三十五話 その4
「というのが出会いだな」
「本当に死にかけてたんですね……」
「おう」
「あの、師匠さんを撃った男と班員はどうなったんですか?」
一旦話を区切るとエルベルトが深いため息をついた。そして、バルドと呼ばれた青年はおずおずとそんなことを聞いてくる。ところで師匠さんって……。いやいいけど。
「処罰された。なんかヤバイことに手を染めてたらしくてな。どうも俺にそれを勘付かれたと思ったらしい」
「勘付いてたんですか?」
「いや全く」
とんだ災難である。
うわ、可哀想……とでも言いたげな4人に目を向けてから一度姿勢を整える。
「ここからが本番だ」
「え?」
「ここまでは俺の身の上話。ここからはフィオーレに関係する話だ」
勿論、お前らにもな。そう付け足せば4人の顔が強張った。
「フィオーレが希少種なのは知ってるな?」
「はい」
「そうか。なら続きを話すぞ」
訳あり、というのはフィオーレが希少種だということだった。
なるほど。希少種は珍しい。厄介な人間が欲しがるものだ。それならば知られたくはないだろう。
だからこの夫婦は住み込みで、訳有で、外に言い触らすことができない人物を探していたわけだ。そして俺がいたと。
しかもこの夫婦、軍人である親を使って俺の身元を調べていた。だからあっさりこんな訳ありを拾えたのだ。
兎にも角にも師匠となったからには色々教えなければならない。幸い、俺は魔法が得意だし、なんとかなるだろう、そう考えていた。
事態は俺が考えていたより深刻だった。
まず、改めて自己紹介をしたときのこと。
「ふぃおーれです! じゅっさいだよ!」
フィオーレは確かにそう言った。
「ちょっと待って」
エルミオが話に待ったをかける。俺はおとなしく口を噤んだ。
「貴方最初フィーちゃんのこと『5歳くらいの子供』って……」
「膨大過ぎる魔力は持ち主を傷つける。そのせいか、もしくは魔力が成長を妨げたのか、あいつの成長速度は遅かったんだよ。エルベルトは話の途中でおかしいって気がついてたろ」
そう話しかければエルベルトは真面目な顔で頷いた。
「この人が行方不明になったのは約5年前です。その時フィオーレの年齢が見た目通り5歳程度なら、今軍にいるのはおかしい」
そらそうだ。
「続けるぞ」
話には聞いていたが、ここまで見た目と実年齢に差があるとは思わなかった俺は医者に話を聞いた。
医者によればフィオーレの身体はボロボロで、生きていることが奇跡だという。無意識のうちに治癒魔法を使って魔力で傷つけられた身体を修復しているらしい。しかしこの均衡が崩れたら……。医者が苦しそうに言った。だからこそ魔力操作を教えなければならない。俺は早速医者をそばに置いたまま魔力操作を教えた。
ここでまた問題が起きた。
フィオーレは飲み込みが早かった。教えたことはスルスルできるようになる。座学は全然だが。魔法の実践はすぐに出来るようになった。
そうやって、教えて始めて数日経ったとき、魔力操作の練習として土で埴輪を作っていたフィオーレは突然蹲った。
どうかしたのかと俺と医者が近づいて見たのは、血を吐くフィオーレだった。大量の血を吐き続けるフィオーレ。
その様子に慌てた俺と医者は急いで手当を施した。医者の顔色は最悪だ。
俺の治癒魔法と医者の措置で治ったフィオーレはケロッとしていた。
俺は「何か身体に痛みなどの異常があったらすぐに言え」と言った。医者はハッとした表情を浮かべているのに対し、フィオーレは笑顔でこう言った。
「わたしにはもうつうかくないよ」
フィオーレには、痛覚がなかった。




