三十六話
家から少し歩いた所にある広場に爆発音やら、風の切る音やら師匠の声やらが響いている。
「バルド! 魔法ばっかに頼んな! 無駄に魔力を消耗することになるぞ!」
「は、はい! うわっ!!」
「エルミオはもっと積極的に攻撃してこい! その調子じゃ何時まで経っても終わらないぞ!」
「えぇ!」
「カルトスは魔法を使え! どんだけ肉弾戦好きなんだよお前!」
「楽しい!」
「魔法を使え!」
「エルベルトもだ! 魔法を使って攻撃してこい!」
「っ」
広場では4対1で稽古がつけられている。さすが師匠。強い。
「ねぇねぇ兄さん」
「んー? どうしたニコラ」
5人から少し離れた場所に座って観戦する私の隣で興味深そうにそれを見ていたニコラは私を見上げて何かを聞きたそうにしている。
「どうして兄さんの先輩たちは武器を使っているのに、師匠は使わないの?」
「師匠の手をよく見てごらん」
そう言って師匠を指差す。たしかに師匠は銃も剣も持っていない。しかし、何も持っていないわけではない。
「んー? あ、魔石!」
「正解。少佐たちの武器にも魔石が組み込まれてるんだけど、師匠は魔石だけを持ってるんだよ」
魔石だけを使って魔法を使うことは可能だ。そもそも魔獣は魔石だけを使って魔法を使っているのだから、それが人間にできない道理はない。
しかし魔法武器に比べると魔石だけの方が魔力消費量が多いので、軍では魔法武器を使用している。らしい。
だが、魔石だけで魔法を使うと魔法武器よりも使える魔法の種類が大幅に上がる。
まぁ師匠が武器を使わないのは、魔法武器が一般には流通してないから、というのもあるのだが。
「凄いねぇ! 兄さんもあんなふうに戦えるの?」
「できるよ〜。でも兄さんはのんびりしている方が好きかなぁ」
そう言いながら地面の土を使って小さな埴輪を作る。ニコラはそれに目を輝かせた。因みに兄さん、魔石使うと一瞬で壊しちゃうから使えないんだよ、とは言わなかった。ニコラはまだ私が希少種だということを知らない。
「凄い凄い! ねえ他には何が作れるの?」
頬を紅潮させて聞いてくるニコラ。そういえば軍に行く前はニコラに魔法を見せることはなかったな。訓練は攻撃魔法ばかりで、血みどろだったから子供には見せられなかったし。
「色々できるよ」
「じゃあ今師匠がやってるみたいに、土を球にして浮かせたりも?」
ニコラが師匠を指差しながら言う。師匠はの周りには水の球が無数に浮いていた。
「ん」
「おぉー! 凄い凄い!」
「これは魔法かけ続けなきゃいけないから、少し疲れるけどね」
「そうなの? あれ、でもさっきの埴輪は? あれも魔法かけ続けてるの?」
身を乗り出して聞いてくるニコラは不思議そうに首を傾げた。この年頃の子は色んなことに興味を抱くな。
「土の種類とかにもよるけどね。まず土は本来浮いてないでしょ?」
「うん」
「だから、魔法を解くと……」
浮かせていた球の魔法を1つだけ解く。すると土は地面に落ちて形を崩してしまう。
「こんな風になる。けどその埴輪は地面に立っていて、しかも形にも無理がない。この辺の土は水分が多いから一度固めると暫くは形を保つしね。だから壊れない」
「サラサラの土だと壊れるの?」
「魔法のかけ方にもよるけど、大体は」
シルヴィアを捕獲した場所の土は結構水分が少なく、中々固まらなかったからあの時はずっと魔法をかけてなきゃいけなかったんだよな……。懐かしい。
「魔法も大変だねぇ」
「万能ではないからね」
私が作った埴輪をツンツン突くニコラ。
「僕にも魔法が使えたらなぁ」
「どうして?」
「だってその方が強くなれるし、みんなを守れるもん」
「そうだねぇ」
単純な武力を考えると、どうしても通常種は有力種に劣る。それは仕様の無い事だ。
「まぁでも戦う方法は武力だけじゃないからね。頑張れ」
「頑張るー!」
「おーい、フィオーレー!」
幼く純粋な弟に和んでいたら唐突に師匠に呼ばれた。手招きをされているので埴輪を手に持ったニコラとともに近づく。
「こいつら治療してやって」
「いいですけど……ってボロボロじゃないですか! やりすぎですよ!?」
「今日は実力見ただけだって。いやぁ、お前いると多少手荒でも問題ないから良いな!」
かすり傷1つない師匠に対し、ほか四人は疲労もあるのだろうがボロボロだ。多少の手加減はあるのか、大きな怪我はないけれど。
エルくんから順にちゃちゃっと治癒魔法をかけてキズを治していく。ニコラは私の隣でそれを興味深そうに見ていた。
「今日の午後は俺お前らの訓練メニュー考えるから休みな。明日からは個人でやるから、ちゃんと武器の整備しとけよ。特にカルトス」
「おう!」




