくて飢饉に陥りそうになったとき天使様が雨を降らせてくださったおかげで作物を育てることができ、飢饉にを免れたって話が残ってるの」
「その天使様の見た目がフィオーレの様な白髪、赤い眼だったと言われているんだ」
少佐ふくめ先輩の三人からの言葉になるほどと頷く。
「因みに俺達の国の解釈として、その天使様の正体は希少種だったんじゃないかという説がある」
さらりとそんな言葉を言ったのは師匠さんだ。
「そうなんですか?」
「と言っても、それを言ったのは俺の知り合いだがな」
少佐も初めて聞く話だったらしく、興味深そうに師匠さんに聞いていた。
「知り合い、ですか。兄さんにそんな知り合いいました?」
「軍で働いてた時に仕事先で知り合った希少種マニアだよ」
「希少種マニア」
「希少種がいると聞けばすっとんでくる変態だ」
変態と聞いて脳裏にアーベルさんが浮かんでしまった。いや、あの人も少佐曰く変態らしいし、間違ってはない。たぶん。
「ところでなんで希少種ってわかるんですか?」
「それは……………………」
「師匠ーーーー!!!!」
何か言い淀む師匠さんの言葉を遮るようにフィオーレの声が響いた。フィオーレは何やらダッシュでこちらに向かってきている。
「キーラお婆さんたちが畑で取れた野菜くれました! あとお肉! 美味しそう!!」
あぁ、耳と尻尾がみえる。犬かお前は。
満面の笑みで嬉しさを伝えてくるフィオーレの頭を師匠さんが撫でるとフィオーレは更に嬉しそうに破顔した。
「良かったな。今日は夕飯食べられそうか?」
「たぶん無理です!」
「そうか」
「よし、お前ら4人は飯食ったらまた訓練だ! とっとと準備しろ!」
気を取り直したように告げられたその言葉に従い、昼食のために一度室内へと戻る。
その日、フィオーレは殆ど飯を食わなかった。




