三十五話 その3
班員たちが去ったことで安心した俺は床に座り込んでいた。
「おにいさぁん!」
「おーおー、元気だな……」
先程軍人相手に嘘を突き通した子供は元気よく部屋に入ってきた。その後ろには医者と、一人の男性がついている。
「彼らは帰っていったよ。あとは義父さんに任せよう」
「君、傷は開いてないかな。少し見せてもらっていい?」
医者に傷を見せながら男の言葉に首を傾げる。
「あぁ……初めまして。私はここの領主をしているエリアル・カルヴィーノです。私の義父……妻のお父様は軍人なんです」
まじかよ。ここが領主の家だということにも驚きだが、その嫁の父が軍人ということにも驚きだ。夫人の方を見れば足元にいるあの子供と戯れていた。
「私はレベッカ・カルヴィーノよ。で、こっちが……」
「ふぃおーれ・かるゔぃーのだよ!」
俺を見つけた子供は領主の子供だったらしい。
取り敢えず傷口は開いていないと言われた俺は服を着直した。流石に領主の前で上裸はいやだった。
「ねぇねぇおにいさん!」
服を着た俺に子供が近づいてくる。
「おにいさんは、ぐんにもどる、の?」
「たぶん死んだことになってるから無理だなぁ」
「じゃあ、むしょく?」
「そうなるな……」
子供というのは、時に残酷である。事実だが。
というか、これからどうしようか。軍には戻れない。王都にはあいつらが居るからいけないし……。
考える俺の目の前に子供がたった。
「すみこみで、さんしょくごはんもつく、こどもに、まほうをおしえるおしごと、やらない?」
「へぇ……?」
「おやつもつくよ!」
なんとも子供らしい言葉に気を抜かれながら、領主でありこの子供の親である男に目をやった。
「この子の先生になってほしいんだ。ここに住み込んでね」
「ちゃんとお給料も出るわよ〜」
夫婦揃ってそんなことを言う。
魔法、ということはこの子供は有力種なんだろう。ならばその使い方を知るために教師を雇うのはわかる。しかし、それならばもっとちゃんとした人間を雇えばいい。こんな訳有の人間を雇うメリットは、どこにもない。
そんな疑心もあり、返答に困っていると、俺の表情から察したのか領主が口を開いた。
「こちらも訳ありでね。君が了承してくれると言うなら君の身の安全を保証しよう」
「……やります」
どのみち、俺にはそこまで他の道は残されていない。
「わぁい! ししょー!」
そんなに嬉しかったのか、抱きつこうとしたらしい子供が変な体勢でとまる。
「ししょうけがにんだったわ」
「おう」
抱きつかれたら激痛が走っただろう。
こうして俺はフィオーレの師匠となり、この場所にで生活することとなった。




