三十三話
カタカタと馬車が揺れ、窓から見える景色で私の地元へと向かって行っているのがわかる。
「……」
ここから飛び降りたら帰れたりしないかな……。職務怠慢で怒られるか。それは嫌だ。
窓から外の風景を見ていた私はそんなことを考えていた。嫌すぎる。地元に帰りたくない。何があるかわかったもんじゃない。
「ところで、なんで私は縛られてるんですかね」
「逃げようとするからだろ」
「さようですか……」
手首と足首をそれぞれ縛られた私に成す術はない。絶望。
暫くすれば馬車が静かに歩みを止めた。
目的地についた馬車から降りれば、緑豊かな土地が視界に広がった。そしてすぐそこには私が生まれ育った屋敷がある。降りる際、私を縛っていた縄は解かれた。
「ここです」
「大きいわね」
「土地だけはありますから」
一応仕事できているので玄関の扉をノックする。すると小さな塊が私に突進してきた。
「おかえりなさいっ兄さん!」
「ただいまニコラ」
突進してきたのは弟のニコラである。前に見たときより大きくなった。
「ようこそいらっしゃいました」
「どうぞ中へ」
ニコラに続いて玄関から顔を出した両親に促されて私達は中へと入った。
「泊まって頂くお部屋には後ほどご案内しますね」
「依頼のこともありますし、少しお話しましょう」
そう言う両親は私達を広間に通した。家の中はあまり変わっていない。あとニコラが私から離れない。
「まず依頼の件ですが……」
「お前らは何かする必要はない。こちらですでに駆除を済ませてある」
私達しかいなかった広間に響いたのは第三者の声。私にとっては久々に聞くそれ。
私達が入ったあと開け放たれていた広間の出入り口から入ってきたのは黒髪の男性だった。
「久しぶりだなぁ、馬鹿弟子?」
「お久しぶりです、師匠」
彼こそ私を数年間に渡って指導してきた鬼のような師匠であり、
「…………ロベルト兄さん…………?」
「あぁ。久しぶりだな、エルベルト」
死んだとされていたエルくんの兄である。




