三十五話 その1
師匠の話
「さて、俺が拾われた経緯だな」
フィオーレが部屋を出たあと、俺は数年前のことを思い出しながら口を開いた。
あの日は土砂降りの雨が降っていた。この土地の山に魔獣らしき獣が出たと聞いた俺達の班はここに調査にやってきていた。
暫くの間山を散策し、足場が悪いからその日は調査を中断しようと思い、班長だった俺は班員に声をかけようと振り返り、その瞬間、俺は肩と脇腹に1発ずつ銃弾を食らった。しかも風魔法が付与してあったのか銃弾で撃たれたはずなのにそこから大きく切り傷ができた。
驚いて見た先には班員で、尚且つ同期だった男がいた。
体勢を崩した俺は背後にあった川に落ち、意識を失った。
どのくらい意識を失っていたかはわからないが、そこまで長い時間ではないと思う。雨で川が増水していて流れも急だったが、俺は下流の方で岩に引っかかってその衝撃で目が覚めた。奇跡だな。
死ぬ思いで川から這い上がり、周りに誰もいないことを確認してから山の中を進んだ。暫く進むと大き目の洞穴があったからそこに身を潜めた。
そして治癒魔法で致命傷な部分だけ少しずつ治していった。次意識を失えば恐らく死んでしまうと思って、寝ずに一晩、少しずつ、少しずつ。もちろん魔力にも限界があるから、全ては治らなかったが、朝になる頃には多少マシになっていた。
朝になって辺りが明るくなっても俺は動けなかった。川に流されたせいで体温は落ちているし、傷口に菌が入ったんだろうな、熱も出ていて意識が朦朧としていた。ただ自分はここで死ぬのかと、なんで撃たれたんだと考えていた。朝になる頃には魔力がカツカツになっていた。
そんな時、洞穴の入り口の方から地面を踏む音が聞こえた。
俺は自分の居場所がバレたかと顔を上げて入り口の方を見た。
洞穴の入り口から半分だけ顔を出して、5歳くらいの子供がこちらを見ていた。
俺はしばらくその子供と見つめ合った。
取り敢えず、朝日に反射して輝く色素の薄い髪も、紅い瞳も、あの男とは違っていたから、少しだけ警戒を解いた。
子供はじっと俺を見たあと、どこかに去っていった。
暫くするとその子供は再びやってきた。
今度は子供の後ろから男もこちらを覗いていた。なんか増えてた。
その男は大人で、俺の着ている服を見れば魔法軍とわかり、あいつらに連絡を取るかもしれないと考えて警戒を強めた。いつでも逃げられる様に立ち上がろうとしたら、男が駆け寄ってきた。
「傷だらけだ……。よく生きていたね」
「……」
「フィオーレくん、服脱がせて」
「あいあいさー!」
唐突に俺は上に着ていた軍服を子供に脱がされた。人生初めての追い剥ぎだった。
「これでよし。僕が見つけたのはただの傷だらけの男性だ。フィオーレくんが持っているのは子供にはよくわからない布」
「ぬの!」
「そうそう。さ、君。僕の家まで運ぶから背中に乗って。あと、治癒魔法はもう使わないで体力回復に努めて」
答える元気もなかったので大人しく背中に乗った。子供は布を変な掛け声とともに運んでいた。
俺の意識はそこで途絶えた。




